龍穴の底で
龍穴の底には、龍脈の青白いエネルギーの溜まり場がある。
まるで、湖の様な水面に、靄と共に落下する。
ざぶーん。
水ではないはずだが、水に落ちた様な音がした。
トレスの体は、水面からどんどん離れ、底へと沈んで行く。
こぽこぽと、水中の籠った様な音がする。
体の周りを纏った靄は、晴れ、その代わりに、腕に黒い模様が刻まれているのが見える。
その黒い線は、腕だけではなく、全身に刻まれている様だ。
トレスは、水面の明かりを眺めて思う。
「このまま、龍脈の流れに乗れば、いつかミカの所に辿り着く事が出来るだろうか……。」
すると、何処からともなく声が聞こえて来た。
(……はあ。何を、ふざけた事を言っている?)
トレスは、目を見開いて驚いた。
口から空気の泡が、吹き出す。
(死にたがったり、生きたがったり、面倒な奴だな?龍に喰われておけば、良かったんじゃないか?)
「だっだれだ!?」
周囲を慌てて見渡すが、周りは闇だけで、誰の姿も無い。
(あの龍を倒しただけで満足?終わりだと?笑わせるな。)
トレスは、握り締めていた剣を、自身の目の前に掲げた。
(そうだ。わたしは、お前たちがヘムべロスと呼ぶ者。)
ヘムべロスの黒金の刀身を、良く眺めて観察する。
その輝きは美しく、龍を斬っても尚、傷ひとつ付いていない。
「終わりじゃないって言うのは、どう言う事だよ。」
(お前には、一人を犠牲にして、多くを救う事が、善に見えるか?なら、逆は、どうだ?一人の為に、多くを犠牲にする。どちらが、善で、どちらが、悪だ?)
ヘムべロスは、難しい問答を始めた。
トレスは、苦い顔をして、頭を振る。
「くっ……駄目だ。俺には、どちらも選べない……。」
(何故だ?表があれば、裏があるのだろう?では、何故人間は、そんな龍脈を使う?)
「そんなの!俺に止められる訳がないだろ!」
そう必死に体を動かすと、薄暗い水面の底で、泡が巻き上がった。
ヘムべロスは、それでも問い掛けを止めない。
(何故だ?お前は、良くも考えず、見て見ぬフリを続けると言うのか?)
そのヘムべロスの言葉が、トレスの心に深く刺さった。
「ミカ……。」
(そのミカが、まだ生きているかもしれない。と、言えば、わたしの問いに興味を持つのか?)
予期せぬ言葉に、剣を握り締める手に力が入る。
「――っ!?それは、本当か!?」
トレスは、一心にヘムべロスを見つめた。
「――ミカが生きている!?」
だが、ヘムべロスは、至って冷静だ。
この剣は、まだまだ意味のない問答を、続けるつもりの様だ。
(さあな。シャイニングスレイヴよ。答えは、自身で導き出すのだ。わたしは、お前が真実へ辿り着く為の道を、斬り開こう。)




