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『剣と魔法の異世界で、俺の宇宙船だけ文明レベルが違いすぎる ~最新鋭艦の船長と10体のアンドロイド兄弟の異世界航海記~』  作者: あちゅ和尚


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第31話 九十年前の兵士は、四年後にも反応

「見つかりました」


 オルフェンからその知らせを受けたのは、北西街道監視所へ照会を出してから二日後だった。


 場所はエルディアの執政所。


 航平の前へ置かれたのは、九十年前の軍務記録ではない。


 北西街道沿いにあった小神殿の施療記録、その写しだった。


「例の兵士の名前はセルグ・バラン。当時二十九歳。遺跡警戒任務の四年後、北西街道監視所へ転属しています」


 オルフェンが頁をめくる。


「転属から七か月後。もう一度、神殿の診察を受けていました」


 航平の隣でスリードが身を乗り出した。


「症状は?」


「身体の重さ、右手の指先の痺れ。発熱なし。外傷なし」


 四年前とよく似ている。


 それだけなら、偶然でも説明できる。


 だが次の一行で、航平の目が止まった。


「六枚……全部か」


「はい」


 生脈を確認する六枚の基礎試験板。


 セルグ・バランは再び、そのすべてへ弱い反応を示していた。


 四年前、《古き門》の発光直前に記録された状態と同じだった。


 ただし今度は――


「北西街道監視所の近くに、《古き門》はありません」


 オルフェンが言った。


 航平はすぐに地図を確認する。


 監視所は山脈の西側を抜ける旧街道沿い。


 《古き門》からはかなり離れている。


「現在知られている古代転移遺跡は?」


「ありません」


「現役の転移門も?」


「もっと離れています」


 ハルヴェンが別の記録を差し出した。


「こちらも三日で消えたのですか?」


 スリードが尋ねる。


「今回は翌朝にはかなり弱まり、二日後には通常範囲へ戻ったとあります」


「四年前の異常がそのまま残っていたわけではない」


「記録を信じるなら、再び現れたことになります」


 航平は椅子へ深く座った。


 九十年前の一度目。


 セルグの身体に異常が出る。


 六枚すべてへ弱い反応。


 その後、《古き門》が発光。


 四年後。


 門から離れた場所で、また同じような身体症状と六枚反応。


「二度目の時、何があった?」


 ワンスが尋ねた。


「そこが少し気になります」


 オルフェンは軍の勤務記録を開いた。


「診察を受ける前日から、監視所の周辺で街道補修が行われています」


「ただの道路工事?」


「大雨で斜面が崩れました。埋まった側溝を掘り直し、路肩を補修しています」


 セルグはその作業の警備担当だった。


 日中は補修現場に立ち、夕方に監視所へ戻ったあと、身体の重さを訴えた。


 航平は記録を追う。


「その現場で何か見つかってるな」


 オルフェンが頷いた。


「大きな古い石です」


     ◇


 記録には、奇妙な一文が残っていた。


 斜面から出土した平たい灰黒色の石。


 長さは人の背丈ほど。


 厚さは手の幅ほど。


 加工痕があるように見えたが、文字も紋章もなく、街道補修には使いにくかった。


 そのため、側溝の脇へ移された。


「これだけなら珍しくないんじゃないか?」


 航平が言う。


「古い街道なら、昔の石材が出ることもあるだろう」


「その通りです」


 オルフェンは別の頁を示す。


「ただ、この石にはもう一つ記録があります」


 地元の石工が割ろうとした。


 割れなかった。


 鉄槌では表面がわずかに欠けるだけで、火を当てても目立った変化がない。


 結局、利用を諦めた。


「今も残ってる?」


「それを確認するため、監視所へ問い合わせました」


 返答はすでに来ていた。


 石はある。


 九十年前に置かれた場所から何度か移動したものの、現在も旧監視所近くの排水溝脇に使われているという。


 航平はワンスを見る。


「現物を見たい」


「同意します。ただし、人間を近づける必要はないでしょう」


「ああ」


 セルグの二度目の異常と関係があるのかは分からない。


 分からないからこそ、最初は無人で見るべきだった。


「オルフェン」


「すでに現地へ話は通してあります」


「仕事が早いな」


「昨日、あなたが行きたがるだろうと思いまして」


 航平は少し笑った。


「読まれてる」


「最近は多少」


     ◇


 北西街道監視所まで、人間は連れて行かなかった。


 シクサが無人小艇を遠隔操縦し、セヴンの偵察ドローンを積む。


 ファイヴは本船から分析。


 航平、ワンス、スリードはエルディア側で映像を見る。


 セルグと同じ人間側の条件を、最初から加える必要はない。


「現地到着」


 シクサの声。


 映像に古い街道が映る。


 今も使われている道の脇に、小さな監視所が建っている。


 その少し外側。


 排水溝をまたぐように、灰黒色の平板が置かれていた。


「記録の寸法と近いです」


 ワンスが確認する。


 九十年間で端は摩耗している。


 苔も付いている。


 だが、割れてはいない。


「セヴン。まず周囲だけ」


『了解』


 ドローンが高度を落とす。


 石そのものへ触れず、外側から可視光、赤外、簡易分光、表面形状を取る。


 数値が本船へ送られる。


 ファイヴがすぐに比較を始めた。


『船長。古き門の石材データを重ねます』


「似てる?」


『かなり』


 航平は画面を見る。


 元素組成だけなら一致しない部分もある。


