変換機構《チャージャー》
トレスは、締め付けてくるミカの背を、ポンポンっと、優しく二回タップした。
「なんで謝るんだよ?ってか、スカートが汚れるから、離れた方がいいぞ?」
トレスは、血が流れる右腕を掲げ、ミカの耳元に向かって言った。
ミカが顔を回し、腕の間からトレスの右腕を覗き込む。
すると、その傷だらけの右腕を見て、今度は、右腕に跳び付こうとする。
「――どうしたのよ!?その腕!?」
「おいおい!触るなよ!?痛いんだからな!」
トレスは、ミカから腕を逃した。
すると、周囲の人集りの中から声が掛かった。
緑掛かった短いパーマの女性が、トレスに近づく。
「私が治療しましょう。誰か、お湯とタオルを!」
そう叫ぶ彼女の丸い眼鏡の中の瞳は、早速トレスの怪我を、興味深そうに観察していた。
「たっ助かる……お手柔らかにな……。」
トレスは、右腕を出した状態で地面に座り、そっぽを向いた。
トレスは、別に恥ずかしがっているわけではない。
治療されるのを見ていると痛いので、見ない様にしているだけだ。
ミカが彼女に頭を下げる。
「ありがとうございます。」
すると、彼女は、ミカに真剣な表情を向けた。
「いえ。お礼を言うのは、私の方です。私があなたに返せる事は、これくらいしかありませんから……。」
それを聞いて、またミカは、困った顔をして笑った。
「あはは……。」
眼鏡の女性の手から発せられる神々しい光で、トレスの傷口が和らいでいく。
彼女のチャージャーは、籠手型の軽い物の様だ。
きっと、治療に特化した物なのだろう。
それと、彼女の眼鏡だ。
どこの国の製品かは分からないが、その眼鏡もチャージャーの一種の様だ。
ゲキリンには、そんな腕の良い変換機構の技師が居ない。
トレスでさえ、肩に大きな旧型を装着しているのだ。
軽量型と小型の装備の時点で、彼女がゲキリンの住民では無いというのが、トレスには見て取れる。
眼鏡のレンズが淡く緑色に輝いている。
あれで何かを診ている様だが、仕事柄チャージャーの事を良く知る、狩人のトレスでも、良く分からなかった。
トレスは、痛いのか、痒いのか、表情をコロコロと変える。
ミカは、トレスが片目を瞑ったり、頬を上げたりするのを、穏やかな表情で見守る。
そこで、周囲を囲んでいた人集りが二つに割れ、そこから人が駆けつけて来た。
袴を着た四人の男達に、神輿の様に担がれた老婆が見える。
男達は、それぞれ違う仮面を着け、薙刀を神輿代わりに組み、その中心の四角い板に赤い巫女装束の老婆を座らせていた。
トレスは、その様子を見て、嫌な表情を浮かべた。




