第十二話 前世の因縁 2
「殺す? この私を?」
今度はクランヴィアが苦笑した。
「私はファルス神族の眷属で序列一位、あなたは二位。第一眷属の私が第二眷属のあなたに殺されるの?」
序列は強さを意味していた。つまり、クランヴィアの方がラーよりも強いということだ。
とはいえ、一位と二位ではそこまで実力に大差はない。常に対立していた二人は何度も戦ってきたが、決着がつくことがなかったのもそのためだ。
だからこそ、一方がもう一方を圧倒的な実力差で殺すことは不可能なのだ。
それなのに、ラーは「殺す」と言った。それでクランヴィアは苦笑したのだ。
しかし、今度はラーが苦笑する。
「お前を殺すことは簡単なことだ」
「!?」
次の瞬間、ラーを取り巻く気が変わった。
一気に禍々しいオーラーを発したのだ。しかも、クランヴィアのオーラーを遥かに凌駕している。
「……何をしたの? ラー」
クランヴィアはラーを睨んだ。
ラーの身体に尋常ではないことが起きたのは間違いない。
「お前と同じことをしただけだ」
ラーはその場から立ち上がると、背後の扉に向かってゆっくりと歩き出す。
「私も人間の血を飲んでみたのだ」
「なっ?」
「人間の血はいい。力がみなぎってくる」
両手を広げながらラーは恍惚した表情を浮かべる。
そんなラーの後ろ姿をクランヴィアは険しい視線で見つめた。
(ラーも人間の血で能力が上がる種族だったということね)
吸血鬼のように人間の血を飲む種族は多い。それが食用であれ、嗜好としてであれ、理由は様々だ。さらに血を飲むことによって能力や体力が上がる種族もいる。ラーはそのタイプだったのだ。
(それにしても、ここまで能力が上がるのは異常だわ。それに、この禍々しさは何?)
血を飲んで禍々しくなるのは明らかに変だ。
「答えはこれだ」
そんなクランヴィアの疑問を嘲るかのように、ラーは扉を開いた。
扉の先は大きな部屋となっていた。
「これは!」
そこには無数の人間の死体が積まれていた。しかも、全ての死体が干からびている。
ラーが人間の血を吸った残骸だろう。
しかし、クランヴィアは異様な点に気づく。
クランヴィアも人間の血を吸う。ただし、嗜好としてだ。だから、長年吸わなくても我慢できるし、血を吸う場合でも人間を殺すまでは摂取しない。地上を人間で増やすことが神々の意思だからだ。
そんな彼女だからこそ分かるのだ。仮に人間の全身の血を吸い尽くしたとしても、ここまで干からびることはないのだ。
「血だけを吸ったわけじゃないわね?」
さらにクランヴィアの表情が険しくなる。
「そのとおりだ。私は人間の血や養分、そして生気や魂までも吸うことができる。しかも、それを私のエネルギーにすることができるのだ」
魂まで吸い尽くす……人間は魂を吸われる時、恐怖や悲しみ、怒りを生み出す。それがラーを取り巻く禍々しいオーラーの正体だったのだ。
「血しか吸えないお前と違い、私は魂までも吸える。私の方が格段に上なのだ」
ラーは嘲るように大笑いをすると、暫し考え込んだ。
「そうだな……お前が血を吸う鬼、ヴァンパイアであれば、さしずめ私は奪魂使とでも名乗ろうか」
ラーもう一度大きく笑った。
それは圧倒的な実力差で勝てる自信の笑みだった。




