龍神祭
何事にも、表と裏がある様に、龍脈にもメリットとデメリットがある。
龍脈は、人々に恩恵を与える反面、使用し続けると穢れが溜まる。
その一部が魔物へと変わり、龍脈の通り道で、魔物が発生していると言われている。
その為、大都市の近辺には、比例して魔物が多く発生する。
龍脈は、意思を持った様に、溜まった穢れの対価に生け贄を選ぶ。
それが大地を突き上げる龍爪という訳だ。
選ばれた生け贄には、身体中に龍脈の線が残る。
その運命から逃げたとて、生き辛い世界なのだ。
そして、選ばれた生け贄を龍脈に捧げる事で、穢れが祓われる。
これが龍神祭の始まりだ。
龍神祭は、ただ神に感謝する祭りではない。
本当は、選ばれた者を送り出す為の儀式なのだ。
「前回は……タコス屋のおっちゃん。その前は……狩人のハルさん。」
トレスは、絶望した表情で、思い出した様に名前を呟いた。
ダラックは、吹かした煙を見上げて言う。
「ああ。彼らには、大切な人が居なかったと思うか?今のお前の様に、嘆く人がいなかったと?」
「くっ……。じゃあ、どうすれば……どうすれば、いいってんだよ!」
トレスが食って掛かるが、ダラックに牙を剥いた所で無意味だった。
「こればかりは、どうにも出来ないだろ。身代わりなんて、意味が無い。俺たちが考え付く事なんて、既に誰かが試してるさ。人間は、そこまで馬鹿じゃない。お前も、それで滅んだ街の話を、いくつか聞いた事があるだろ?」
「……。」と、トレスには、何も言い返せなかった。
「それで、どうする?ミカにお別れを言いに行くか?大人しくすると、誓えるなら、連れてってやるぞ?念の為、錠はしたままだがな。」
ダラックは、水溜りでタバコの火を消す。
ジュッと、嫌な臭いが周囲に漂う。
すると、トレスが体を揺らし始めた。
「何で今回に限って、ミカなんだ?前回も男性だっただろ?なんで俺じゃねーんだよ?」
鎖の音を鳴らして、地面に向かって訴えた。
「……その調子じゃ、無理そうか?」
ダラックは、膝に手を突いて、立ち上がった。
トレスを連れて行くのを諦め、背を向けて歩き始める。
トレスが、ダラックの姿を横目で追い、諦めて静かに呟く。
「……行くよ…。」
ダラックは、足を止め、顔だけをトレスに向けて様子を窺う。
トレスは、悲しみの声で謳う。
「俺が生け贄だったら、最期にミカの顔、見ておきたいからな。」
それを聞いたダラックは、仕方無さそうに引き返す。
薙刀を肩に抱き、天狗の面を着けながら言う。
「何度も言うが、絶対に大人しくしてろよ?駄目だと思ったら、直ぐに牢に連れ戻すからな。」
「ああ……分かってるよ。」
トレスから、沸々と闘志が湧き上がっているが、ダラックは、大目に見ることにした。




