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夜鷹の夢  作者: 首藤環
一章
28/47

27 好奇心

 荷物の質量を錯覚するようなジンの軽い足取りは、とても静かに金属の通路を進む。


 足元の壁が不思議と微光を発しているが、基本的に太陽光の入る隙間もない〝塔〟の内部は暗い。


「早くしろ。この辺りに罠は無い」


 にもかかわらず、ジンは瓦礫や亀裂に一切引っ掛からずに通路を行く。


 《西風の息吹》も膝に喝を入れて起き上がり、高度な技術で整えられた凹凸の無い壁を伝って前進する。


 ジンは先導して右へ左へと長い無人の通路を歩き回る中、片手を上げて後続の進行を制した。


 ジンの聴覚は〝塔〟の守護者たるゴーレムの微小な駆動音を聞き取った。

 曲がり角の先の小ホールに二体。


 オリガが足音を慎重に消して近寄る。


「ゴーレムか?」

「ああ。この先に二体だ」


 殺した声での会話は庇護を受ける五人の耳には届かなかったが、声を上げるのは愚の骨頂だとは雰囲気で察知していた。


〝そのまま動くな〟


 目線だけで五人に警告して荷物を置くが早いか、ジンは疾走する。


 完全に無音でありながら、人ならざる速度で曲がり角を飛び出し地を蹴った。


 鈍い銀色をした首の無い一対のゴーレムは、命令を遂行しようと腕を上げて何かを放つ構えを取ったが、その先にジンは居ない。


 壁を蹴り天井を蹴り、ジンは縦横に空間を駆ける。


 ゴーレムの修正はまるで間に合わず、天井へ腕を向けた時にはジンはゴーレムの背後で両腕を引き絞っていた。


 鋼鉄をも貫くまでに練り上げられたジンの貫手が、一対のゴーレムの背にほぼ同時に刺さる。


 下層のゴーレムと言えど、古代の旧世界文明の技術の結晶であるその装甲の堅牢さは、人間が纏う鎧の類いとは比べるべくもない。

 クウリ達の装備するような並の剣では断つことなど不可能。

 オリガの剣のように名工に鍛えられ、精緻に研磨された名剣でやっとという具合のそれを、ジンの両手は易々と食い破った。


 金属を繋ぎ合わせた装甲がひしゃげてフレームが軋む音が鳴る。


 ゴーレムのボディが数回跳ねて関節や装甲板の隙間から白煙が漏れ出す。

 修繕と補給を何千回と受けては忠実に〝塔〟の警備を続けてきたゴーレムは動きを止めた。


 ジンは半分手を抜いてゴーレムを支え、努めて静かに置く。


 必殺の一撃によるものの他に雑音は起きず、微かな反響も薄れて〝塔〟の内部には完全な静寂が戻った。


「いいぞ。終わった」


 許可から何拍か置いてまずオリガが顔を出し、後から団子になって五人が出る。


 クレアが抜いたショートソードでゴーレムの残骸をつつこうとしたのをイリスが止めた。


「まだ……動くかも」


 ゴーレムという戦闘人形は何も〝塔〟に限って存在する物ではない。


 質量のある物質、特に耐久性において優れる土等を操る魔法使いが使役する事もある。

 複雑な制御が効かない上に支配下を離れると直ぐに崩れ挙動も鈍いが、一つの利点として機能が根本的に破壊されるまでは動き続けるという特性があり、故に囮や足止め用に使われる。


