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『剣と魔法の異世界で、俺の宇宙船だけ文明レベルが違いすぎる ~最新鋭艦の船長と10体のアンドロイド兄弟の異世界航海記~』  作者: あちゅ和尚


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第23話 鉄にも、魔法向きがある

「良い鉄です。ただ、魔道具には向きませんな」


 北の炉場を取り仕切る男は、航平たちが持参した鉄片を作業台へ戻した。


 エルディアの鍛冶工房で買った炉滓から回収し、船内で再精製したものだ。


 低負荷の部品なら艦内でも利用できる。町の鍛冶師からも、普通の鉄材としてなら十分使えると評価されていた。


 それだけに、航平は興味を引かれた。


「強度ではなく、魔法を使う場合に問題がある?」


「そうです。釘でも農具でも使えますし、炭を調整すれば刃物にもできるでしょう。ただ、魔道具の芯や術式を刻む部品なら、私は別の鉄を選びます」


 横にいたカーラが作業台へ目を落とす。


「比較できる鉄を見せてもらえますか?」


「もちろん」


 男は棚から拳ほどの鉄片を持ってきた。


 見たところ、航平たちの再生鉄と大差はない。


 ここはエルディアから北へ街道を進んだ先にある、大規模な炉場だった。


 見学については、事前にオルフェンたちを通じて話を付けてある。


 航平たちは密閉装備のまま、カーラ、ワンス、フォルドと現地へ降りていた。


 主目的は炉滓の量と、鉄がどう流通しているかを見ることだ。


 実際に来てみると、町の鍛冶工房とは規模がまるで違った。


 大小の炉が並び、鉱石置き場、木炭庫、製品置き場が分かれている。荷車が絶えず出入りし、職人や人夫がそれぞれの持ち場で動いていた。


 その炉場で、思いがけず「魔法向きの鉄」という話が出てきた。


「フォルド、組成を見てくれ」


「測定します」


 2種類の鉄片を順に調べる。


 炭素量が違う。


 微量成分にも差がある。


 だが、それだけで用途の差を説明できるほど単純ではなかった。


「機械的性質だけを見る限り、こちらの鉄が特別優れているわけではありません」


 フォルドが現地製の鉄を示す。


「少なくとも、硬さや強さだけで使い分けているとは考えにくいです」


 炉場の男が頷いた。


「ですから、魔力を通してみるのが早い」


 近くにいた壮年の職人が呼ばれた。


 男は煤の付いた手を布で拭い、現地製の鉄片を握る。


 数秒後。


 鈍い鉄の表面へ、ごく淡い青色が滲んだ。


「魔力場の変化を検出しました」


 フォルドが告げる。


「表面だけではありません。鉄片内部にも応答が広がっています」


「記録を本船へ送ってくれ。ファイヴにも見せたい」


「転送しています」


 次に、航平たちの再生鉄を職人へ渡した。


 同じ姿勢で魔力を流す。


 青い光は出ない。


 職人が少し眉を寄せ、力を加えた。


 やがてフォルドの測定器には弱い反応が現れたものの、先ほどの鉄ほど広がらなかった。


「まったく通らないわけではない?」


 カーラが確認する。


「そうですね」


 職人は鉄片を作業台へ戻した。


「ただ、馴染みが悪い。魔力を入れても散ってしまう感じがする」


 何度か条件を変えて試してもらう。


 結果は同じだった。


 現地製の鉄は比較的弱い入力でも全体へ魔力応答が広がる。


 再生鉄では局所的な反応に留まりやすい。


 航平は2つの鉄片を見比べた。


「船で精製した工程が原因なのか、それとも最初から材料が違うのか。そこはまだ分けられないな」


「はい」


 カーラは分析値を確認する。


「元になった鉱石も製法も同じではありません。純度だけを原因にするのは早いです」


 航平は炉場の男へ向き直った。


「こういう違いは、昔から知られているんですか?」


「もちろん」


 返事に迷いはなかった。


「北東の山から入る鉱石は魔力が馴染みやすい。西側から来るものは丈夫な道具を作るのに向く。注文によって混ぜる量も変えます」


「山ごとに?」


「同じ山でも採る場所で違いますよ」


 航平は思わず鉄片へ視線を戻した。


 現地の職人たちは元素分析器を持っていない。


 それでも、どこの鉱石をどう混ぜれば何に向くのかを経験として蓄えている。


「理由まで分かっていますか?」


「魔力の馴染みが違う、としか」


