お祭りムード
トレスは、この見窄らしい格好を新調する為に、幼馴染で恋人のミカと、商店街に買い物に来ていた。
どうせ服なんて、狩りの所為で、直ぐにボロボロになる。
このままで良いとは言ったものの、沢山の服を購入させられた。
なので、トレスの両肩は、紙袋で一杯だ。
仕事で貯め込んでいたおかげで、何とかお金は足りたが、財布の中が寂しい。
これから暫くは、また仕事を頑張らなければならなくなった。
それでも、ミカが嬉しそうに笑っているだけで、トレスは良かった。
トレスにとって、彼女の笑顔だけが生きがいだった――。
ミカは、キャミソールにロングスカートといったシンプルな服装をしている。
あまり装飾品を着けるタイプではないが、ネックレスだけは、いつも着けていた。
そんなミカが、トレスの前に躍り出た。
明るいオレンジ色の長髪が、楽しそうに揺れる。
「さあ。次は、何を買いましょうか。トレス。」
細い眉毛を、目一杯上げて、太陽の様に微笑んだ。
「馬鹿!もういいって!祭りで使う金が、無くなっちまうだろ!」
目付きの悪い目で、必死に伝えたはずだが……ミカは、背を向けて駆け出して行ってしまう。
トレスは、ミカを捕まえようと、手を伸ばして追いかける。
が、両手の荷物が邪魔をした。
ミカは、楽しそうに、次に入る店を探し求めていた。
店の前で止まっては、中を覗き込む。
商店街は、お祭りムード一色だ。
至る所に、沢山の提灯が吊るされ、法被や着物を着た人を、多く見掛ける。
明日は、年に一度の龍神祭。
商店街だけでなく、街全体がお祭り騒ぎになっている。
龍神祭は、龍の神様に感謝し、龍の神様が怒る事がないように鎮める儀式だ。
龍神の怒りと言うのは、言わば天災の事。
地震や火事、魔物の襲撃や作物の不作、急に龍穴から、大量のエネルギーが噴き出す事もある。
そう言った災害が起きないよう、今年一年の安全祈願を含め、龍脈に感謝する祭りと言うわけだ。
「ミカ。そろそろ帰って、明日に備えようぜ。今日で力尽きて、肝心の明日は、寝込んでちゃ、意味ないだろ?」
「分かったわよ……じゃあ、あと一軒だけ!ね?」
ミカは、人差し指を立て、申し訳程度に笑って強請った。
トレスは、大きくため息を吐いて、それを受け入れる。
「絶対に最後だからな。」
天使の様なお願いを、誰が断れると言うのか。
正直、トレスの両腕は、くたくただったが、ミカの隣を歩き続けた。
また、この道を歩いて帰ると思うと、まだまだ長い旅路に成りそうな気配を感じた――。




