第4話:星都の歴史_4
「ルリさん! 持ってきてくれたのね、ありがとう。エイナさん、少し落ち着いてちょうだいね?」
「落ち着く? アタシは落ち着いてますけど? 落ち着いていないのはキャス先生では?」
「エイナさん……?」
「全員揃ったかー?」
キャスではない声にみんなが一斉に声の主を見た。
「よぉ。俺の名前はアレフ・ガルシア。気軽にアレフと呼んでくれ。見りゃわかると思うが俺は講師じゃない、パイロットだ、ここにあるウィッチボットの」
「おぉぉ!」とそこら中から声が上がる。歓喜の声だ。アレフは候補生たちと同じボットスーツを着ていた。但し色が違う。正式なパイロットと候補生の違いだ。ボットスーツはウィッチボットに乗る時以外にも使い道がある。その場合に着るスーツも色が違う。
「そっちのキャスから聞いてるが、今日は候補生全員ウィッチコアに入ってもらい、それからウィッチボットへ搭乗してもらう。最初は乗るだけだ。コアの中の感じを体験してもらうのと、ウィッチボットからの視界を是非体感してもらいたい。乗らなきゃわからないこともある。それを知るのは早いほうが良い」
爽やかな笑顔で話すアレフは、自己紹介の通りウィッチボットのパイロットだ。面倒見も良く、トウヤやエイナのような年代から見ると、親子ほど年が離れている。短髪で非常にガタイが良く身長も高いからか、知らない相手からは怖がられることも多い。だが、根は優しく面倒見の良い男性だ。
「早速だが、誰から乗る? そうだな、初めて乗るなら……あのダスティが良いだろう」
アレフが指さす先には、一台のウィッチボットがあった。名前はダスティ。攻撃特化型のウィッチボットで、バランスを取るために下半身が重めの設計になっている。その分少し動作は重いが、操作するパイロットによってはそれも関係ない。他のウィッチボット含め、基本的に所謂人型、二足歩行のロボットだ。例外もあるが、対魔女で駆り出されるのはこの形である。
ダークグレーをベースに、赤を差し色にした機体。暗めの色合いだが、ずっしりとした重厚感のある光沢も相俟って、中々貫禄のある見た目だ。見ようによっては、下半身は中央にスリットの入ったロングスカートか、二股に分かれた袴のようにも見える。
この見た目がウィッチボットたる所以だ。角張っているよりかは曲線が多く、丸みを帯びている。他のウィッチボットにもダスティのように特徴があり、ある機体はシャープな造り、ある機体は角張っていてデザインも簡素になっている。それでも、どちらかといえば女性的な、魔女をモデルにして作っただろうことが窺える外見だ。魔女の姿を知っていれば、この機体を見て真っ先に浮かぶのは魔女だろう。
「ダスティは攻撃特化型、早く動くのはあまり得意じゃない、大きな一撃を狙うんだ。それでもある程度防御力はあるから、チャンスは多い。今は俺の相棒だ」
「あの、質問良いですか?」
「どうぞ。名前は?」
「トウヤです。トウヤ・イサキ」
「そうか。じゃあトウヤ、質問をどうぞ」
「ありがとうございます。あの、このウィッチボットは、パイロット一人につき一機あてられるのでしょうか? ここを見た感じ、数は多くないですよね? 全部種類も違うみたいですし……」
「あぁ、まだその辺りの話は聞いていないんだね。基本的な勉強かな? まだ」
「はい、ウィッチボットや魔女に関する基礎的なこと、今まで学校で習ってきたことと同じような学習です」
「よし、じゃあまずは乗ってみよう。俺は習うより慣れろタイプだからね。勉強も大事だが、感覚も経験も大事だ」
「はい!」
「みんな、これを見てくれ」
アレフの手には、手のひらサイズの球体が乗っていた。不透明で中は見えない。色はダークピンクゴールドだ。
「これがウィッチコアだ。これに乗り込むことは知っているな?」
皆一様に頷いた。
「触れるだけ、こんな風に、手に乗せただけじゃあ起動しない。キャス、持っていてくれるか?」
「はい」
アレフはキャスにウィッチコアを渡すと、彼女の隣に立った。
「このダークピンクゴールドの状態は、誰も乗っていないことがわかる。既に習ったと思うが、人が乗り込むと黒に変わる。それで、現在使用されているかどうかがわかる」
候補生たちは熱心に話を聞いていた。トウヤ、ルリは当然ながら、先ほど悪態をついていたエイナも真剣な眼差しでキャスの手元を見ている。
「まずはシードを入れる。好みもあるが、魔女の種類や機体によって変えることが常だ。忘れるな」
アレフは机に置いてあった箱の中から宝石のようなものを取り出すと、ウィッチコアへ上から流すように入れていく。穴も開いていないのに、ウィッチコアはそれを全てのみ込んでいった。
「起動は、こうだ。手を大きく広げて、ギュッと握る。力は込めたほうが良い。手が小さくても気にするな、とにかく手を広げて、握り潰すような気持ちで」
そう言って、キャスに持たせたウィッチコアを、アレフは上から潰すように握った。
ピピッ。
小さな音が聞こえた。静かだから聞こえたが、騒がしい状況であれば聞き逃してしまいそうな。
「あっ」
誰かが驚いてそう言った。ウィッチコアを握ったアレフの手が指先から順に、テクスチャが剥がれ落ちるように、光りながらバラバラと消えたのだ。手だけじゃない。手から腕、胴体に頭、太ももから足先まで、同じように消えていった。
彼が完全に消えた時、もう一度「ピピッ」と音が鳴ると、ウィッチコアがダークピンクゴールドからクリアになり、中に誰かが乗っているのが見えた。……彼だ。そしてスモークがかかったように見えなくなると、不透明な黒へと色が変わった。