 男はあっさり答えた。


「私らは学者じゃありません。欲しい鉄を作れれば仕事になりますからな」


「十分です」


 航平は頷いた。


「使い方を知ってる人間に、理由まで全部説明しろとは言いません」


 カーラが北東産だという鉄をもう一度測定する。


「原料も見たいですね」


「俺も同じことを考えてた。その前に、本来の用事を済ませよう」


 航平は炉場の外を見た。


 黒い塊が、低い丘のように積み上がっている。


 炉滓だ。


     ◇


「全部が廃棄物というわけではありません」


 炉滓置き場まで案内した男が言った。


 航平たちは足元の安全を確認しながら進む。


 エルディアの一軒の鍛冶工房とは比較にならない量だった。


「鉄の残りが多いものは砕いて炉へ戻します。石質が多いものは、道を作る業者が引き取る。それでも使えないものが、こちらです」


 三つの山に分けられている。


 ただ積んでいるだけではない。


 炉場側も価値を見極め、すでに使い分けていた。


「町の工房とは規模が違えば、捨て方まで変わるか」


 航平が言う。


「これだけ出れば、捨てるにも金が掛かりますからな」


「その理屈は宇宙でも変わらないらしい」


 カーラは許可を得て、非接触の測定器を向けた。


 黒く重いもの。


 ガラス状の表面を持つもの。


 赤褐色のもの。


 小さな穴が無数に開いた軽いもの。


 同じ炉滓でも成分はかなり違う。


「再投入するのは、この一帯ですね」


「そうです」


「道材は?」


「こちら」


「最後の山は、現状では利用先なし?」


「ええ。窪地を埋めるか、邪魔になれば別の場所へ運びます」


 カーラが測定器を向けたまま動きを止めた。


「フォルド。この部分を見てもらえますか」


「確認します」


 航平も2人の表示を見る。


 鉄の残存率は低い。


 そこは予想通りだった。


 だが、周囲の炉滓には少ない微量成分がいくつか集まっている。


「魔力応答も出ています」


 フォルドが言う。


「人体で追っている未知反応とは別です。先ほど鉄へ魔力を流した際に観測したものに近い場の変化があります」


 航平は一度だけ頷いた。


 そこは混ぜない。


 転移後に人間13人から検出されている正体不明の反応と、魔力を含む物質の応答は、現段階では別の現象として扱う。


「周りにも出てるか?」


「あります。ただ、この山は強い」


 カーラも結果を確認していた。


「術具向けの鉄に含まれていた微量成分の一部が、こちらへ濃縮されています」


「鉄を取った後に残った?」


「そう見えます。ただし、それが魔力応答の原因だとはまだ言えません」


「そこは持ち帰って切り分けよう」


 航平は炉場の男を見る。


「利用していない分を、種類ごとに少量買わせてもらえますか?」


「これを?」


「ああ。ただし、全部まとめてでは困る。どの炉から出たものか分けてほしい」


 カーラが具体的に条件を説明した。


 使用した鉱石が分かるもの。


 炉が違うもの。


 可能なら生成時期も分ける。


 各種類、数十キロでいい。


「ずいぶん面倒な買い方ですな」


「混ぜてから違いを調べる方が、もっと面倒になります」


 カーラの返答は淡々としていた。


 炉場の男は納得したように笑う。


「分かりました。分けられる範囲で用意しましょう」


 値段も決める。


 不要物だからといって無料にはしない。


 分類する手間がある。


 運び出す人手も要る。


 その分まで含めた価格だ。


「継続購入は、今回の結果を見てからにします」


 航平が念を押した。


「こちらとしても、その方が助かります。今日来たばかりの相手に全部売れと言われても困りますからな」


「大口の客より先に、長く付き合える客を目指しますよ」


「それなら歓迎します」


 話はまとまった。


 現地側が再利用している炉滓へは手を出さない。


 すでに道材として売っているものも買わない。


 今のところ利用先がなく、処分に困っているものを優先する。


 それなら地元の流れを崩さずに済む。


 カーラが炉滓の山を見回した。


「量は十分ありますね」


「使えると分かれば、だろ?」


「もちろんです」


「安心した。今日中に貨物庫をいっぱいにすると言われたら止めるところだった」


「調査試料を大量購入してどうするんですか」


「その答えなら大丈夫だ」


