崩れる証言
──ロス村・村長宅の応接室。
重厚な木製の扉が閉じられ、空気は張り詰めていた。
リルヴェット・クローディアは椅子に腰を下ろし、サンとケルヴィはその背後に立っていて、向かいには、被害者の夫人が座っている。
「急なお伺いに、応じていただきありがとうございます。早速ですが……お辛いかと思いますが、もう一度、あの日の事をお話しいただいてもよろしいですか?」
リルヴェットの問いに、少々やつれた様子の夫人は頷きを返すと口を開く。
「……あの夜、夫は外に出ていたんです。そして、暫くすると、魔物の鳴き声と夫の叫び声が聞こえ……外へ出ると、あの……汚らしい、モンスターが……こん棒で……」
リルヴェットは、冷静に頷きながらケルヴィへ手で示し、端末を受け取る。
「その“こん棒”は、こちらですか?」
リルヴェットが差し出した端末には凶器と思われるこん棒の写真が表示されており、夫人は画面を確認すると頷きを返す。
「はい……。夫はそれで……あのモンスターに……」
再び泣き始める夫人へ、ケルヴィは大げさに端末を操作しながら声を上げる。
「あ、すいませーん! これ、別の現場の凶器でした! 今回の現場ではこん棒は見つかっていませーん。代わりに、布切れが一枚、遺体のそばに置かれていましたー」
ケルヴィの大根役者具合にリルヴェットは睨み利かせつつ、唖然とする夫人へ顔を向ける。
「部下が失礼いたしました。さっきの凶器はまるっきり違う現場のモノだったのですが、本当にモンスターがこん棒を持っている所をご覧になられたんですか?」
「は……。いえ……確かに見ました……嘘は言っていませんっ……」
「そうですか。では、布切れは、見ましたか?」
「布?そんなもの、知りません」
機嫌が悪そうに足を組んでそっぽを向いた夫人の態度にサンは堪えられなくなり、身を乗り出して口を開く。
「ご遺体の近くに落ちていた筈です。本当に見ませんでしたか?」
夫人は、顔をしかめる。
「ああ……思いだした。見たわ。あのモンスターが差し出した小汚い布でしょ」
夫人の言葉にリルヴェットの瞳がわずかに動いた。
「差し出した……?」
冷静だった表情に、鋭い光が差す。
「失礼ですが、貴女はその仕草をどこで見たんですか?」
「……え?」
「あなたは、サイプスがこん棒で襲っている所を見たと証言しています。確かに、私たちがお話を伺ってる時、サイプスは貴女へ布を差し出していました。貴方の“背後の檻の中”で」
顔を強張らせた夫人へ、更にケルヴィが、端末を見ながら静かに言う。
「あと、魔物の声を聞いたと証言していますが、サイプスは見ての通り、その殆んどが骨であり、空気を送り込む肺も無ければ、声帯もありません。握手してお辞儀をして初めて、意識下で意思疎通ができます」
サンも頷き言葉を繋ぐ。
「私たちは、サイプスと通じて、全てを見ました。貴女が鈍器で旦那さんを襲っている所、そして、倒れた旦那さんの頭部へ、布を押し当て血を止めようとしているあの子……そして、泣いているあなたに対しても、慰めようと、布を差し出している所……」
夫人は、震えながら椅子にしがみついた。
「私が……私が悪いとでも言うのっ……」
リルヴェットは、椅子を押し出すように立ち上がった。
「あなたは、自分の夫を殺し、たまたま通りかかったサイプスに罪を擦り付けた。モンスターであっても、それは、決して許されることではありません」
夫人は言葉を失い、室内は静寂に包まれる。