 焼かれようが手足がもぎ取られようが止まらない事がゴーレムの強み。

 イリスはその機能を知っていて、胸に穴が空いただけのゴーレムがいつ再起動するか分からないとクレアを止めたのだ。


「これはもう動かない」


 ジンが残骸を蹴飛ばす。


「……何故?」

「説明するだけ無駄だ。おそらく理解出来ない。そういうものだと思え」


 人の首を根本から落としたようなフォルムのボディはうんともすんとも言わずに足蹴にされるがままだ。

 得心はいかなくとも、先導者であり守護者であるジンにそう言われて返す言葉はない。


「硬い……最下級でもエルダーゴーレムはエルダーゴーレムでござるか……」


 ダガーナイフで引っ掻く伊織が装甲の硬さに舌を巻く。


「見た所、聖銀に似てるでござるが……対魔法金属ではないようでござる」


 あちこちを触って装甲の無い部位を探るが、表面はおろか、手足の関節も装甲と同じ金属で成形されており、彼女の手持ちの武器では、機能停止に追い込めないと知る。


「ほほう、これは一体でも拙者らには太刀打ち出来ぬでござるな」

「それが分かったからってどうしたってんだ?」


 除き込むクウリが首を傾げる。


「いやなに、ジンかオリガ殿とはぐれたが最後、この〝塔〟が拙者らの墓標になるでござるな」

「マジか」

「だからわたしは昨日から気が重かったのよ」

「まぁよ、ジンが倒してくれっから大丈夫だろ」


 どこまでも楽天的なクウリに、もはやクレアはやるせない怒りをぶつける気力も失せる。


「そう捨てたものでもありません」

「え?」

「楽しい事を考えましょう。これをバラして持って帰れば大儲けですよ!」


 満面の笑みで親指を立てて別の事を考えろとリマイトは元気付ける。


「フフッ……」


 かなり不味い状況でも指を折り皮算用をするリマイトにはオリガも吹き出した。


「君は面白い人だな。教会の助祭なのにとても現実的だ」

「死ぬ時は皇帝でも死にますからねぇ。生き延びられた時の事を考えてやる気を出しますよ」


 有象無象の男のように、オリガに微笑まれてしどろもどろになる事もなくリマイトは微笑み返して装甲を分解しようと四苦八苦する年少組を見やる。


「皆さん、ジンさんも待ってますので行きましょう」

「言い出しっぺなのに持ってかねえのか?」

「いえ、持ち帰るのは帰り道にしましょう。ねぇ、ジンさん」


 ジンは油断なく通路の先に耳を澄ましている。


「土産は帰りに買え」


 ぶっきらぼうにそう言い、荷物をオリガから受け取って背負い直すと先へと歩き始め、慌てて五人もそれを追いかける。


 必ずジンが先行して排除する一行がゴーレムと鉢合わせする事はなかった。

 少数で警備に当たるゴーレムは一撃の元に破壊され、蹴散らされた。



「フム……」


 体感時間で半日程探索を続け、破壊したゴーレムの数が二十を過ぎた辺りでジンが荷物を下ろした。


 一本道の先を睨み、手足を振って解す。


「来るのか?」

「ああ」


 いつもながら突然なジンの行動にも慣れてきたオリガが察して尋ねる。


「お前は後方の警戒をしろ」

「分かった」


 オリガは言われるままに最後尾へ移動して剣を抜く。


「ちょっとジン、何が来るっていうのよ」

「クレア、それは愚問でござる」


 年若い者はまだ状況を把握出来ずにいるが、伊織がジンの代わりに答えた。


「これだけ倒しておいて、こちらの存在を敵方に気取られていないとは甘い考えでござる」


 伊織の言う通り、警備を次々に撃破して侵攻する侵入者に対処するべく、〝塔〟内部の警戒レベルは一段階引き上がっていた。


「俺の荷物はお前が持て」

「おう!」


 身軽になったジンがコートの前を開ける。


「少し経ってから来い。特に伊織、お前はだ」


 大人三人が並んで歩ける通路の向こうから、不意にそよ風が吹いた。


 薄暗く見通しの悪い通路を凝視している伊織は肌が粟立つのを感じ、愛刀の握りを強めた。


 死角でゴーレムを倒されて技術を盗み見る機会を散々に焦らされた彼女の鼓動が高まる。


 戦闘の手を抜いていたのでもない。

 油断もない。

 しかし、本領の片鱗すら露見させずにいたジンがコートを緩めた。


 その中に何が隠れているのか。

 ほんの少しだけ、開帳される。


〝それが見ずにいられるか〟