 九十年間、地表で雨風にさらされ、表面には別の物質も付着している。


 それでも内部に近い箇所から得た分光特性には、見覚えのある特徴があった。


『自然岩としては説明しにくい層構造も確認できます』


「古き門と同じ物?」


『同一材と断定するには試料採取が必要です。ただ、比較対象としては非常に近い』


「周辺の岩と比べてくれ」


 セヴンが近くの自然岩も同じ方法で測る。


 結果は明確に違った。


 灰黒色の平板だけが、異質だった。


「距離異常は?」


 航平が尋ねる。


『現時点では確認できません』


 ファイヴが答える。


 《古き門》の中心で見られた約2.3メートル相当の余分な測距遅延。


 この石にはない。


「魔力応答は?」


『受動観測では目立った変化なし。周囲の魔力場も平常範囲です』


 ただの材料なのか。


 壊れた装置の一部なのか。


 そもそも《古き門》と同じ文明の物なのか。


 そこまでは分からない。


 だが、一つだけはっきりした。


 九十年前にセルグが二度目の異常を起こした場所の近くには、《古き門》に使われた石材とよく似た人工物らしき石があった。


     ◇


「セルグは、この石へ触れた記録がありますか?」


 スリードが尋ねた。


 オルフェンが勤務記録を再確認する。


「ありません」


「近くにいたことは?」


「補修現場の警備担当なので、それは間違いありません。ただ、どの距離まで近づいたかは残っていません」


 航平は頷いた。


 十分だった。


 ここで「石が原因だった」と決めれば、また順番を間違える。


「セルグが石に反応した可能性はある。でも逆もあるし、偶然同じ場所にあっただけかもしれない」


「はい」


 スリードも同意する。


「ただ、門から離れた場所で二度目の異常が起きた理由を探す候補にはなります」


 ワンスが地図を開いた。


「この石がどこから出たか、記録には?」


「斜面崩落で露出した、とだけ」


 オルフェンが答える。


「街道が作られる以前から埋まっていた可能性もあります」


「古い道はどこへ続いてる?」


 航平の問いに、オルフェンが別の地図を出した。


 現在の街道とは少し違う。


 古い道筋。


 山を避け、尾根と川沿いをつないで西へ延びている。


「今は使われていない区間もあります」


「古代の道?」


「そこまでは分かりません。ただ、現在の王国が整備する前から道はあったとされています」


 ワンスが《古き門》の位置を重ねる。


 航平は地図をしばらく見た。


「門のある遺跡と、この石が出た地点。古い道でつながってる?」


「直接ではありません」


 オルフェンが答える。


「ただ、支道を含めれば同じ山域から西へ抜ける系統です」


 航平は画面を拡大した。


 古代文明が転移門だけを作っていたとは限らない。


 道。


 拠点。


 標識。


 建物。


 もし《古き門》が一つの巨大な施設の一部だったなら、その文明が残した物は別の場所にもある。


「探す対象を変えよう」


 航平が言った。


「門と同じ形の遺跡だけじゃない。同じ材料を使った古い構造物も候補に入れる」


 ファイヴから通信が入る。


『材料の特徴を基準にした探索なら、遠距離からでもある程度絞り込める可能性があります』


「セヴンのドローンで?」


『近距離なら。広域なら小艇のセンサーを使った方が効率的です』


「町や街道の上を勝手に飛び回るのはなしだ」


 ワンスが続ける。


「オルフェン殿と探索範囲を調整する必要がありますね」


「そうしよう」


 技術があるから、好きな場所を調べていいわけではない。


 だが許可が取れるなら、探し方は大きく変わる。


     ◇


 無人小艇を戻したあと、オルフェンは古い街道図をもう一枚持ってきた。


「気になる記号があります」


 航平が覗き込む。


 街道沿いの数か所に、小さな丸印。


「何を示してる?」


「分かりません」


「分からない記号を地図に残したのか?」


「この地図自体が、さらに古い地図の写しなんです」


 現在の役所が作ったものではない。


 数百年前。


 街道を再整備した際、当時すでに存在していた旧道図を書き写したものだという。


「丸印の場所には何がある?」


「現在も確認できるのは三か所です」


 一つは、今回の灰黒色の石が出た北西街道。


 残る二つは、今では使われていない旧道沿い。


 航平は地図を見る。


 《古き門》そのものに丸印はない。


 だから同じ施設を示す記号とは限らない。


 だが、北西街道の地点だけは一致している。


「これは調べる価値があるな」


 オルフェンも否定しなかった。


「ただし、一か所は領外に近い」


「なら後回しでいい。まず許可を取れる場所から」


 航平は地図をワンスへ渡した。


「順番を組んでくれ。人間は近づけない。最初は無人だけ」


「承知しました」


 セルグ・バランを追って見つかったのは、その男の答えではなかった。


 九十年前の兵士は、《古き門》から離れた場所でも再び六枚すべてへ反応した。


 その近くからは、《古き門》とよく似た材料の人工物らしき石が出ている。


 そして古い街道図には、同じ地点を含む三つの丸印が残っていた。


 航平は地図を見ながら、ようやく一つだけ確信した。


 探すべきものは、山中の石環一つではない。


 古代の何かは、もっと広い範囲に残っている。




────────────────── YouTubeショート動画作ってみました。 https://youtube.com/shorts/9GLwTygoDf0?si=78DTsosNQTR8DuE9

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