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天使と悪魔

 儀式場に出ると、未だに老婆が、龍穴に向かって祈りを捧げていた。

 老婆は、ここを死地と決めたのか、将又、祈ればどうにかなると思っているのか。



 雷が鳴り響き、嵐が吹き荒れる。



 大半の炎は、この豪雨で鎮火した。


 だが、御社の炎は、雨にも負けず、風だけを頼りに炎上し続けていた。




 そんな中、老婆は、天を仰いだり床に伏せたりをずっと繰り返している。




 そして、その老婆の正面。




 龍穴の大穴の上空では、人型の黒い龍が大きく翼を広げて、儀式場を静かに見下ろしていた。




 黒い灰、青白い鱗、赤い火の粉、そして、残骸や瓦礫が舞う中、老婆は、無心に祈りを唱え続ける。



「ふん、ばっ、たー、きー、ばっ、たー……。」




 雷の瞬きが、老婆の燻んだ瞳に、神々しい龍の姿を映し出す。




「おい!ババア!逃げろ!」



 トレスが、老婆の前に踊り出た。


 龍穴の上空を見上げ、青白い左目を見開く。




「ヤバいのが、()()()!」




 黒龍が、その醜い顔を掲げ、大きく息を吸い込むと、龍の口元に青白い光が集中し始めた。



 バリバリと、雷が鳴り、御社は燃え盛り、強風と豪雨が体を打ち付ける。




 正に、ここは、地獄そのもの。



 暗雲の立ち込める、大きな穴の上空では、巨大な悪魔が、死の宣告を告げる寸前だ。




 トレスは、覚悟を決めた。



 右の変換機(チャージャー)の蓋を開き、ゆっくりとツマミに手を掛ける。



「やるしかねえ。」



 これは、最終手段だ。

 片方だけでも、体への負担がデカ過ぎる。


 このツマミを回して、このまま立っていられるのかすら、トレス自身にも分からない。



 しかし、やらねば終わりだ。




「うおおおおお!」




 トレスは、ツマミを持つ手に力を込める。





 ――カチッ。




制限解除(リミットオーバー)・両翼解放(・エンジェルバースト)




 トレスの両肩から、勢い良く青白い炎の翼が噴出した。



 その炎の翼を大きく羽ばたかせると、ゆっくりと翼を折り畳む。



 全身を覆う青白い炎の量は、先程の比ではない。



 炎の灯った黒い隈の目立つ瞳は、両目とも白濁としている。



 ギザギザの髪は、逆立ち、チャージャーの蓋の鉄板が、立ち昇る炎の勢いにより吹き飛ぶ。




 床に座っている老婆が、トレスの背中を心配そうに見上げた。


「トレス……お主……。」


「そこ、動くなよ。」



 トレスは、メラメラと炎を纏った両腕で、『神器・龍殺剣・ヘムべロス』を、正面に構えた。




 そして、直ぐにその時が来た。




 龍の口元が眩く輝き、物凄い力のレーザー光線が放たれた。



 青白いレーザーが、上空から龍穴の穴の縁を削り飛ばし、儀式場の祭壇を吹き飛ばした。




 レーザーは、そのまま軌道を修正し、真っ直ぐに、トレスを呑み込んだ。

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