 知らず知らずに伊織は唾を飲み下した。


 ジンが早足になり、徐々に速度を上げる。

 脚力には多少の自信がある伊織すら着いていけない。


 着いていけないなりに頑張っては走るが。


 その先には下半身が球体になった代わりに頭が生えたゴーレムが隊伍を成して押し寄せる。


 その数五十は下らない。


「うっ……」


 一体でも手強いゴーレムだったが、その上位種と思われる機体の集団に流石の伊織も足がすくむ。


 迎え撃つ構えを形成しようと隊列を組み変えるゴーレムの先頭へ、ジンが飢えた猛獣のように猛然と襲い掛かる。


 ジンの腕が消えたと錯覚するほどの神速で動き、風に煽られても揺れなかった漆黒のコートの裾が広がる。


 ジンが正面最前列のゴーレムを蹴飛ばしたかと思うと三等分になって吹き飛び、左右に居たゴーレムが斜めに両断され崩れる。


「は?」


 ジンの猛攻は続く。


 二列目のゴーレムからは列を乱して鋸状のブレードを腕から生やし振り翳すが、それを叩きつける前にジンに破壊される。

 迎撃をかわして肘から先が消えるような攻撃を放って進撃するジンの背後に動くゴーレムは残っていない。

 全てが機能を止めて鉄屑と化している。


 瞬殺。

 人間と強力なキメラのように圧倒的な戦闘力の差で蹂躙している。


「あれは……?」


 後方から俯瞰している伊織の目にも、ジンの動きを捉えきれないでいる。


 必死に目を凝らし、短く幅広と風変わりな剣のような物が両手に握られ、その刃が薄く発光しているとだけぼんやりと見えた。


 それも暗い通路という好条件によってだ。

 明るければまず視認出来ないであろう。


 光の刃が無尽蔵に飛び回りゴーレムを寸断して突き進む。

 剣戟自体に隙らしい隙もないが、柔軟で自由な体術が僅かな呼吸の間隔を埋めている。


 円運動を行ったかと思えば鋭角的な軌道を描いて光の双剣はゴーレムを断つ。


 ガラクタを量産する死の舞踏が二十余の列を食い破り突き抜けると、また少し広いスペースに出た。


 その中には八体のゴーレムが待ち構えていたが、瞬く間に薙ぎ倒す。


 しかし、壁には人がしゃがめば入り込めそうな丸い穴が設けられており、そこから金属の球が転がり出た。

 球は変形してゴーレムとなる。

 同じようにしてゴーレムが続々と湧き出す。


 だが、二体や三体では障害になり得ない。


 展開する前の球体のゴーレムを切り刻み、再びコートの下へ得物を隠すと、いざ出撃と穴から出ようとする球体を蹴り砕いて間髪入れずに脚で押し込む。


 黒板を引っ掻くにも似た耳障りな音と火花を散らして脚が付け根まで埋まる。

 ジンはフロアに転がるゴーレムの残骸を掴んだ。


 手にした一抱えほどの残骸を壁の穴へと投げ込んだ。

 ゴミの豪速球を拾っては投げ、拾っては投げ、穴が埋まると乱暴に蹴り込んで更に詰め込む。


 まるで意図的に便器を詰まらせているような過程をこれでもかと繰り返し、止めに、変形する前に球体のまま真っ二つにしたゴーレムを蓋代わりにした。


 これを元の状態に復元するのは手間が掛かる。


「終わったのか……?」


 頬を軽く赤らめて追いついた伊織が訊く。


「もう役には立たないだろう」


 ジンは半球の蓋を足形が付くほどに強烈に蹴りつける。


 止める術は無いかとも伊織には思えたようなゴーレムの氾濫に終止符が打たれた。

 乱暴な力業でという修飾語は付いてしまうが。 


 ジンがコートのジッパーを閉じて伊織ははたと気付いた。


〝しまった〟


 何も技を盗めていない。


 しかし、彼女は残骸だらけの小ホールを見回し、二つの意味で赤面した。


 ジンの忠告を聞かずに着いてきた挙げ句、堂々とジンに話掛けてしまった。



 伊織としてはそれよりも、技を盗むも何も、ジンが何を行い、どのような技術を行使していたかなど、九割九分九厘は知覚出来なかった事が重大だった。


 二足歩行を覚えたての幼子がいきなりアクロバティックな跳躍をしたがるような事。


 これ程までに練り上げた体技を見ただけで真似ようなどと軽々しく考えていた自分の浅はかさを伊織は恥じていた。


 塞がれた横穴を伊織は見る。


 多くのゴーレムを殲滅し、ここまで適切な対応を取れるSが何人居るのか。


 最早住む世界が違う。


 そう痛感して立ち尽くす。


