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『剣と魔法の異世界で、俺の宇宙船だけ文明レベルが違いすぎる ~最新鋭艦の船長と10体のアンドロイド兄弟の異世界航海記~』  作者: あちゅ和尚


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第25話 宇宙船で作った鉄で、魔道具が動いた

「点きました」


 ハルヴェンが魔力を流した瞬間、作業台の中央で灯石が青白く輝いた。


 航平は光ではなく、脇に置いた測定器を見る。


 10秒。


 導魔片の温度は安定。


 20秒。


 魔力応答に大きな乱れはない。


 30秒を過ぎても、灯石は同じ明るさを保っていた。


「フォルド、状態は?」


「異常加熱なし。変形も確認できません。魔力の伝達も継続しています」


「一度止めよう」


 ハルヴェンが魔力を切ると、灯石の光が静かに消えた。


 神殿で以前から使われている、小型の灯石試験器具。


 交換したのは中央に収まる細長い導魔片だけだ。


 元はエルディアで捨てられていた炉滓。


 そこから船内設備で鉄を回収し、分離された微細粒子の一部を条件を変えながら戻した。


 小さな試験片では、魔力への応答が明らかに改善した。


 今度は実際の魔道具で確かめた。


 結果は、目の前にある。


「ちゃんと仕事はしたな」


 航平が器具を見る。


「一度動いただけです」


 カーラがすぐに返した。


「ああ。だから合格とは言ってない」


 同じ条件で作った導魔片は三枚ある。


 完全に同一ではないが、船内での事前測定では似た傾向を示していた。


 一方、比較用として用意された現地製の導魔片にも個体差がある。


「次は現地製でお願いします」


 カーラが言った。


 ハルヴェンが部品を交換する。


 同じ器具。


 同じ灯石。


 可能な限り同じ条件で魔力を流す。


 再び青白い光が灯った。


 数十秒後、カーラが測定結果を確認する。


「現地製の方が効率は上です」


「差は?」


「大きくはありません。ただ、安定してこちらを上回っています」


 航平は素直に頷いた。


「数日調べただけで、現地の職人を追い越せるほど甘くはないか」


「その見方でいいと思います」


 むしろ航平には納得できる結果だった。


 この世界の鍛冶師や術具師は、魔力が馴染む鉱石を何世代も使ってきた。


 産地で選び、炉の状態を見て、叩いた音や色まで確かめて仕上げている。


 理論の呼び方が違うだけで、積み重ねてきた技術がある。


「ただし、こちらにも特徴があります」


 フォルドが表示を切り替えた。


 三枚の船製導魔片の測定値。


 どれも完全には一致していない。


 それでも、現地製の三枚と比べると差は小さかった。


「同じ傾向へ寄せられてるな」


「はい。現段階では三枚だけですが、加工条件を固定することで特性を一定範囲に収められる可能性があります」


「そこは地球圏の工業が得意なところか」


「量産可能と判断するには早いですが」


「分かってる。三枚で工場の看板は出さない」


 カーラが続ける。


「今の価値は、最高性能より再現性です。同じ原料、同じ配合、同じ工程で、どこまで同じ性質に寄せられるか」


 ハルヴェンが二種類の導魔片を見比べた。


「こちらでは、術具師が材料を一枚ずつ確かめて使います」


「全部?」


「特に重要な器具なら。良い鍛冶師が作った物でも、魔力の馴染み方は少しずつ違いますから」


「その違いを見て、使う場所を決めるわけか」


「そうです」


 航平は納得した。


 現地のやり方は劣っているわけではない。


 ばらつくことを前提に、職人が適材適所へ振り分けている。


 こちらは逆だ。


 最初からばらつきを減らせる工程を探す。


「どっちも使えるな」


 航平が言った。


「何がです?」


「向こうの見極め方と、こっちの作り方だ」


 それ以上は説明しなかった。


 まず確認するべきことが残っている。


「ハルヴェン。この器具の場合、どのくらい使えれば実用品として信用できる?」


「私より、術具師へ聞いた方が正確です」


「紹介してもらえるか?」


「ちょうど神殿の器具を修理している者がいます」


     ◇


 午後。


 神殿へ呼ばれた術具師は、ベイルと名乗った。


 50歳ほど。


 細身だが、指は鍛冶職人のように太く、爪の際には黒い汚れが染み込んでいる。


 神殿の照明や治療補助具を長く修理しているという。


 ベイルは航平たちの導魔片を受け取ると、表を見るより先に聞いた。


「どれくらい使った?」


「連続運転と短い断続試験までは済ませています」


 フォルドが答えた。


「それだけか」


「ああ」


 航平も隠さない。


「だから、実用品として見た時に何が足りないのか聞きたい」


 ベイルは導魔片を指先で軽く曲げた。


「灯りなら、まず回数だな。何度も点けて消す。長く点ける。熱も見る」


「温度だけ?」


「湿気もだ。冬なら冷える。夏の倉庫なら熱が籠もる。急に強い魔力を入れる奴もいる」


 航平は口を挟まず、フォルドへ任せた。


