牙の向く先ー6
──薬師の家。
棚には乾燥した薬草が並び、窓から差し込む光が調合台を照らしていた。
リルは、手袋越しに瓶を差し出す。
「この瓶、ブランドンさんの家で見つかったのですが……あなたが調合したもので間違いありませんか?」
薬師は瓶を受け取ると、蓋を開け、眉をひそめる。
「……確かに、これは私の調合瓶です。でも、中身は、違う、ような……私が作った薬は、もっと淡い色で、香りも……違う」
リーンが静かに言葉を継ぐ。
「ブランドンさんが、ナイトファングの治療のために薬を求めたと聞いています。その時、ヴァルドが薬を届けると言って出ていったそうですね」
薬師は頷きながら、記憶を辿るように言った。
「ええ。確かに、私は調合を終えて、彼に渡しました。そして、その後、ブランドンさんが再び来て……“薬がおかしい”と怒っていたんです。私は驚いて、事情を聞こうとしたんですが……ヴァルドが外へ連れ出してしまって」
リルとリーンは互いに目を合わせる。
「……貴重な証言、ありがとうございます。この瓶、もう少しお貸しいただいてもよろしいですか?」
薬師は静かに頷き、瓶を机に置いた。
──飼育小屋。
夕暮れの光が、飼育小屋の木枠を赤く染めていた。
サン・エルミナスは、そっと扉に手をかける。
だが、指先に触れた感触に、違和感が走った。
「あれ……鍵、閉めたよね……?」
サンは背後のミュリルへ顔を向ける。
「……はい。確かに閉めてるの、見ました」
二人は顔を見合わせると、サンがすぐさま小屋の中へと飛び込む。
巨体ゆえに中まで入れないミュリルは、顔だけ小屋の中へ入れて覗き込んだ。
「うそっ……」
「そんな……」
そこにいるはずのナイトファングの姿はなく。
乱れた寝床用の藁のみが残されていた。
「……やられたっ……!」
サンのその言葉に、ミュリルは森の方を指さし言う。
「急ぎましょう! まだ近くにいるかもっ!」
──村の裏道。
二人は小屋の裏手から、村の外れへと走る。
そのとき、サンがふと、細い路地の先に目を留めた。
「……あれ、見て!」
月明かりの下、フードを深く被った人物が、大きな布袋を引きずって歩いていた。
袋の中から、かすかな鳴き声――くぅん……と、怯えたような声が漏れる。
「ちょっとその子を放してっ!」
サンが叫びながら駆け寄る。ミュリルも地面を揺らしながら追いかける。
「っでかっ……!」
男は振り返り、驚いたように目を見開いた。
「ちょっと待ちなさいってば!!」
サンの声に、男は布袋を手放し、踵を返して逃げ出す。
「逃がしませんっ……!」
ミュリルがすぐに追いかけ、サンは袋に駆け寄ると、そっと開く。
中には、怯えたナイトファングが身を縮めていた。
毛並みは乱れ、瞳には恐怖が宿っている。
「……もう、大丈夫。怖かったね」
サンはそっと抱き上げ、胸元に包み込む。
その体は、小刻みに震えていた。




