ソリッドセンス
細い、地上へと続く階段を、駆ける様にして上がる。
階段の先には、金具で止められた分厚い木の扉がある。
その扉の覗き穴から、階段に薄っすらと光が差し込んでいた。
トレスは、細身の筋肉の付いた腕を上げて、肩のチャージャーの調子を確かめる。
いざという時に使い物にならなかったら困るからだ。
ダラックが、階段の上の扉に差し掛かった時。
足元――階段全体が地震の如く、激しく揺れ始めた。
そして、低い轟音が響いたと思えば、目の前の扉が、周囲の壁ごと吹き飛んだ。
――ドガーン!
「ぐわー!」
一瞬で、ダラックの姿が、瓦礫に飲み込まれた。
粉塵が舞い、暗闇がトレスを襲う。
トレスは、何とか瓦礫から免れたが、目の前が石壁の残骸の山となった。
「ダラック!」
瓦礫の中では、分厚い扉が粉々に割れている。
トレスは、急いで掘り起こすが、手作業では大変だった。
緊急事態だ。
トレスは、『龍の頑丈なる力』を使用する事に決めた。
腕を顔の前で交差させ、親指の腹で肩のボタンを押す。
『変換機起動』
肩の鉄の装置の内側にある丸い小さなそのボタンを指で押し込むと、「ブン。」と、小さな駆動音が鳴り、青白く輝き始めた。
自身の体に流れる血液に、力が流れ込むのを感じる。
それに伴い、体中が仄かに青白い光を纏う。
『龍の頑丈なる力』により、トレスの肉体が強化されて行く。
今のトレスの肉体は、正に龍の如し。
筋力は、勿論のこと。
骨、皮膚、爪、毛――自身のこの体全体が、頑丈となる。
生半可な事では、怪我などしないという事だ。
トレスは、瓦礫を掘る様に、軽々と排除して行く。
「ダラーーック!」
急がねば、ダラックの命が危ない。
そう感じた。
大きな扉の残骸を取り除き、階下へと放り投げる。
すると、そこに、ダラックの上半身が現れた。
明るい髪は、塵で灰色に染まり、額から血を流している。
ダラックは、意識の朦朧とする中、半笑いで言う。
「くっくっく。ヘマしちまったな。」
「おい!喋るな!今、残りも!どかしてやるからな!」
トレスは、急いで瓦礫を退ける。
ダラックが、苦しそうに話し続ける。
「ごふっ。俺は、大丈夫だ…。少し…休めば……良くなる。トレス……街の人達を、頼んだぞ。」
ダラックの綺麗な緑色の瞳が、トレスを見つめる。
そして、右腕の拳を握り、トレスに向けて突き出した。
トレスは、ダラックの現状を見て、目を丸くする。
「何言ってんだ!街の人?街の人なんて知るかよ!自分の心配をしろよ!」と、ダラックの事を思い、必死に訴えた。
それでも、笑って見つめてくるダラックに、トレスは、降参した。
「ああ!クソッ!わーったよ!どうなっても、知らないからな!俺を恨むんじゃないぞ!」
トレスは、ダラックの拳に、力強く拳を合わせた。
「ああ……。」
ダラックは、笑って返事をすると、気を失った様に腕を下ろして目を瞑った。
「クソ……。」
トレスは、歯を食い縛って、穴の空いた壁の外を見た。
鈍い破壊音、焦げ臭い匂いと煙……。
戦争でも起きてるのかと思う程の騒がしさだ。
トレスは、ダラックを残し、この場を後にする。
死に物狂いで駆け出した。




