偽りの命令
──王宮特別警備隊本部・独房棟。
「おーい。なんだってんだ。こっちは寝てるだぞ」
リルヴェットが階段を駆け下り、リーンの独房前へとたどり着いた時。
「牢から出せ!急げ!」
兵士たちが房の扉を開けようとしていた。
「……お、隊長様までやってきたのか」
鎖を引きずりながらリーンは鉄柵付近までやってくる。
「夜中にまでやってくるって、ちょっと教育が必要じゃないか?」
笑いながら言うリーンを無視して、リルヴェットは、房の前に居る兵へと視線を向ける。
「何の騒ぎ?」
リルヴェットの問いに、兵士の一人が巻物を差し出す。
「王都からの書簡です。リーンを処刑せよとの命令が」
リルヴェットは巻物を受け取り、目を走らせる。
確かに王都の印はある。だが、差出人の署名がなかった。
「……署名が無い。これは、正式な命令じゃないわ」
兵士は一瞬躊躇したようだったが続ける。
「いえ、しかし……王都の印は本物で……」
「私は王宮特別警備隊隊長、リルヴェット・クローディア。この場の責任は、私が取る。よって、この命令は無効と判断する」
兵士たちは、互いに見合わせ、そして、一人が静かに言った。
「……なら、分かりました」
その瞬間だった。
兵士が剣を抜き、リルヴェットとの距離を一気に詰め、鋭い刃が、振り抜かれた
―――のだが。
「……ふんっ」
リルヴェットは、兵士が剣を振り抜くより早く前蹴りを放ち、顔面を捉えていた。
「うっわ……痛そ……」
檻に身体をぶつけた兵士はそのまま崩れ落ちるようにその場に伏す。
「く、くそっ!」
他の兵士が叫び、投げやりにリルヴェットへ向かっていくが、リルヴェットは腰の剣を抜くことなく、数人を体術のみで張り倒す。
「隊長ってのは……伊逹じゃないんだな……」
若干引いているリーンを無視して、リルヴェットは外へ向かって声を張った。
「そいつを逃がすな!捕らえて!」
リルヴェットが、取り逃がした一人を捉えるように声を掛けると、外では動き出した兵たちの足音と怒号が聞こえてくる。
「……いやぁ、凄い。ただ者じゃない」
リーンの言葉にリルヴェットは振り返らずに言う。
「牢屋に居ながら、命を狙われてる貴方に言われたくないわ」
「ははっ。そりゃそうだな。……でも、分かっていたような動きだったが、どうしてあいつらが偽物ってわかった?」
リルヴェットは、巻物を見つめながら答える。
「貴方を処刑する命令が下れば、まず私に連絡が入る。それだけよ」
リーンは、鎖の音を鳴らしながら首を傾ける。
「それだけ? 本当にそれだけか? ……不在の時とか、違うやつに連絡がいくことだってあるだろ?」
リルヴェットは、首を振る。
「それはない」
「はっ。凄い自信だ。どうして言い切れる?」
リルヴェットは、ゆっくりとリーンの方へ振り返る。
その瞳には、揺るぎない光が宿っていた。
「連絡が入れば……私が、貴方に剣を振るうからよ。それまでが、私の監視役としての使命」
リーンは、一瞬黙ったが、ふっと笑みを漏らす。
「……なるほど。それなら、俺はまだ生きれるってことか」




