幽閉
あれからトレスは、地下牢に幽閉された――。
石で作られた壁と床の空間に、太い木の柱で作られた格子がされた檻だ。
廊下の松明の灯りだけでは、檻の中の闇を晴らす事が出来ない。
四隅は、目視出来ない程に暗く、中に居るトレスの存在を、僅かに照らし出すだけだ。
目付きの悪い顔が、更に影が差して悪くなる。
その暗闇の中。
トレスは、天井から吊るされていた。
木の柱を一文字にして、首の背に乗せ、その柱の隅に、広げた両腕を鎖で繋がれている。
冷たい床に膝を突き、吊るされて頭を投げ出した上半身を、振り子の様に揺らす。
動く度に鎖が、じゃらじゃらと音を立てる。
「くそっ……なんで、俺が閉じ込められなきゃならないんだ!俺が、何したってんだ……。」
トレスは、牢の前の松明の灯りを睨み付けながら、悪態を吐いていた。
松明の熱が地下牢の湿度によって、天井に水滴を作り上げる。
その水滴が、牢の前に定期的に落ち、水溜りを作って行く。
ピチャッ。
ピチャッ。
と、繰り返し、ゆっくりと時を刻んで行く。
一分一秒が、とても長く感じられる。
閉じ込められてから、どれだけの時間が経ったのだろうか。
トレスには、全く予測が出来なかった。
一時間かもしれないし、六時間かもしれない。
この暗い地下牢は、それくらい時間の感覚を狂わせた。
「本当は、分かっているんだろ?」
暗闇の中から返事がした。
――気が狂うには、早すぎる。
トレスは、そう思い、闇の中に目を凝らす。
すると、韋駄天の一人が、影の中からスッと現れた。
綺麗な白と黒の袴に、黒い天狗の面を着けている。
「前回は、二年前。その前は、そこから三年前だったよな?」
そうトレスに問い掛け、薙刀を手に檻の前までやって来た。
「その声は、ダラックか……?」
「ああ。そうだ。」
ダラックは、黒い仮面を外して屈み、自身の顔をトレスによーく見せた。
緑色の明るい髪に、スーッと通った四角い鼻、瞳の色も髪と似て明るい。
少し顔の長い、スマートな顔付きだ。
「お前が暴れないって誓うのなら、ミカの所に連れてってやる。」
トレスは、ミカと言う言葉に反応して、鎖を強く揺らした。
「――ミカ!」
そのトレスの様子に、ダラックは、困った顔をした。
「暴れないならだぞ……お前も、儀式の前に、一目会っておきたいだろ?俺も鬼じゃないからな、最期まで見届けろとは言わねえよ。」
トレスは、気が抜けた様に地面を見つめた。
「最期……。」
ダラックは、トレスを哀れむ様に、優しく声を掛ける。
「彼女は、龍脈に選ばれたんだ。浄化の為にな。それは、もう、誰にも変えられねえ。お前だって、前回もその前も、そのまた前も、見てきただろ?」
ダラックは、薙刀を左肩に立て掛け、檻の格子に背を預けて座り込んだ。
放心状態のトレスには、考える時間が必要だと判断したのだ。
彼は、懐からタバコを取り出し、火を点けて吸い始めた。
煙は、壁の何処かにある通風口へと漂って行く。
そして、「ふ〜。」っと、一服をして、トレスの決断を静かに待った……。




