輝く鱗
視界は、真っ暗闇。
「――トレス!」
トレスは、呼ばれて瞼を開く。
すると、今度は、真っ白な世界が、目に飛び込んで来た。
明るい陽の光が、トレスの網膜を焼いた。
どうやら、うたた寝をしてしまっていたらしい。
「――ねえ!トレスったら!」
体を揺さ振られ、耳元で叫ばれる。
トレスは、鼓膜の振動を我慢する様に、ギュッと、隈取りの濃い片目を瞑った。
そして、光で眩んだ目を瞬かせる。
――そんな大声を出さなくても良いだろ?聞こえてるって。
トレスは、再び瞼を開く。
ピントの整った瞳で、声の主を捉える。
すると、そこには、天使がいた。
オレンジ色の髪が、キラキラと日光を反射して、柔らかい頬を染め上げている。
それは、それは、陽の光よりも眩しい笑顔だった。
ミカは、そんな頬を上げ、トレスに何かを訴え続ける。
「トレス。ほら!見て!」
ミカの視線が、白くて細い腕の先へと向いた。
彼女は、目を輝かせ、奥歯が見える程に感極まっている。
トレスは、ミカに言われて、ぼさぼさの頭を上げた。
黒く尖った毛先を揺らす。
「あん?」と、面倒臭そうに目を向けた。
ミカの指先では、龍脈のエネルギーの波が、空高く打ち上がっていた。
ゲキリンの中心に在る巨大な龍脈の穴、『龍穴』――そこから噴き出た青白い光の塊が、ギラギラと輝きながら天を目指す。
その塊は、上空で散り散りとなり、キラキラと舞い揺らぎながら地上に降り注ぐ。
まるで、青白い桜が、満開の花を散らすが如く、大地の色を青く塗り替える。
「わー。綺麗ね!」
トレスは、嬉しそうに笑うミカを見て、喜びが伝染したかの様に笑った。
「ふふっ。」
トレスにとっては、景色なんて、別にどうでも良かった。
ミカは、空に向かって、腕を伸ばした。
そして、その優雅に舞い降りる花びらを、指先に載せようとする。
「輝く鱗。これを観ると、また今年も頑張ろうって思えるのよ。」
ミカは、指先に載った輝く鱗を見て、優しく微笑んだ。
輝く鱗は、今にも儚く消えてしまいそうな淡い輝きを放つ。
「おい、体に良くないぞ。」
トレスは、心配そうにその指先を手で掃うと、ミカの体を引き寄せた。
そして、ミカの明るい髪に引っ掛かった、青白い鱗を、手で叩いて掃い落とす。
「大丈夫よ。少しぐらい。」と、ミカは、体を掃われる衝撃に目を瞑りながら答えた。
「大丈夫な訳ないだろ?俺が一番知ってんだ。」
トレスは、そう言って、肩の装置を指差した。
指先で、「コンッ、コンッ。」と、乾いた音を鳴らす。
それを見てミカは、少し心配そうな顔をしたが、直ぐに気分を切り替えた。
「トレスは、ちゃんとお願い事した?ちゃんと祈らないと駄目よ?今年も、街のみんなが、元気で幸せに暮らせますようにって!」
「…ええ!?いいよ。別に、俺は……。」
「駄目よ。ほら、目を瞑って!形だけでもいいから、ちゃんと祈るの。」
「はいはい……わーったよ。やればいいんだろ?」
トレスは、ミカに言われるがまま、目を瞑って祈り始めた。
再び、視界が真っ暗闇に包まれた――。




