奇襲
トレスは、御社の屋根の上を駆け抜け、龍の位置を探った。
「――いた!」
御社を囲む塀の向こう側、森林公園の隣の住宅街に、上空から降り立っているところだった。
「意外と近い場所で助かった。」
この左肩の上の巨大な龍殺剣を、遠くまで担いで移動するのは、少しばかり骨が折れる。
トレスは、渡り廊下の屋根から塀に飛び移り、龍の居場所を目指した。
あの黒い龍は、人の密集している場所を狙って、襲っている様だ。
住宅街には、街から逃げるのを諦め、家に立て籠っている人々が多いのだろう。
家は、街の住人にとって、大きな財産だ。
命が掛かっているとしても、そう気軽に手放せる物ではない。
赤い天狗の『韋駄天』が、大通りで避難誘導している姿が見える。
他の韋駄天の姿は、見えない。
きっと街の外で、ここぞとばかりに襲って来る魔物の相手を行っている事だろう。
守護者の彼らでも、龍に立ち向かうことは、自殺行為だ。
彼らには、多くの住人を救うと言う使命がある。
ここで無茶な行動を取るわけには行かない。
韋駄天は、その身に沢山の人々の命を、背負っているのだ。
背中に背負う『四角い箱』の重みが、今も彼らの原動力となっている。
何としてでも、生き残らねばならない。
と、なると、あの禍々しい龍を止められる者は、トレスだけしか居ない。
トレスは、『龍の頑丈なる力』を最大限に発揮する。
この力のデメリットなど、考えている場合ではない。
住宅の屋根の上を、次々と駆け抜け、龍の背後を取る。
そして、勢いを付けて飛び上がり、背中の翼の付け根へと飛び込んだ。
漆黒に輝く二又の大剣を、高く、高く、掲げ――狙いを定める。
「うおおおおお!」
黒金の刀身を、大きな背中に叩き込む――。
斬――。
「――っ!?」
突如、トレスの視界が、黒い影に覆われた。
――バチンッ。
龍の背を目指していたはずのトレスの体は、なんと、真逆の方向へと吹き飛んだ。
龍は、トレスの事など、見てすらいない。
気付いてすら、いなかったはずだ。
そのはずだというのに、牛の尻に集るハエの如く、巨大な尻尾で叩き落とされた。
トレスの体は、目にも止まらぬ速さで、住宅街の上空を過ぎ去り、御社の塀の中へと突っ込んだ。




