韋駄天
袴を着た四人の男達――。
彼らは、『韋駄天』と呼ばれる。
この街の守護者だ。
赤い天狗、黒い天狗、黒い鬼、ひょっとこ。
特に面には、意味がある訳ではない。
正体を隠す為だけの物だが、同じ面では、何かと都合が悪いのだ。
これは、個性と言う訳でもない。
同じ面でも、中身の違う事が、多々ある。
韋駄天である彼らは、街の住人を取り締まる事がある。
何も戦う事だけが、守護者の役目ではない。
そんな彼らは、感謝こそされるが、恨まれる事も多い。
誰が誰かと、分からない方が世の為なのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
韋駄天は、トレスとミカの前にやって来ると、屈み込んで姿勢を低くした。
背中に背負った黒く四角い箱を天に向け、肩に担いだ薙刀を、なるべく地面に近づける。
すると、老婆が、赤い袴の片膝を上げて、立ち上がる。
結び目が多い衣装の紐を揺らし、一歩、一歩、踏み出す。
真っ白な足袋を履いた下駄が、乾いた音を鳴らして、地面に降り立つ――。
守護者に運ばれて来たこの老婆が、この街の頂点だという事は、言うまでもないだろう。
カランコロンと、大地を歩く老婆は、トレスを一瞥し、ミカに顔を向けた。
彼女の肌に奔る青白い線を、その目で確認して言う。
「ふむ、ミカよ。お主が選ばれたか……。」と、深刻な顔をする。
ミカは、老婆の前で正座をして、へりくだった様に頭を下げた。
「はい。婆様。覚悟は、出来ています。」
トレスは、その二人の様子を見て、混乱した様に口を開く。
治療中の右腕が大きく揺れた。
「おい…どう言う事だよ?覚悟ってなんだ!?」
頭を下げるミカに向かって、トレスは自由な左腕を伸ばした。
だが、ミカは、一切、トレスを見ようとしない。
老婆は、トレスの様子に呆れた顔をする。
「この馬鹿たれは、まだそんな事を言ってるのかい?これまで何度も見てきただろうに……。」
そして、最後に、フンッと、顔を背けた。
そこで、ミカが口を挟む。
「婆様。トレスを……。」と、心苦しく言葉を噤んだ。
老婆は、ミカが全てを言わずとも、理解した様子だ。
仕方がないとでも言わんばかりの表情で、右手を掲げる。
「分かったよ。お前たち、トレスを。」
「「はっ!」」
韋駄天は、返事をすると立ち上がった。
大きな薙刀を片手に、トレスを四人で囲む。
「まだ治療中ですよ!?」
そう叫ぶ眼鏡の女性を無視して、トレスの体を担ぎ上げる。
「なっ!?ちょっ!離せ!おい、ババア!こいつらを止めろ!」
トレスは、暴れ始めるが、成す術がない。
トレスには、一切の逃げる隙を与えない程の早技だ。
韋駄天は、あっという間にトレスの体を拘束し、肩の上に担いだ。
「大丈夫。そいつは、殺しても死にはしないよ。」
老婆は、そう笑って女性に伝えた。
「何処へ連れて行く気だ!離せ!ミカーー!」
韋駄天に連行されて行くトレスを眺めて、老婆がぼやく。
「はぁ……まったく……。ミカよ。歩けそうかい?」
老婆がミカに顔を向けて、彼女の心境を気に掛ける様に優しく言った。
「はい、婆様。」
ミカは、俯いたまま立ち上がり、進み出した老婆の後をついて歩いた――。




