牙の向く先ー7
──仮設本部。
扉が勢いよく開き、サンがナイトファングを抱えたまま駆け込んでくる。
「隊長! 大変です!!」
リルは立ち上がると酷く焦った様子のサンへ視線を向ける。
「何があったの?」
「小屋の扉がこじ開けられててっ……怪しい男がこの子を袋に入れて運んでたんです。
フードを被ってて顔は見えなかったけど、すごく慌てて逃げていきました」
ケルヴィが端末を開きながら、眉をひそめる。
「連れ去ろうとした? どうしてだ……?」
そのとき、ミュリルが息を切らしながら戻ってきた。
「す、すみません……逃げられました……!」
リーンが静かに立ち上がる。
「謝ることじゃない。安全第一だ……」
リーンのその言葉に、両膝に手をついて息を整えていたミュリルが顔を上げ、更に言う。
「で、でも……私、見ました! 連れ去った人物の腕に……包帯が巻かれて……!」
ミュリルのその言葉にリーンは驚いた顔をしたが、瞬時に表情を緩める。
「そうか。……お手柄だぞミュリル」
「ほ、本当ですか?」
「ああ。お前のその証言で、こっちも仕掛けられる」
リーンがミュリルの肩に手を置いて労ってる傍でリルはサンの腕の中のナイトファングを見つめる。ナイトファングのその瞳には、怯えと、微かな痛みが宿っていた。
「こんな小さな子まで……脅威だというの……」
「ふむ……」
ケルヴィが端末を操作しながら、低く呟く。
「……ナイトファングの傷は、どれだけ良い魔法薬を調合しても数週間は消えないというが……」
ケルヴィの言葉に、リーンは窓の外へ視線を向け口角を微かに上げる。
「……“力になって”もらおうじゃないか」
リルは静かに頷いた。
「少なくとも連れ去りは彼の様ね……。ヴァルド・グレイムに、もう一度話を聞きにいきましょう」
──夜の薬師の家。
薄暗い灯りの中、ヴァルド・グレイムは棚の奥から包帯を取り出し、右腕に巻き直していた。
彼の表情に痛みはない。あるのは、焦りと苛立ち。
「……魔物め……」
呟きながら、瓶の蓋を閉めたその瞬間――。
「ヴァルド・グレイムさん。話があります。開けてください」
外から、リルヴェット・クローディアの声が響いた。
扉を叩く音が、静かな夜に不自然なほど大きく響く。
「……くそっ」
ヴァルドの目が鋭く動く。
彼はすぐさま裏手の扉へと向かい、静かに鍵を外し、扉を開けたその先――。
「出迎えご苦労。また、必ず会うって言ったろ」
腕を組んだリーン・アークライトが、月光の中に立っていた。
その瞳は、静かに、だが確実にヴァルドを捉えている。
「……っ!」
ヴァルドは反射的に反対側へと走ろうとする。
だが、そこには――。
「逃がしませんよっ!」
仁王立ちのグラン=ミュリルが、両腕を広げて立ちはだかっていた。
その巨体が、通路を完全に塞いでいる。
「おいおい、なんで逃げる。いつ来ても、力になるんだろ?」
リーンの声が、背後から静かに響く。
その言葉にヴァルドは動きを止め、肩はわずかに震えていた。
「……中で、話そうか」




