牙の向く先ー5
──仮設本部・検視室。
サンは、白いナイトファングの遺体にそっと手を添えていた。
毛並みの奥、皮膚の下に、古い裂傷が浮かび上がる。
「……死因は出血性ショック。でも、この傷は……もっと前に受けたものみたい」
サンの言葉を聞きながら、ケルヴィは片手に装置を持ち、白いナイトファングの腹部辺りにかざしている。
「そうか……。こっちも、そのことに繋がる成分が検出できそうだ」
ケルヴィのその言葉を聞き、サンはケルヴィの装置を覗き込むように顔を寄せる。
「なにか見つかったの?見せて見せて」
「扱ったことない君が見たところで分からないだろう。もう少し待て」
ケルヴィは空いている手で端末を掴むと、素早く操作する。
「出たな……。これが、このナイトファングが死ぬ間際まで、血液と共に体内を流れていた成分だ」
「え……これって……!」
ケルヴィが差し出した端末を見て、サンは驚きの声を上げ、ケルヴィは静かに、横たわる白いナイトファングへ視線を向けるのだった。
──仮設本部・作戦室。
長机の上には、報告書、解析データ、現場写真が並べられていた。
リルは椅子に腰を下ろし、周囲を見渡す。
「それじゃあ、今までに集めた情報を整理しましょう。……まずは、ブランドン家の現場から」
リーンが資料を手に、静かに口を開く。
「納屋の床に、二種類の血痕。色の違いから、人間と魔物のものと推測される。あと、部屋の隅からは、牙の形状をした金属片。明らかに加工されたもので、自然なものではない」
リルが頷き、次の資料に目を移す。
「薬瓶も見つかってるわ。……ケルヴィ、成分の解析は終わった?」
問われたケルヴィは端末を操作しながら答える。
「残留成分から判断して、治療薬ではありません。神経系に作用する毒物の可能性が高い。そして、白いナイトファングの体内からも、同様の毒素が検出されています。死の直前まで、血液と共に循環していた」
サン・エルミナスが手元のメモを見ながら、静かに言葉を継ぐ。
「白いナイトファングの遺体には、死因とは別に古い裂傷がありました。防御の姿勢で受けた傷。死ぬ前から、すでに負傷していたことになります」
リルはしばらく黙っていたが、やがて机の上の資料を見つめながら言った。
「……魔物が傷を負い、誰かが投薬した。……でもそれは毒。そして、同室で見つかった牙のような金属……」
リーンが腕を組みながら、低く呟く。
「証拠は揃い始めてる。けど、まだ足りない」
リーンの言葉にケルヴィは端末を閉じ、サンは静かにナイトファングの写真を見つめる。
「傷を手当てした痕もありました。なので、ブランドンさんは、白いナイトファングを手当していたんだと思います。……でも、何故か……毒が……」
リルは深く息を吐き、椅子の背にもたれた。
「……調合した本人である、薬師に話を聞くしかないわね」
リーンが目を細める。
「……“誰が”犯人か、見ものだな……」