 一方、ジンはゴーレムの事などどうでもよく、別の事に気を回していた。

 自分のミスを吟味し、そのリカバリーにとるべき行動を考えてこの即席パーティーが崩壊しないギリギリのラインで動く事にした。


 他の四人が合流する前に手早く済ますというシンプルな方針の元、ジンが伊織の奥襟を持って吊り上げた。

 同時に口を塞ぐのも忘れない。


「っ!?」


 突然の事に伊織は反射的に四肢をばたつかせて暴れる。

 しかし、その手足もあっという間に鋼線で束ねられて封じられた。


 すわ裏切りかと、慌てている心理を目は雄弁に語る。


 ジンは小ホールの角に伊織を押し付ける。

 荷物がクッションになり痛くはなかった。


 前髪同士が触れ合う距離でジンは低い声で言う。


「何故着いてきた」 


〝何故着いて来させてしまった〟


 叱責を胸の内で反射させた。

 ジンは伊織の好奇心と自制心を天秤にかけたつもりでいたが見誤った。

 そこそこキナ臭い自分に首を突っ込もうとは誤算だった。


 伊織の若さ故の青い冒険心。

 そしてそれを防げなかった自分の未熟を内心で自戒する。


 戦闘中に敵勢の他に注意を割く能力がハザウェイほど高くないとは少なからず自覚があったが対処を怠った自分の怠慢だ。


 どこから話が漏れるか知れたものではないのが世の中の常だ。

 蟻の穴から堤も崩れるという言葉もある。


「むぐぐ……」


 無駄な抵抗をやめて何か言おうとして伊織は押さえられた唇を震わす。


「手は離すがその前に息を吐け。息は大きく吸うな」 


 命令的な言葉に伊織は眼球の動きで了解を示した。

 鼻から息を吐く伊織の胸が萎んでゆくのを観察してジンは手を離す。


「言い付けを破って済まなかったでござる……」

「そこはもうどうでもいい。もうその段階を超えている」


 見ようとした事を今更詫びられてもしょうがない。

 問題はその後だ。


「何を見た。どこまで見えた。吐け」


 苛立ち紛れのように足元の照明を蹴って割った。

 伊織のが身を竦めて目を回す。


 呼吸の制限と動揺による心拍数の跳ね上がりで思考が纏まっていない。


 手に伝わる微細な体調の変化をジンは読み取っている。


 凶暴性を見せつける行為もある意味全てブラフ。

 嘘を吐くことに慣れた者でも、強い心理的ストレスを与えれば顔は変わらずとも体が御しきれない。


 その為の暴力(演技)だ。


「光る短剣のようなものしか……見ていない」


 いつもの口調も忘れ、しどろもどろで何度も目を逸らして絞り出した声で伊織は言った。


 ジンは額を当てた。

 目に掛かった前髪を挟んで瞳を覗きこむ。


 見つめること数秒、ジンは襟を離した。

 手足を固める鋼線も解く。


 ジンは伊織に嘘は無かったと最終的な判断を下した。


 伊織はとにもかくにも深く息を吸った。


「済まない。状況如何では対処を考える必要があった為に正直な答えが欲しかった」


 ジンも息を吸った。

 不幸中の幸いか、秘密を見抜くだけの眼力を伊織は修得していなかった。


 堤は蟻の顎には堅かったらしい。


「何が何やら分からぬが、悪いのは命令に叛き、欲望に任せて冒険者の暗黙のルールを破った拙者でござる。どうかこの通り……」


 伊織が縮こまって頭を深々と下げる。


「だから皆を見捨てないで欲しいでござる……」


 ジンには伊織の言っている意味が分からなかった。


「一度背負ったものを投げ出す野郎は男じゃない。五体満足で生還させるさ。お前もだ」


 現在の一行のような臨時パーティーは背中を預けるといっても、所詮は仮初めの仲間。

 情報を秘匿しながら背中を預ける脆い信頼を積み重ねて成り立っている。

 伊織のやった出歯亀行為はその積み重ねを根底から揺るがしかねなかった。

 冒険者として、犯すべからざるマナーに抵触する。

 まずもってパーティーは空中分解し、相手が悪ければ即刻殺されることもあり得た。


 だがジンはペナルティを科しもしなかった。


 その優しさが伊織の罪悪感を掻き立てる。

 心境を吐き出そうと言葉を選ぶ内に、複数の足音が通路から現れる。


 破壊劇の爪痕が散らばる通路を恐る恐る這い出したのは、勿論、ジンと伊織を除く五人だ。


「オリガ。警戒御苦労だった」

「ああ……」


