第十一話 前世の因縁 1
一万年前。
始祖の吸血鬼のクランヴィアはラーとの話し合いのため、冥々の大地に来ていた。
冥々の大地にはラーの居城があることは知っていたが、今まで来たことは一度もなかった。
「最初で最後にしたいのだけど」
クランヴィアは嫌味っぽく呟く。
「こちらとしてもそう願いたい」
ラーも嫌味で返した。
広く豪華な部屋に置かれた長テーブル。
その両端に二人の伝説上の者は座っていた。
伝説上の者とは、神代から生きてきて地上に残った者たちの総称だ。アスト大陸には十数人ほどいるようだが、全員を把握している者は誰もいない。
また、彼らと同じ種族もいない。伝説上の者は一種族、一個体なのだ。
そんな伝説上の者だが、歴史の表舞台に出てくることは殆どない。そのため、多くの人々からはその名の通り、「ただの伝説」だと思われている。
その存在を知っている者はほんの一握りの者たちだ。ただし、その者たちでさえ、彼らが何処にいるのか、何をしているのかまでは知らない。まさに伝説上の者たちなのだ。
その伝説上の者の二人が今、冥々の大地にいるのだ。
「それで、どういう風の吹き回し?」
クランヴィアは尋ねた。
ファルス神教を作って人間たちに広めるという提案をラーから受けていたからだ。
ラーは人間を蔑んでいたはずだ。それが人間たちにファルスの神々の偉業を広めるとは。その心変わりが知りたいのだ。
「人間は寿命も短く弱い種族だが、知能はまあまあ高い。それに繁殖力が高い種族だ。そのうちアスト大陸全土に広まるだろう。ファルス神族の素晴らしさを広めるのに、これほど便利な種族を使わない手はないと思ったのだ」
二人の任務は地上でファルス神族の威光を知らしめることだった。ただ、具体的に何をするのかは神々から示されておらず、全て一任されていた。
そんな二人だが、地上に残ってからすでに悠久の時が経っていた。その間、互いに対立を繰り返していたため、代行者として何も出来ていない。
だからこそ、ラーの心変わりを怪しみながらも、クランヴィアは提案を受け入れようと決めていた。
「人間に対してのあなたの考え方には賛同できないけど、人間に協力を求めることは良いことね」
クランヴィアは同意を示した。
しかし、ラーは残念そうに頭を横に振る。
「何を勘違いしている、クランヴィアよ。協力ではない、人間を支配するのだ」
「支配?」
「そうだ。神教を広め、国家をつくり、人間を支配する。それが私の考えだ」
「馬鹿なことを! そんなことが許されるはずがない」
クランヴィアはテーブルを両手で強く叩いた。
しかし、ラーは全く動じていない。
「人間の血を飲むお前が人間を擁護するとは。滑稽だな」
馬鹿にするかのようにラーは笑う。
「まぁ、いい。最初からお前を殺すつもりだった」
もう一度、ラーは笑った。
今度は残忍な笑みを浮かべながら。




