龍の呪い
――バシュッ。
と、一筋の大きな閃光が奔った。
次の瞬間。
トレスは、上空にヘムべロスと共に跳び上がっていた。
――斬った。
その感覚が、トレスにはあった。
斬った自分でさえも、信じられなかった。
両手握り締める黒金の大剣・ヘムべロスが、嘘の様に軽い。
『龍の頑丈なる力』で、やっと持ち上がる程の重量だったのにも関わらず、軽々とその手に握られる。
まるで、手に馴染んだかのように、着地の反動すらない。
トレスは、龍を斬った事よりも、このヘムべロスに驚いていた。
黒龍は、大きな膝を地面に突くと、そのまま大の字に倒れ込む。
バーン。と、巨大な壁が倒れた様な音を上げ、砂埃を巻き上げた。
それから、大きな影を地面に映し出し、空から丸い物が降って来る。
それが、老婆の目の前に「ドスン。」と、音を立てて転がった。
龍の大きな生首だ。
「ひいっ!?」
老婆は、尻餅を突いたまま、頭から逃げた。
――終わった。
仇と言う訳ではないが、ミカも少しは浮かばれるだろう。
そう思うだけで、涙が込み上げて来る。
トレスは、雲の晴れた龍穴の大穴を眺めて、感傷に浸っていた。
老婆は、いつの間にか駆け付けた赤い天狗の韋駄天に、介抱されていた。
その老婆が、韋駄天の腕を振り解き、血相を変えてトレスに叫ぶ。
「トレス!まだじゃ!」
トレスは、その言葉に反応して振り向く。
「呪いがやって来る!トレス!ボケッとせんと、早う逃げるんじゃ!」
また、老婆が変な事を言い出したと、トレスは、鼻で笑った。
「呪いから逃げる?そんな物から、どうやって逃げるって言うんだよ?」
老婆は、韋駄天に押さえられ、龍の死骸から離れ始めた。
すると、大きな鱗の隙間から、ドス黒い靄が発生した。
それを見て、トレスの笑っていた頬が引き攣った。
その時、左手に持つヘムべロスが、小刻みに振動を始めた。
まるで、その黒い靄と、共鳴している様だ。
「ブーーン。」と、柄を握る手に振動が伝わって来る。
「なんだってんだよ!?」
トレスは、振動するヘムべロスを持ち上げ、身構える。
靄が意志を持った様に、トレスに襲い掛かった。
「何が呪いだ!この!」
ヘムべロスを振って身を守るが、靄に全身を包まれる。
「うわあああああ。」
トレスは、炎が全身に燃え移り、火だるまになった人の様に、悶え苦しんだ。
そして、龍穴に向かって暴れ歩き、そのまま足を滑らせる。
「トレスよーー!」と、老婆の叫ぶ声がした。
「うわあああーー!」
トレスは、大穴の中へと姿を消した。
深い、深い、穴の底へと落下する。