 オリガは直剣を納め、顎に滴る珠のような汗を手の甲で弾き飛ばす。

 最後尾を預かった重圧に、オリガは精神的に消耗している。


 ゴーレムが複数で襲い掛かってきた場合、ジンが先頭で交戦中であれば死ぬかそれに近い末路になるとオリガは自分の実力とゴーレムの手強さを比べて見積もっていた。

 そして、挟撃を受ける可能性は多いにある。


 冷静に状況を把握しているのとストレスを溜めない事は別だ。


「最後尾は交代だ」


「すげえ! すげえぜジン! 一人で全部倒しちまったのかよ!」


 気楽なクウリは小躍りして歓声を上げる。


「凄いは凄いけど……」

「……これは……もう異常な戦闘力……」


 イリスがゴーレムの切り口に触れてみれば恐ろしく鋭利な刃が切り裂いたように角が立っている。

 ボディのあらゆるパーツ、中には刃が滑るような曲面の部分もあるが、それは変わらない。

 桁外れの剣速と並々ならぬ剛剣の組み合わせがゴーレムを機能停止に至らしめたのは誰がどう見ても一目瞭然だった。


 口にはしないがイリスとクレアは戸惑いを感じていた。

 

 不干渉が不文律の冒険者の掟だが、未知への探求心と警戒心は冒険者の性。

 冒険者として生活していない実力者も多くいるが、ここまで腕の立つ男がいて何の噂も流れない事は異常だ。

 情報の保全体制がとられている環境で練磨させた。

 そんな事が可能な国家や組織はこのご時世ほぼない。

 二人の考察は奇しくも一致していた。


 ジンは何者か。

 帝国の極秘戦力か。

 存在がまことしやかに囁かれる暗殺ギルドの暗殺者か。


「非公式なのが惜しく思えますねぇ」

「だよなぁ! 俺らとあんまりかわらねぇ歳なのによお!」


 リマイトの賛辞に乗ってクウリは明るくジンを讃える。


 はしゃぐクウリの若い元気は微笑ましい。

 

 伊織もイリスもクレアも、纏めて毒気を抜かれてしまった。

 底抜けに真っ直ぐな笑い声がうろんな推察と霧散させる。

 

 一行に朗らかな雰囲気が戻った。


 和やかに盛り上がるクウリの肩にジンが腕を掛ける。


「クウリ」

「ん? どした?」

「お前は凄い。俺にやれないことをやれる」

「何のこと言ってんだ?」

「お前の能天気さに全員が救われているって話だ」


 ジンは自分の荷物を受け取って背負い直した。


「?」


 クウリは首を傾げる。


 離れ際にジンはリマイトと目を合わせた。


「行くぞ。伊織が最後尾だ」

「分かったでござる」

「もうすぐ開けた場所に出る筈だ」


 応、と威勢のいい返事でクウリが拳を振り上げた。


 再びジンが先頭に立って道を進む。


 今度はリマイトが鼻歌を口ずさみ普段通りの様子で横に並んだ。


「さっきは助かった」

「いえいえ」


 潜められた小声の短い会話だけでリマイトは下がった。


〝フム……〟


 ハザウェイが紹介するだけの事はある。

 普段のリマイトは金遣いも荒く女癖の悪いふざけた男だが、パーティー内の年長者としての観察眼と機転に長けている。

 クウリの明るさを良い方向へ転がるように陰ながら支えている。


 冒険を楽しみながらも、取り返しのつかない大事になる前に火消し役になっているようだ。

 治癒魔法使いであの外見年齢ということは、最年長で間違いない。

 のらりくらりと子供を上手く制御する大人というやつだ。


 成る程、この若いパーティーには丁度良い人材だと、発掘してきたハザウェイの手腕にもジンは同時に感心する。


「何かあったのか?」


 次はオリガがやって来て聞いた。


「ああ。俺の戦闘を伊織が覗いていた」

「……見られたのか?」


 平静を保ちつつもオリガは声を抑える。


「いや。見切れなかったようだ。念のため軽く尋問したが嘘は吐いてない」

「そうか」


 オリガもそれだけの短い会話で下がる。


 それからほどなくして、通路のしばらく先が明るくなってきた。


 連日更新じゃい!


 頑張りました……。

 塔編は残り二、三話で終わりの予定です。


 《西風の息吹》の五人にとっての塔内の危険度を例えると、危険な肉食動物がうじゃうじゃいる森を果物ナイフだけ持って散歩している位ですね。


 ではまた次回。

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