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夜鷹の夢  作者: 首藤環
一章
24/47

23 酒と涙と

 アンヴィルの若手からベテランまでが集う《戦乙女の部屋亭》には、マルコの葬儀を終えたその足でやって来た冒険者が弔い酒を煽っていた。

 あるものは静かに酌み交わし、またあるものは思い出を語り合って盛大に泣き、それぞれが自分の思う方法で偉大な男を送り出している。

 かなり若いパーティーに分類される《西風の息吹》も当然のように、真っ昼間からかなりのハイペースで酒を飲んでいた。


「なんでだよバカヤロー!!」


 クウリがテーブルに頭を打ち付けて悲しみを露にする。

 結構な騒音となっているが、辺りはどこのテーブルも似たような騒ぎなので見咎める者はない。

 隣のクレアもジョッキのビールを一気飲みして沈んだ心を払おうとしているが、あまり効果はなさそうだ。


「早すぎるわよ……」


 串焼き肉を食べても味が分からないほどに落ち込んでいる。


「…………」


 イリスは普段にも増してだんまりでフードを深く被り、ゆったりした袖の中の手も動いていない。


 そんな暗澹たる顔の三人の向かいの椅子に座る年長組も、いつもはあんなにも美味い酒が今日は進まない。


「そうですねぇ……いつか人は世を去りますが、マルコさんはまだその時ではありませんでした」

「無情でござるなあ…… 」


 伊織の耳に聴こえるのは慟哭と啜り泣きと嗚咽だけで、気が晴れる訳もない。

 すわ、ここに来たのは失敗だったかとしんみり考えてツマミのクラッカーに手を伸ばした伊織とリマイトに声が掛かった。


「やはりここに居たか」


 パンくずや酒瓶のコルクが散らかる通路に、初めからそこにいたようにジンとオリガはいた。


 俯く五人が顔を上げて声の主、オリガに気が付いた。


「おや? ジンさんオリガさん」


 軽く会釈したリマイトがとりあえず相席を薦める。


「さっきは父さんとサラさんを治してくれて助かったよ。ありがとう」

「そしてマルコを救えなかった。俺がもう少し急いで向かえば助けられた筈だった」


 深々とオリガが頭を下げてからジンも腰を下ろした。


 その詫びように五人は呆気にとられる。


「なぜ、あなた達が謝るの?」


 クレアは甚だしく疑問に思った。

 何ゆえこの二人が頭を下げるのか。


 どこまでランクが上がろうが、どれだけランクが低かろうが、冒険者という職を選んだ者には自己責任の四文字が付随する。

 重責も冒険者が選択した立場に即したものだ。

 それをどうこう言う人物は、冒険者として不適格だ。


「ルカ村まで数日で行くなど……そもそも無理だったのでござるよ」


 伏せ目がちにジョッキを弄ぶ伊織が口にしたそれは、西から東へと旅をする冒険者の共通認識だ。

 

 依頼を受けたその日に馬を潰す勢いで猛進しても、マルコの死と村の滅びは絶対に免れなかっただろう。

 それほどの距離があるルカ村まで行き、依頼を達成した上で十日と掛からず帰還した二人、《暁の夜鷹》を賞賛こそすれ、罵声を浴びせるなどありえない。

 オートモービルを駆って移動していると、五人は風の噂に聞いてはいるが、足が速くはなっても限度がある。


「違う。依頼を完璧にこなせなかった。人員を一人でも失ったなら、それは失敗だ」

「一番頑張ったジンが……なんでそんな事言うんだよ!?」

「俺はそうあらなければならない」


 肘をテーブルに置いて顔の前で手を組む。


「俺にはそれを実現するに足る能力が有るからだ」


〝それが、俺が選んだ生き方〟


 大いなる力につきまとう責任を承知で自ら望んで決めた道だ。

 そこに後悔や悲観は一切無い。


「憐れむのではござらんが、ジンも……これまで苛烈な生を歩んで来たのでござろうな……」


 クウリはまたビールを一口飲む。


「ジンは何も悪くねえ……。第一、オレ達だって何も出来なかったんだぜ。あんなにマルコに助けてもらったってのに……なのにオレは……オレはぁっ!!」


 悲哀を叫ぶクウリは天井を見つめ、目尻から涙を溢す。


「なんでだよ……まだなんの恩返しも出来てねえのに……」

「フム……ランクが大分違うが、深い仲だったようだな」

「そうですねぇ……私と伊織は創立メンバーではないのでなんとも言えませんが……三人には冒険者としての教師にあたる方です」


 目深に被ったイリスのフードが揺れ、力なく掠れた小声が囁かれる。


「……そう……あの人が居なければ……わたしたちは絶対……四年前に死んでた」


 腕を組んで静聴していたオリガはふと顔を上げるとジンと視線が交わった。


〝四年前となると……ギルドナイトに任命される直前か〟


「その頃はマルコがまだ通常の冒険者で、よく遠出していた筈だ。そこで出会ったんだろう」


 オリガの注釈を理解したジンが頷く。


「そうか……では教えてくれ。マルコはどんな男だったかを」

「ええ、伝えるわ。私たちにはマルコさんの事を伝える義務があるのよ。だから聞いて頂戴」


 ジョッキの半分まで残るすっかりぬるくなってしまったビールがあるが、クレアは構わず置いて真摯な眼差しでジンを見据えた。


 年少組三人の生い立ちと今に至るまでのあらましを、落ちついた声色でこう始めた。




「わたし達三人はーーーーーーーーーーーー奴隷だったの」







バトルにもっていく執筆時間が無いし展開がアレなんで今回プラスもう一話挟みます。


私も早く戦闘シーンに入りたくてウズウズしてるので頑張ります。




ご意見感想誤字脱字の指摘などお待ちしてます。

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