リミットオーバー
御社の塀を、粉々に吹き飛ばし、庭先の草むらに背を預けた。
「いっ、たた……。」
二又の切先を地面に突き刺し、大剣を体の支えにして立ち上がる。
脇を長い鍔に乗せ、ふらふらとする脚の代わりにした。
黒龍は、ゆっくりと振り返り、その獰猛な黄色い瞳で、トレスを注視する。
「ぐるるるる……。」と、牙の付け根を剥き出しにして、喉を鳴らした。
その喉を振動する重低音が、街中をも震わせる。
この緊迫した状況の中、トレスは、口角を上げた。
「へっ。」
攻撃には、失敗したが、注意を引く事には、成功した。
それだけでも、十分な成果だ。
龍は、バッと、漆黒の翼を広げると、空を滑空してトレスの下にやって来る。
トレスは、猛スピードで飛んでくる異形の化物を、その目に捉え続けた。
「ミカ……俺は、やるよ。見ててくれ。」
トレスは、剣に体を預けたまま、左肩の鉄の箱を開けた。
蓋の開いた箱の中には、変換機を構成する回路と光る小さな電球を覗き見る事が出来る。
そして、トレスは、箱の中に指を突っ込み、小さなツマミを捻り回した。
――カチッ。
『制限解除』
トレスの左肩の変換機から、青白い炎の翼が噴き出した。
そこへ、龍の巨体が、その勢いを殺す事無く、トレスの所に着地した。
逞しい大きな黒い二本の脚を、地面に滑らせる。
「ガカガガガーン!」と、大地は、大きく抉れ、御社を上下に震わす。
まるで龍の隕石だ。
大量の土埃を巻き上げ、トレスを擦り潰す様にして、その強靭な体を停止させた。
トレスは、後方の渡り廊下の屋根の上に、跳び退いて難を逃れた。
左手に握る大剣を、優々と持ち上げる。
トレスの左肩は、青白い光の炎を帯びていた。
全身を覆う青白い輝きは、その強さを増している。
特に左半身は、メラメラと燃え上がる炎の様な強い輝きを放っている。
この力があれば、ドラゴンとも渡り合える。
そんな自信が、トレスの表情から読み取れた。
その勇ましいトレスの左目の眼球は、青白く燃え滾っている。
体にかなりの負担があるのが、それを見ただけで分かる。
龍は、二本の腕をもどかしく掲げると、大きな口を広げてトレスに吠えた。
「ガオオオオオオオオ!」
その凄まじい咆哮で空気が振動し、ビリビリと音を鳴らす。
トレスは、燃える片目を瞑り、耳障りな咆哮を耐えつつ、次の行動を起こす。
これまでに数多くの魔物の相手をしてきた狩人が、この隙を逃すはずがない。
屋根を駆け、跳ねる様にして回り込み、素早く龍の側面を取る。
そして、力強く屋根を蹴り上げ、宙を舞う――。
二又の龍殺剣を、龍の太い腕目掛けて振るう。
ガキンッ。
龍の左腕の硬い鱗に刃が接触すると、左手で振るう剣の柄に、右腕を目一杯の力で押し付けた。
トレスは、剣に体重を乗せ、一気に振り抜く。
「いけえええええええ!」
一度、斬り込みが入ると――。
斬。
一瞬で、剣先が弧を描いて移動した。
トレスの体は、刃の軌道に乗り、その断面の間を通過する。
龍の左腕が飛んだ。




