あらゆる流れ
右腕から血が滴る。
左手で押さえたいところだが、触れるだけでも激痛だろう。
トレスが次の行動を考えていると――。
そこで、ミカを飲み込んだ光の柱が治まった。
光の流れが、フッと、上昇気流だけを残して止まる。
トレスを吹き飛ばしたのが、まるで嘘の事のように消えて無くなった。
光の線が消えた場所には、まだミカが立っていた。
ミカは、目を丸くした状態のまま、何事も無かったかの如く、そこに立ち尽くしている。
「ミカ!」
トレスは、急いで彼女に駆け寄った。
右腕の痛みなど忘れて、ミカの無事を確かめる。
「――大丈夫か?ミカ?」
バッと、左腕でミカを抱きしめた。
その際、血だらけの右腕で、ミカを汚さない様に気をつける。
トレスは、必死に目を瞑って、ミカの存在を肌で確かめた。
――消し飛んでない。
寄せ合った胸と左腕を回した背中から、ミカの細い心音が伝わって来る。
トレスは、それを噛み締めた。
生きている事だけは、確かな様だ。
腕の力を抜いて、体を離し、ミカの顔を確認する。
「ミカ?返事ぐらいしろよ……。」
トレスは、ミカの長い髪を避けるようにして、心配そうに顔を覗き込んだ。
すると、ミカの大きな瞳が、トレスを見つめ返した。
――無事だ。良かった。
そう思うのと同時に、何か違和感が消えない。
トレスは、ミカの顔を良く見た。
すると、ミカの顔には、青白い龍脈の様な線が刻まれていた。
遠目からでは、分からない程に細い線だ。
その刻まれた線は、角度によって、キラキラと青白く輝いている。
「大丈夫だよ。えへへ……。」
ミカは、そう笑って、頬を指先で掻いた。
はにかんだ様にして誤魔化そうとするが、只事ではない。
あれだけの光の柱が、上がったのだ。
周囲には、多くの人が集まって来ている。
トレスは、ミカの頬を掻く手の輝きを、見逃さなかった。
「大丈夫なわけあるかよ!ほら!」
トレスがミカの手を取ると、顔と同じ龍脈の線が刻まれていた。
ミカの体を少し見ただけで分かる。
これは、きっと、全身に刻まれているはずだ。
キャミソールの鎖骨から、肩、首に掛けて、光の線が奔っている。
ミカは、自身の体の輝きを見て、困った顔をして笑った。
「ああ…うん。そうなんだけど……。」
すると、ミカは、トレスを黙らせる為に、トレスに跳び付いた。
スカートが舞い上がり、足が宙に浮く。
そして、細い両腕を、トレスの首に回した。
「――っな!?」
トレスは、驚き、瞬時に傷だらけの右腕を掲げた。
触れられると痛い上に、彼女を血で汚すわけにはいかなかった。
ミカは、トレスをギュッと抱きしめて、頬を寄せる。
「……ごめんね。トレス。」と、目を瞑り、トレスに想いを寄せた。
ミカは、トレスに気付かれない様に、一筋の涙を頬に流した。
しかし、周囲を囲む人々には、ミカのその顔が、笑っている様に見えた。
街の人々は、微笑ましそうに、二人の様子を見守る。




