第3話:星都の歴史_3
ウィッチボットは、おおよそ体長二から三メートルほどの比較的小さなロボットだ。見た目は人間と異なるが、なんとなく魔女を模して造られたようにも見える。中に人がそのまま入ることはできないが、ウィッチコアと命名された黒い手のひら大の球体に触れることで、その球体内に入ることができる。その球体をウィッチボットに融合することで、中に取り込まれた人間がウィッチボットを動かせるようになるのだ。動かす時は搭乗者の意志と感覚、適応力が非常に重要な要素となる。操作は搭乗者本人が全て自分で行うからだ。
ピィスメイカーは、このウィッチボットの管理及び研究、そしてそれに乗り込むパイロットたちの育成もしている。集められてまだ日は浅いが、パイロットとなる予定のトウヤたちは候補生と呼ばれ、日々通常の勉強だけでなくウィッチボットや魔女についても学び、その知識を深め実技も行うことで研鑽していた。パイロットにはある程度の適性が必要になるため、候補生の選ばれる推薦理由にその適正も含まれている。特別な理由や調整がない限り、その適正が低い状態で推薦されることはまずない。
適性が低いということはすなわち、その分死への距離が近いということだからだ。
「さて、皆さん今日はしっかりと復習していましたね。素晴らしいです。明日も引き続き、きちんと復習した状態で授業に臨めると良いですね。では、昨日は近くで見るだけでしたが、今日は実際に乗り込んでみたいと思います」
「ホントに!?」
「やったあ!!」
「信じられない……アレに乗れるんだ……」
「あぁ……お母さんに自慢しなきゃ!」
ザワザワと候補生たちが喋り始める。今までウィッチボットを見たことはあっても、乗り込んだことはなかった。候補生として学び始めたばかりのため当然と言えば当然なのだが、やはり皆の興味は座学よりも実技なのだ。自分たちよりも大きな機体に乗り込む。未知なる敵魔女と戦う。魔女と戦うことは彼らにとって誇りであり、ピィスメイカーに収容された今、それが生きがいになっていた。全寮制の施設のため、ここに家族や今まで付き合ってきた友人の類はいない。いるのは仲間と組織の人間。そして、魔女とウィッチボット。
「さぁさぁ、落ち着いて。今から移動します。まずは全員、更衣室でボットスーツに着替えてください。それからウィッチボット格納庫へ。ヘルメットはまだ装着せずに、手に持ってきてくださいね。全員揃ってから、また説明します。私は先に行きますので、それでは後ほど」
キャスは候補生たちにそう言うと、教室から出て行った。残された候補生たちは、連なって更衣室へと移動する。
「あ、あの、ご、ごめんね? さっきの授業あんまり上手く喋れなくて……い、イライラさせちゃったよね……?」
「別に? ってかそのウジウジした喋り方どうにかなんないの? アタシがいじめてるみたいじゃん」
「ご、ごめんなさい……」
「はぁ。だからそういうところなんだってば! もういいよ、さっさと着替えたら? 置いてかれるよ?」
「う、うん、ごめん」
「……」
フン……っと鼻を鳴らして、先に着替え終わったエイナが更衣室を出た。ルリも急いでスーツへ着替える。ボットスーツは着用者の身体にフィットするよう設計されており、それぞれ計測した結果を元に特注で作られている。身体のラインが出ることをルリは好ましく思っていなかったが、これも今後のためと口には出さずにいた。色々考えていたのか、着替え終わる頃には誰も残っておらず、一つだけ置き去りにされた自分のモノではないヘルメットを脇に抱え、大慌てで更衣室を出た。
ウィッチボットの格納庫へ到着したルリは、既に整列している自分以外の候補生の姿に焦りながら、その列へ加わった。
「――ルリさんで最後かな? みなさん、きちんと着替えてきましたね? 流石にスーツを間違えることはないと思いますが……」
「あ、あのっ!」
「ルリさん? どうかしましたか?」
「このヘルメット、私のものではないんです。誰か、間違えて持って行っていませんか?」
ヘルメットに名前を書く義務はない。格好よくないという理由から、大半の候補生が名前を書かずに自分だけが分かるような記号やマークを付けている。ルリの手元にあったヘルメットも同様で、既存模様以外のマークが一つ描かれていたが、それが誰の物なのかルリには判別できなかった。
「俺のじゃないけど」
「僕も違う」
「私も違うなぁ、ホラ、ピッタリ」
「自分かな? ……あー、じゃないや」
各々確認するが、誰も違うという。
「返して!」
「あっ!」
ルリの持っていたヘルメットを取り上げ、自分の持っていたヘルメットを押し付けたのはエイナだった。
「アタシのヘルメット、アンタが持っていってたの!? はー、最悪」
「ご、ごめん……」
あまりの剣幕にルリは驚いた。ルリを擁護するならば、決して彼女が勝手に持っていったわけではなく、ロッカーに置いてあったものを誰の物か確認するために持ってきただけだ。自分のヘルメットはなく、代わりにコレが置いてあったから、誰かが間違えて持っていったのなら、あとで困るだろう……そう思ってのことなのだ。目立った非はない。
「……ねぇ、エイナちょっとおかしくない?」
「そうだよな、自分が間違えて持ってきたのに、ルリのせいにするなんて……」
「何? 言いたいことがあるならハッキリ言えば?」
「……」
辺りがシーンと静まり返る。




