第24話:マチルダの出撃_4
「じゃあ、次は走るぞ! 全力と、温存。脚は軽く動く。脚への負担も軽減してくれる。マチルダ、追いかけっこでもするか?」
『あら、いいじゃない! それなら、私がオニをやるわ。捕獲されたら終わり。助けに来るのはあり。助けられたら逃げていい、タッチね。アレフは手を出しちゃだめよ? 捕まえた子たちの、見張り担当ね』
「その岩の上がちょうど良さそうだな。キャス、鬼ごっこしてもいいよな?」
『えぇ、もちろん。スーツ時、基本は走ることになるでしょうから、早めに慣れておくべきです』
「先生の許可があるなら問題ないな! あっちの岩を見てくれ!」
視線の先には、大きなテーブルのような岩があった。角はゴツゴツと尖っているが、上側表面は滑らかで目立つ凹凸はない。
「いいかー! 全員十秒で逃げろ! そのあとを、マチルダが追いかける。捕まったらこの岩の上に。制限時間は三十分、全員捕まえたらマチルダの勝ち。半分以上残ったら、候補生たちの勝ち。それじゃ、よーい――スタート!」
「あっ、は、始まっちゃった!?」
「早く逃げろ!」
「固まるんじゃないぞ!」
『いーち、にーい、さん! しーい、ごーお……』
マチルダが、ゆっくりと明朗な声で数を数えている。この後、自分たちに向かってくるのは人間ではなく、ウィッチボット。遥かに巨大、とまではいかないにしろ、ある程度の大きさはある。人間から見て、二、三メートルは大きい。『これに捕まるかもしれない』ことを意識した候補生たちは、ボットスーツの機能を生かしながら、バラバラに走っていった。
『……はーち、きゅーう、じゅう! ……さぁて、みんな逃げたかな? どこから行こうかなぁ、ふふふっ、久し振り、こういうの』
舌をペロッと出して唇を撫でるマチルダ。ニヤリと笑い、目の奥に闘争本能の炎を燃やす。
「なぁ、盛り上がってるとも悪いけど、ほんのちょっとくらいは手加減してやれよ? 泣くかもしれないぞ」
『あら、泣かせるつもりで行くわよ? だって、ウィッチボットたった一体から逃げられなかったら、魔女から逃げられるわけないじゃない。小回りはあっちのほうが断然きくし、戦いに慣れていそうなんだから。そうなったら、泣くどころじゃすまないわよ?』
「……まぁ、それはそうだな」
『じゃ、行ってくるから。ワタシが捕まえた子たちと仲良くしてね?』
「へいへい。ご武運を」
『水を差すようで申し訳ありませんが、何か異変があったらすぐに教えてくださいね』
『はぁい。キャスはみんなの動きとか、癖なんか見ておいてね?』
『わかりました!』
『よろしく』
ダスティが空を飛ぶ。中に乗っているのはマチルダだ。アレフが搭乗した時と変わらない動きを見せている。彼女も立派なパイロットで、日々鍛錬を積んでいることは明白だった。
『さてさて。みんなはどこに行ったかな?』
独り言を言いながら、マチルダは視界を広くとるために高く飛んだ。シードの魔力を使い、敵――今回の対戦相手である候補生たち――の感知能力を高める。
『はー……パッと見ではなかなか見つけられないわね。みんなどこかに隠れたのかしら。それなら、ボットスーツの使い方は上々ね。逃げ足の速さは大事』
岩陰や木の下に隠れたのか、今のところ一人も見当たらない。
『もうちょっと、感度を上げて……よし! いた!』
使う魔力を増やすと、薄っすらと障害物に当たる物体の奥が透けて見えた。
『なぁんだ。みんな思ったよりも固まってるじゃない。それなら』
ダスティの腕に魔力を集中させる。減ったのは、土魔法を司るシード。これは、彼女の得意魔法だった。魔力が溜まったのか、ダスティの両腕が茶色がかったオレンジ色に発光している。そのまま腕を上げ、両手を天へかざす形で、狙いを定めた。――といっても、この魔法は広範囲魔法。候補者たちのほとんどが、知らない内に彼女の魔法の射程内に捉えられていた。
『そんなところに隠れちゃダメだよ、候補生君たち?』
「ドーン」と、口角の僅かに上がったマチルダの唇が音を放つ。同時に、ダスティが両手を強く握った。その握った手から零れる茶オレンジの光が、まるで流れ星のように地面や岩へ当たっては砕けた。その光の到達地点にあった岩も、当然のように同時に砕ける。木は幹が裂け、岩壁は崩れ落ち、ただの光が物理的な威力でもって周辺を壊していく。
「うわっ、ちょっ……!!」
「きゃぁぁぁっ――!!」
岩壁の陰から顔を出したのは、パスコとルリだった。両手で頭を覆いながら、できるだけ遠くへ逃げようと脚を動かしている。ボットスーツを着ているだけあって、速度は速く一度に稼げる移動距離も長い。が、二人のその姿はもう、マチルダに捕捉されている。
『逃げられないよ――?』
その宣言通り、ダスティの手から放たれる光は、パスコとルリを追い詰めていった。走る先に光が落ち、岩の欠片と砂埃が舞う。その欠片と砂埃を目くらましにして、いつの間にかダスティの指が、ルリの身体を捕らえていた。
『捕まえた!』
「わわわっ!」
柔らかく、潰さないように身体を掴まれたルリは、足をバタバタさせて指を解こうと試みた。だがしかし、簡単にダスティの指を解くことはできない。
『よーし、この調子で……』
次の標的はパスコだ。捕まったルリを背に、パスコはできるだけ大股で、踵とつま先に力を込めて、前へ跳ぶように走った。ルリの存在は気になるようだが、迂闊に手が出せないように見える。