「魔力を長時間流した場合、材料そのものが変化することはありますか?」


「ある。駄目になり始めると、入りが鈍くなる物もあるし、逆に急に通りすぎる物もある」


 カーラが視線を上げる。


「通りすぎる方も故障ですか?」


「当然だ。灯りなら石が焼けることもある」


 試験項目が次々に増えていく。


 熱。


 低温。


 湿気。


 繰り返し通電ならぬ、繰り返し通魔。


 急激な入力。


 長時間運転。


 そして、用途ごとの許容範囲。


「人の身体に使う治療具なら、もっと厳しく見る?」


 航平が尋ねる。


 ベイルは即答した。


「今の物を治療具へ入れる気なら止める」


「そのつもりはない」


「ならいい」


「理由は?」


「止まった時に困るからだ」


 簡潔だった。


 航平は頷く。


「それなら話は早い。今回は灯りまでにする」


 ベイルは初めて少し表情を緩めた。


「話の分かる船長だな」


「壊れた時に責任を取るのも船長だからな」


 そこからは、ベイルの方が主導した。


 導魔片をどの程度曲げるか。


 どんな熱を与えるか。


 魔力の入り始めに何を見るか。


 表面の色や手触りの変化を、現地の術具師がどう判断しているか。


 フォルドはその一つ一つを記録し、船側の測定値と対応させていく。


 ベイルが指でしか分からないと言った微妙な表面変化にも、測定器には差が出た。


 逆に、測定値だけでは重要に見えなかった変化を、ベイルが「これは使わない」と切り捨てることもあった。


「理由は?」


 フォルドが尋ねる。


「ここが少し荒れてる」


「表面粗さの変化は確認できます。ただし小さいです」


「小さいうちに捨てるんだ。大きくなってからじゃ遅い」


 航平はそのやり取りを聞きながら、何も言わなかった。


 こういう時、船長が間に入る必要はない。


 専門家同士が話せているなら、それが一番早い。


 しばらくして、ベイルが船製の導魔片を机へ戻した。


「これなら灯石用として試す価値はある」


「売れる?」


 航平は先走らずに確認する。


「まだだ」


 答えはきっぱりしていた。


「俺なら、何枚か作らせて神殿で実際に使う。しばらく見てからだ」


「その方がいい」


「ただ」


 ベイルは導魔片をもう一度見る。


「同じ具合の物を何枚も出せるなら、欲しがる術具師はいるだろうな」


「そこを確認するのが先だ」


 航平はフォルドを見る。


「同条件で追加製作。耐久試験用を優先してくれ」


「承知しました」


     ◇


 話はそこで終わらなかった。


 ベイルが神殿側へ、試験導入を提案したいと言い出したのだ。


 ただし購入契約ではない。


 航平たちが耐久試験を終え、安全上問題がないと判断した後に数枚を提供し、神殿内の照明器具で一定期間使ってみる。


 そこで結果が良ければ、初めて継続利用を考える。


「それなら受けられる」


 航平が答えた。


「ただ、無償で大量に配るのはなしだ。試験用の数枚まではこちらが負担してもいいが、その先は正式に話を決める」


「当然だ」


 ベイルも商売人だった。


「材料も仕事も、ただで出せと言う気はない」


「助かる」


「こっちも、正体の分からん物をいきなり20枚買うほど酔狂じゃない」


「それを聞いて安心したよ」


 継続取引へ進む場合は、執政所にも確認する必要がある。


 これまでの小口取引とは違ってくる。


 だが、その話は試験が終わってからでいい。


 今はまだ、初めて作った材料が実用品として通用するかを確かめている段階だ。


     ◇


 帰る前に、航平はもう一度だけ試験器具を見に行った。


 船製の導魔片へ戻されている。


 ハルヴェンが魔力を流す。


 灯石が光った。


 さっきと同じ青白い光だ。


 派手な現象ではない。


 町の人間なら見慣れている明かりにすぎない。


 それでも、航平には十分だった。


 捨てられていた炉滓を買った。


 船の設備で鉄を取り出した。


 現地の職人から、魔力が馴染む鉄の存在を教わった。


 一度捨てた成分を測り直し、必要な分を戻した。


 そして今、その材料が異世界の魔道具の中で働いている。


 まだ量産品ではない。


 耐久性も分からない。


 治療具や重要設備へ使える段階でもない。


 だが、少なくとも実験室の数字だけではなくなった。


「フォルド」


「はい」


「帰ったら耐久試験を始めよう。ベイルが見ていた変化も測定項目へ入れてくれ」


「すでに追加しています」


「さすがに早いな」


「必要な情報でしたので」


 航平は笑い、神殿の窓へ目を向けた。


 そこでは、試験用の灯石が今も静かに光っている。


 宇宙船で作った鉄が、この世界の魔法を受け取り、明かりへ変えていた。




────────────────── YouTubeショート動画作ってみました。 https://youtube.com/shorts/9GLwTygoDf0?si=78DTsosNQTR8DuE9

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