 カーラは特に笑いもせず、次の測定場所へ向かった。


 航平はその背中を見送りながら、炉場長へ尋ねる。


「さっきの魔道具向けの鉄。元の鉱石も少し買えますか?」


「少量なら、こちらの裁量で出せます。量が増えるなら鉱山の持ち主と商人を通してください」


「比較に使えるだけあれば十分です」


 北東産の鉱石。


 一般的な建材用の鉱石。


 別系統の山から来たもの。


 それぞれ少量ずつ購入する。


 カーラの仕事が増えた。


     ◇


 鉱石置き場では、現地の知識がさらに役に立った。


「この黒い筋が多い物は、魔道具向けへ回すことが多いですね」


 選別担当の職人が鉱石を割って見せた。


 航平には、ただ色の違う部分が混じっているようにしか見えない。


「見た目で分けてるのか?」


「見た目と重さです。慣れれば分かりますよ」


 カーラは同じ石へ測定器を向ける。


「いくつか成分差があります。ただ、見た目の黒い部分だけが原因とは限りません」


「職人はそこまで考えずに仕分けてる」


「ええ。それでも製品として結果が出ている」


 カーラは鉱石を返した。


「この選別方法ごと記録しておいた方がいいですね」


 航平は少し感心した。


 数字を知らなくても、積み上げた経験が間違いとは限らない。


 むしろ何百年も同じ素材を扱ってきたなら、こちらが知らない分類方法を持っていて当然だ。


「ワンス。今日聞いた産地と用途の対応も残してくれ」


「記録済みです」


「さすが」


「船長が忘れる前に記録するのも私の仕事ですので」


「そこまで衰えてないよ」


 航平は苦笑した。


 小艇へ戻る頃には、貨物区画に複数の容器が固定されていた。


 鉱石3種類。


 由来を分けた炉滓数種類。


 現地製の鉄材も比較用に少量。


 鉄を買いに来たつもりが、帰りは加工前と加工後の石ばかりになった。


「カーラ」


「はい」


「最初の目的から、だいぶ荷物が増えたな」


「増えたというより、見るべき範囲が分かっただけです」


「そっちの方が怖い言い方だ」


「必要な調査です」


 航平は貨物固定の表示を確認した。


「分かった。船へ戻ったら優先順位を付けよう。全部一度に調べる必要はない」


「まずは術具向け鉱石、普通の鉱石、使われていない炉滓の3群を比較します」


「それでいい」


 フォルドが貨物一覧を閉じる。


「船長、確認があります」


「聞こう」


「エルディアから持ち帰った炉滓を処理した際、鉄を分離した後の残渣はすべて保存しています」


 航平は足を止めた。


「捨ててないんだな?」


「初回試料です。完全な分析が終わる前に廃棄する理由はありません」


「なら、北の試料と先に比べてくれ」


「その予定です」


 これなら、新しい試料を待たずに一つ試せる。


 エルディアで捨てられていた炉滓。


 そこから鉄を取り出した。


 航平たちが最初に欲しかったのは、その鉄だった。


 だが北の炉場で、現地の職人は別のことを教えた。


 同じ鉄でも、魔力の通り方が違う。


 そして、その差を生む何かが、精錬後の残りへ移っている可能性がある。


「フォルド」


「はい」


「帰ったら、最初に作った鉄と残渣をもう一度並べてくれ。処理する前の炉滓も残ってるな?」


「保存しています」


「三つを同じ条件で見る」


「了解しました」


 カーラが航平を見る。


「魔力応答も?」


「ああ。今度は鉄の回収率だけ見て終わらせない」


 小艇の扉が閉じる。


 窓の向こうでは、何基もの炉から煙が立ち上っていた。


 現地の職人たちは、どの山の石が魔法に向くのか知っている。


 一方、航平たちは、その違いをようやく測り始めたところだ。


 どちらが遅れているという話ではない。


 見ているものが違う。


 なら、両方を合わせればいい。


 航平は固定された試料容器へ目を向けた。


 捨てられていた炉滓から、鉄は取れた。


 次に調べるのは、その鉄ではない。


 鉄を取り出したあとに、何が残ったのかだった。




────────────────── YouTubeショート動画作ってみました。 https://youtube.com/shorts/9GLwTygoDf0?si=78DTsosNQTR8DuE9


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