花の意味―8
──洞窟内。
狭い岩の間を、肩を擦りながらリルヴェット・クローディアが駆け抜ける。足音が響き、壁に反射する。
前方に賊の残党が現れる。数人。剣を構える暇もない。
リルは言葉もなく剣を抜く。
一閃。
一人目の喉元を裂く。
二人目の腹を蹴り飛ばす。
三人目が剣を振りかぶる前に、肩口へ鋭く刃を差し込む。
血が飛び散るが、リルは止まらない。
剣を振り払って、さらに奥へ。
その背を、リーン・アークライトが追う。
前を塞ぐ賊が現れるたび、無言で斬り伏せる。
剣を抜く音、肉を裂く音、そしてリルの足音だけが響く。
「……速すぎるぞ、お前……!」
息を荒げ、被った帽子に手を当てリーンは岩を蹴って加速する。
その背中には、焦りが滲む。
そして、洞窟が開けた。
天井にぽっかりと穴が空き、陽光が差し込んでいた。
広い空間の中央には、白い花が咲き乱れる花畑。
白い毛並みをなびかせ、イェルガが立っていた。
賊数人と魔物数体を相手に戦っている。
大きな腕を振り、向かってくるもの全てを薙ぎ払う。
その背に広がる花畑を守る“盾”のように――イェルガは、そこにいた。
「イェルガぁっ!」
リルの声が洞窟に響き渡る。
その叫びには、焦りと懐かしさが混ざっていた。
イェルガが振り返る。
その瞳が、リルを捉えた瞬間――動きが止まった。
その隙を、犬型の魔物が狙う。
背後から噛みつく。
イェルガの身体が揺れる。
だが、次の瞬間――
魔物を振り払って、岩壁へと叩きつける。
その直後、賊の一人が大剣を構えて突進。
刃がイェルガの胸を貫く。
「……っ!」
イェルガは呻きながらも、刺さったままの賊を片腕で掴み、振り上げて地面へと叩きつける。
剣を自ら引き抜き、血を滴らせながら、それを放り投げる。
リルは叫びながら駆け寄り、剣を振るう。
残った賊を斬り、魔物の喉を裂く。
リーンも背後から加勢し、敵を次々に倒していく。
花畑の前で、血と光が交錯する。
散った花びらが、血しぶきと踊るように舞い、空気に沈んでいく。
それは、美しくも残酷な瞬間――命が守られ、同時に失われる場所。
やがて静けさが――戻り始める。
だが、それはもう“秘密の場所”ではなかった。
守られた記憶と、流された血が、静かにこの場所を染めていた。




