シャイニングスレイヴ
「おい!素直に教えろよ!」
トレスは、その黒い刀身に映し出された、自分自身に向かって怒鳴った。
(人から教わった答えに、何の価値があると言うのだろうか。お前は、人形か?)
「むっ。お前は、剣じゃないか!」
頬を膨らませたトレスに、ヘムべロスは、楽しそうに笑う。
(はっはっは。これは、一本取られたな。しかし、ここに居られる時間は、そう長くない。そろそろ、人体の崩壊が始まってしまうだろう……そうだな。お前は、何故、龍脈が生け贄を選ぶのかを、考えた事はあるか?)
「穢れの浄化の為だろ?」
(それなら、誰でも良いだろう。量より質だと言うのか?足りなければ、何人焚べても構わないはずだ。違うか?)
その問いに、トレスは、目を丸くした。
「……確かに。何で俺は、そんな事すら疑問に思わなかったんだ?」
(一度、それが正しいと思い込めば、人間は、中々考えを変えられないものだ。さあ、そろそろ本当に時間がない。)
ゆっくりと沈み行く中、トレスの体は、泡立ち始めていた。
小さな気泡が、体中から発生している。
しかし、そんな事も気にせず、トレスは質問を続ける。
「じゃあ、何故龍脈は、人を選ぶんだ?」
(あれは、体が分解されぬ様、龍脈を安全に通り抜ける為の印だ。さあ、掴まれ!手を離すんじゃないぞ。)
「通り抜ける!?って何処に!?っうお!」
ヘムべロスが、切先を水面に向けて、物凄い速さで上昇を開始した。
トレスは、両手で握り締めた柄に、体を引っ張り上げられる。
トレスには、ヘムべロスにまだ聞きたい事が山程あったが、あまりの勢いに、柄にしがみ付くだけで精一杯だった。
(龍脈の根元を目指せ。答えは全て、そこにある。)
「――龍脈の根元!?」
ヘムべロスは、水面から飛び上がっても尚、上昇を続ける。
「うわああああ!」
トレスは、龍穴の大穴から飛び立ち、上空へと舞い上がった。
(わたしの名は、ドラゴンスレイヤー・ニコリエラ。)
ヘムべロスは、自身の名を語ると、そこからは、一切何も喋らなくなった。
上空に投げ出されたトレスは、ヘムべロスの刀身に乗り、崩壊した御社に向かって滑る様にして降下する。
街は、燻った煙を上げている場所が多い。
甚大な被害を被ったが、何とか復旧して行く事が出来るだろう。
龍の死骸に集まる人々の中の一人が、トレスの存在に気づいて指を差した。
すると、全員が、光を見上げる様に顔を上げた。
その中には、ダラックの姿も見える。
トレスは、満面の笑みで、彼らに手を振った。
トレスの足が、ヘムべロスから跳び上がると、二又の切先が地面に突き刺さった。
トレスの体は、黒い模様の入った変わり果てた姿だが、そんな事など気にせず、全員がトレスの無事を喜んだ。
駆け寄り、抱きしめ、握手をする。
こうして、ゲキリンに、平和が訪れた――。
◇ ◇ ◇ ◇
数日後。
トレスは、大自然の山道を、ヘムべロスを担いで元気に歩いていた。
「おい。そう急ぐなよ。」
そう後ろから声を掛けたのは、ダラックだった。
「別について来なくたって良いんだぞ?」
トレスは、ダラックに振り返って言った。
「馬鹿野郎。そんな馬鹿デカい剣を持った黒塗りの不審者が、一人で街に現れてみろ。騒ぎになるに決まってるだろ?俺たちみたいな保護者がいないと、困るのはお前だぞ。」
二人の後をついて歩く、丸い眼鏡をした女性が言う。
「まあ、まあ。兄さん。トレスは、浮かれているだけよ。冒険が楽しみでねー。」
そう笑って、籠手の着いた腕を上げ、空に向かって伸びをする。
緑色のショートヘアーを揺らし、気持ち良さそうに陽の光を浴びる。
トレスは、二人の様子を見て項垂れた。
「はあ……お前たち。俺は、別に遊びに行くわけじゃないんだぞ。」
「分かってるよ。だが、無理は禁物だぞ?俺たちが死んだら、誰が助けるんだ?」
ダラックは、薙刀を持たない方の腕を、トレスの肩に回した。
並び行く三人の背中は、楽しそうに弾んでいた――。
【See you next time.】




