ミカ
御社の木造の立派な本堂の奥。
龍穴の穴を見渡せる、外の広い儀式場に、御社の関係者各位が集まっていた。
奥には、貢ぎ物らしい派手な飾りや料理が供えられている。
中央では、巫女装束の老婆が説法を唱え続け、両サイドに韋駄天や袴姿の男性、巫女装束の女性が列を作って並んでいた。
老婆の正面には、座して時を待つ、白装束を着たミカの姿があった。
ミカの後方では、大きな青白い煙が龍穴からモクモクと昇っている――。
トレスが到着した頃には、既に儀式が始まっていた。
トレスだけは、首裏に柱を乗せた状態で、手に錠をされていた。
その上、服もボロボロなので、明らかに浮いた存在だ。
トレスは、列の最後尾に、邪魔にならない様に並ばされた。
今は、一人一人が順番に、貢ぎ物を龍穴に向かって投げ入れている最中だ。
柱に腕を拘束されているトレスには、勿論そんな芸当は出来ない。
トレスは、ダラックに大人しく後方で待たされ、ミカに近づく事さえ出来ずにいた。
残りの貢ぎ物が少なくなった所で、老婆がダラックの方に顔を向けた。
やっと、トレスをミカの下に連れて行く許可が降りた様だ。
トレスは、ダラックに連れられ、老婆の横に立たされる。
すると、ミカが、立ち上がり、トレスと向き合った。
ミカのオレンジ色の髪は、風に煽られないように、綺麗に纏められていた。
それでも、まるで太陽の様に眩しい。
トレスは、最期の大事な場面だと言うのに、ミカの優しい顔を見ると、言葉を忘れてしまった様に、頭が真っ白になった。
今にも泣き出しそうだが、頑張って笑顔を作り上げる。
ミカが暖かい笑顔をトレスに向けて、話し始めた。
「トレス。大地から、ずっと。ずっとあなたの事を、見守っているからね。私が居なくなっても、しっかりやるのよ。」
ミカの最後の力強い笑みは、トレスと同じで、今にも泣き出しそうだった。
「あ…ああ。任せろ…って……。」
トレスは、目に涙を浮かべながらも、精一杯笑って見せる。
「ミカ……本当に、ありがとう……愛し…てるよ…。」
既にトレスは、涙が止まらなくなっていた。
そこで、ミカは、トレスに背を向けた。
「私も……。」
ミカは、そう微かに聞こえる声で言うと、パッと、トレスの視界から姿を消してしまった……。
トレスには、何が起きたのか、頭で理解が出来なかった。
いや、考えたく無かった。
「ミカーーーーー!」
トレスは、もう耐えられなくなり、ミカの下へ走った。
鎖に繋がれた状態のまま、韋駄天の間を掻い潜り、必死にミカの居た場所を目指した。
しかし、直ぐに韋駄天たちに飛び付かれ、トレスの動きは、阻止された。
「離せ!ミカーーー!」
叫び、暴れ、どうにか前に進もうと、行動を起こす。
だが、彼らにがっちりと体を押さえつけられ、動けない。
「トレス!落ち着けよ!」と、ダラックが叫ぶ。
「離せ!離せよ!」
取り押さえられたトレスは、必死に体を反り起こし、天に向かって叫び狂う。
「うおおおおおおおおおおおおおお――。」
龍穴からモクモクと昇る煙に乗り、トレスの悲痛な叫びが、街中に木霊した――。




