繋がりの果て
──王宮特別警備隊本部前通路。
鎖が外された手首を摩りながら、リーンはリルヴェット・クローディアと並んで歩いていた。
夜の空気は静かで、遠くで風が木々を揺らしている。
「で……? サイプスと話した感想は?」
突然の問いに、リルヴェットは足を止める。
「……なんで分かるのっ?」
リーンは、吹き出すように笑った。
「ハメたの、ね……」
リルヴェットは睨み返す。
「いや。そうでもない」
リーンは肩をすくめ、空を見上げた。
「俺もサイプスと握手したの、見ただろ?」
「ええ……」
「一度繋がれば、遠くにいても対話することは可能だ」
リルヴェットは眉をひそめる。
「それは……どういうこと?」
「兵士が現れる少し前、あのサイプスから感情と言葉が飛んできた」
リルヴェットは黙って、リーンの言葉を待った。
「ありがとう。そして……」
リーンは、空を見上げたまま、ひとつため息を吐いた。
「さようなら……って」
その言葉に、リルヴェットの胸がざわめく。
「……報告室へ戻るわ」
リルヴェットは、絞り出すように言って走り出し、リーンは何も言わず、ただその背を見送った。
──王宮特別警備隊本部・報告室。
端末の画面が、静かに光を放っていた。
ケルヴィはそれを見つめたまま、言葉を選んでいた。
リルヴェットは、彼の前に立ち、無言のまま待っていた。
やがて、ケルヴィが口を開く。
「……サイプス、生体反応……消失」
リルヴェットの眉がわずかに動いた。
「誰が?」
ケルヴィは、端末を閉じて言った。
「王国から正式な命令は出ていない。ということは……村人たちが、独断で判断したと考えるべきかと。 ……“危険性がある”と」
室内に沈黙が落ち。
「…………」
リルヴェットは拳を握りしめた。
その指先が、白くなるほどに。
──王宮本部・廊下。
サンは報告を聞いた瞬間、言葉を失った。
「……死んだ……? サイプスが……?」
ケルヴィは頷いた。
「恐怖に駆られた結果だ。彼らは、何かが起こる前に排除しようとした」
サンは、壁に手をついて俯いた。
「……あんな優しい子を……何もしてないのに……!」
ケルヴィは、サンへ静かに歩み寄る。
「モンスターへの知識が無い彼らにとっては、モンスターは“恐怖”そのものだ。やられる前にやる。それが……彼らの“正義”だった」
サンは、涙をこらえながら言った。
「……それが理由になるんですか?誰かが怖いって思っただけで、殺していいんですか?」
サンの言葉にケルヴィは何も返さない。
「…………っ」
ただ、密かに握られた拳は血が滲んでいた。
──王宮本部・私室。
サンは、机に置かれた手記を見つめていた。
リーンの筆跡が残る『サ』のページ。
そこには、こう記されていた。
“友好的なモンスター。こいつには何度か命を救われた。
握手してお辞儀すると会話できるなんてことを知ったのは偶然だったが、おかげでこいつにお礼を言うこともできた。
困ったり悲しんだりしている所を見かければ、人間であれ、動物であれ、同じモンスターであっても、寄り添って笑顔にしたいという、ただただ優しいだけの存在。
殺すなんてこと絶対にあってはいけない。
こいつは…………”
リーンの私室で読んだことろを再びゆっくり読み進め、まだ、呼んでいなかった最後の一文で、サンの心は締め付けられる。
“友好的なモンスター。こいつには何度か命を救われた。
握手してお辞儀すると会話できるなんてことを知ったのは偶然だったが、おかげでこいつにお礼を言うこともできた。
困ったり悲しんだりしている所を見かければ、人間であれ、動物であれ、同じモンスターであっても、寄り添って笑顔にしたいという、ただただ優しいだけの存在。
殺すなんてこと絶対にあってはいけない。
こいつの存在は世界とって必要だ”
サンは滲む視界を晴らすことなく手記へと視線を向け続ける。
「……あのこの……やさしさ……が……みんなに……あれば……」
サンがそう呟き、涙を拭ったサンが、ふと窓から見える裏庭に視線を移すと、何者かが裏庭のベンチへと向かっているのが見えた。




