アッパーニードル
祭りの本番は、明日という事もあり、今日は、そこまで人通りが多くない。
屋台を設営している業者がほとんどだ。
それでも、家族連れやカップルを良く見掛ける。
ミカは、ルンルンと、いつもと違う街の雰囲気を、堪能しながら歩く。
そこで、流石に歩き疲れたのか、ミカがトレスの腕に寄り掛かって来た。
恥ずかしそうに顔を背けたトレスを見て、ミカは喜び、更に体を預けた。
トレスは、普段から鍛えているだけあって、まだまだ余裕がありそうだ。
「ねえ。トレス。」と、ミカが、ニコニコして呼び掛けた。
「なんだ?」
「祭りが終わって落ち着いたらさ。私たちも、そろそろさ……。」
――すると、突然。
ミカが、目を丸くして立ち止まった。
トレスは、急にミカが腕から離れ、気になって振り返る。
「そろそろって、何だよ?……ミカ?」
彼女の瞳が、驚いた様に、何かを捉え続けている。
ミカには、何が見えているのだろうか。
トレスは、ミカの視線の先を見るが、特に変わった物は、見当たらなかった。
これは、見ていた訳ではない。
何かを、感じ取っているのだ。
この時、トレスには、まったく理解が出来ていなかった。
しかし、この後、すぐにそれを思い知った。
なんと、突如として、ミカの足元から、ミカを包み込む光の柱が、天へと昇ったのだ。
「――ミカ!?」
強風が彼女のオレンジ色の髪を掻き上げたと思えば、瞬く間に青白い光が空へと昇った――。
これは、龍脈の噴射だ。
『大地を突き上げる龍爪』
そう呼ばれている。
トレスが、光に包まれたミカに手を伸ばす。
「ミカーー!」
そして、トレスの指先が、光の柱に触れた。
――バチンッ!
すると、青白い電流の様な閃光が奔った。
それと同時に、ガラスの様な破片が、トレスの身を襲う。
「――っな!」
トレスは、不思議な力で腕を弾かれ、体ごと軽く浮き上がった。
あまりの反動で、買い物袋が光に巻き込まれ、ぐちゃぐちゃに破ける。
「っぐわー!」
トレスの体は、宙に吹き飛び、見事地面に転がった。
トレスは、地面に伏せ、大の字となり、脳を揺らした。
意識の朦朧とする中、薄く瞼を開き、地平を見渡す。
……右腕の荷物は、既に跡形も無い。
……左腕の荷物は、袋のまま地面に散らばっている。
トレスの右腕は、切り傷だらけになっていた。
右腕の周囲の地面に、血溜まりが出来る程に……。
正直、腕がくっ付いているだけで、幸運だった。
トレスは、地面に這い蹲りながら、アッパーニードルを見上げた。
空高くを、青白い光の柱が突き刺している。
「ミカーーー!」
トレスは、ミカを心配して天に叫んだ。
青空は、無情として、何も答えてはくれない。
ミカの姿は、光に包まれていて見えない。
消し飛んだなんて、思いたくはない……。
トレスは、無事な左腕を地面に叩きつけて体を起こす。
このまま、地面に伏せているわけにはいかない。




