暴かれる理由
──ロス村・村長宅の応接室。
夫人は椅子の肘掛けを握りしめたまま、視線を落としていた。
その顔には、苛立ちと焦りが入り混じっている。
「……あの……人は……」
絞り出すような声で夫人は語り始める。
「私を“妻”としてしか見てなかった。……家のことも、村のことも、全部私が支えてたのに。そして……村の人も……誰も、私を“ひとりの人間”として見てくれなかった。私がどれだけ我慢してきたかなんて、誰も気づかない。村長の嫁って……おまけとして見てるだけ。……だから、あの夜……あの化け物が現れた時、思ったの。“これで、私が主役になれる”って」
サンは、息を呑んだ。
「それって……」
その声には、戸惑いと痛みが混じっていた。
夫人は、目を伏せたまま続ける。
「あんなのを利用しても誰も責めない。むしろ、あんな異形でも私の役に立てるのよ。光栄じゃない? ああ……夫を無くした悲劇の妻として、そして、これから始まる自由な生活。……数年ぶりに興奮したわ」
リルヴェットの瞳が鋭くなる。
その声は、静かでありながら、どこか痛みを含んでいた。
「あなたが“異形”と呼んだサイプスは、あなたの夫を、そして、あなたの涙さえも救おうとしていた。それに引き換え、あなたは“異形に夫を殺された哀れな妻”として注目を集めるために、夫を殺し、罪を押しつけようとした。真実が明らかになった今、世間は、果たしてどちらを“異形の者”と呼ぶかしら」
肘掛けに置かれた夫人の手に力が込められる。
「……誰かに気づいてほしかったのよっ……! 私がどれだけ耐えてきたかっ! 誰かに認めてほしかった……! 少しくらい、いいじゃない! 私が目立ったって!!」
ケルヴィが、一歩前に出る。
「結果、あなたが得たものは何だ。誰にも共感されず、孤独に過ごすことだけだろ」
夫人は、言葉を失い、その瞳に初めて“罪の色”が滲んでいく。
サンはサイプスの布をポケットから取り出すと、夫人へ差し出す。
「貴方を元気づけようとしていたのは、あの子―――サイプスはだけでした」
サンから布を受け取った夫人は何も言わず布へと視線を落とし、リルヴェットは手錠を手に夫人へ歩み寄っていく。
「殺人容疑で、貴女を逮捕する」
応接室には再び、静寂が落ちたのだった。




