儀式場の婆様
外の儀式場では、老婆が床に座り込み、龍穴に向かって祈りを捧げていた。
その周囲では、炎が燃え盛り、本堂の屋根にもどんどん炎が燃え移っている。
老婆の居るこの場所が、炎に包まれるのも時間の問題だろう。
「なん、だー、かん、だー、しっちゃかー、めっちゃかー……。」
老婆は、合わせた手をゴシゴシと擦り合わせながら、難しい顔を天に向けた。
空は、煙で覆われ、灰の混じった青白い光と大量の赤い火の粉が、老婆の周りに降り注いでいた。
そこへトレスが、血相を変えてやって来た。
老婆に駆け寄り、早速罵声を浴びせる。
「おい!ババア!これは、どう言う事だ!」
「む!トレスか!お前も、早く避難するのじゃ!」
トレスは、老婆の胸倉を掴み上げる。
チャージャーを起動しているトレスの力は、絶大だ。
老婆の体が軽々と持ち上がった。
「違うだろ!なんで龍が生まれたんだ!これじゃ!ミカの死が、無意味だろうが!」
老婆は、苦しそうにトレスの腕を叩く。
「うっ!わ…しだって…気持ちは、同じじゃ…。」
トレスが手を離し、老婆を床に落とした。
「ゲホッ…ゲホッ…。ゲキリンで龍が生まれたのは、数百年ぶり……誰にも予測は、出来なんだ。これは、天災じゃ。」
トレスは、燃え盛る本堂を眺める。
「穢れって、何なんだよ……。こんなの、ミカが浮かばれねえじゃねえか。あいつは、誰よりも熱心に……街の事を思って、祈りを捧げてたんだぞ。」
そして、次は、龍穴の方を向く。
無残に爆発したガスプラントと跡形も無い水工場が、煙を上げて大穴を挟んでいた。
「それが、この有様だ。クソが!」
「……そうじゃな。おい、トレス。何処に行く。」
老婆が感傷に浸ろうとした所で、トレスが背を向けて歩き出した。
「街を守るに決まってるだろ。神器を使わせてもらうぞ。武器が必要だ。」
トレスは、そう手を振って、背中で答えた。
老婆は、まさかの答えに目を丸くする。
「――っ!?駄目じゃ!龍に手を出しては!呪われるぞ!?」
「それも、本当か、どうか、怪しいもんだぜ。じゃあ、何で神器があんだよ?龍を倒す為だろ?」
老婆は、それに言い返せず、呆然として立ち尽くした。
トレスは、炎の燃え盛る本堂の中へと消えて行った。




