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シールド  作者: K.Dameo'n'AI


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花の意味ー7

──仮設本部・テント内。

地図と資料が広げられた机を囲み、隊の面々が集まっていた。

リルは、救護班のテントで聞いた少女の証言を静かに語っていた。

「……彼女は、2階に居て、外から悲鳴と物音を聞いて、窓から魔物と兵士が争う姿を見た。そして、逃げようと玄関に向かったところ、家屋へ盗みにやってきた実行犯に見つかり、そのまま誘拐された」

サンは頷きながら、報告書を手元でめくる。

「……手口が一致。ボーン・クロウで間違いないですね」

ただ、と、サンは疑問がある様に視線を上へと向ける。

「過去の傾向からして、彼らはあくまで演技によって金品を奪うだけに止めています。なのに、何故、今回に限って少女を誘拐したんでしょう?」

サンの問いにリルの表情が少し強張る。

「彼女の家だけ不自然なほど被害はなかった。……恐らくは、初めから目標は彼女の家だったのよ。だから周囲をまず混乱させて避難させた。そして、いざ押し入ったところ、彼女と出くわしてしまった。普段なら悪党といえど、子供だから避難させたかもしれない。でも……彼女は有力者の娘だった……」

リーンは腕を組み、ため息を吐くとリルの言葉を紡ぐ。

「身代金目的か……売買か……。どちらにせよ、予想外の出来事も利用するのが悪党だ」

リーンの言葉にミュリルは顔を伏せる。

「酷い……あんな小さな子を……」

ケルヴィは端末を操作しながら、地図に視線を落とす。

「今回の予想外は利用しそこなったようだけどな。魔物との戦闘で被害を被った賊の残党は、逃げるので必死だったようだ」

リーンは地図の上に指を滑らせながら言う。

「問題は、残党がどこへ逃げたか、だが……この辺りの地形なら、そう遠くには行けないはずだ」

サンが地図を覗き込みながら、指を動かす。

「ここ……隣村の近くに、洞窟があります。過去に盗賊が潜伏してた記録もあるし、隠れるにはちょうどいい」

ミュリルが地図の端を押さえながら、頷く。

「距離的に、物資を持って逃げても……ここなら半日もかからないかと……」

話がまとまり始める中、リルだけが沈黙していた。

地図の一点を見つめながら、指先がわずかに震えていた。

それは、過去と現在が重なった瞬間――記憶が現実に侵食してくる感覚だった。


リーンがふとリルの様子に気づき、視線を向ける。

ケルヴィも、サンも、ミュリルも――それぞれが、何かを察したようにリルを見つめる。

リルは、視線を感じてゆっくり顔を上げる。

そして、静かに言った。


「……私とイェルガが、会っていた洞窟」

その言葉に、空気が一瞬止まった。

地図の上に示されたその場所……そこへ視線を向ける言葉を発する者はいなかった。




──洞窟の奥。


岩壁の隙間から差し込む陽光が、静かに花畑を照らしていた。

小さな白い花が風に揺れ、空気はひんやりしているのに、胸の奥がふわりと温かくなるような場所だった。

リルは、膝を抱えて座っていた。

その隣には、白い毛並みの魔物――イェルガが、無言で花の間に手を伸ばしていた。

「……ここ、静かでいいね」

リルがぽつりと呟くと、イェルガはゆっくりと顔を向ける。

その瞳は琥珀色で、何も言わないのに、何かを伝えてくるようだった。

「秘密の場所。……私と、君だけの」

イェルガは小さく鼻を鳴らし、花の間に落ちていた枯れ葉をそっと摘み取る。

その仕草は、まるでこの場所の静けさを壊さないように、そっと見守っているようだった。


──馬車の荷台。

リルは無言で外を眺めていた。

馬車の揺れに身を任せながら、表情は硬く、どこか遠くを見ていた。。

リーンは、荷台の反対側に座っていた。

リルの様子に気づいていたが、何も言わなかった。

言葉よりも、沈黙の方が今は必要だと分かっていた。

その時、馬車が急に止まった。

荷台の外から、御者の声が響く。

「異常あり!繰り返す!前方に異常あり!」」

リルとリーンが外へ出ると、目の前には見覚えのある地形が広がっていた。

洞窟の少し手前まで来ていた。

だが、様子が違う。

洞窟へ続く道は、草木が踏み荒らされ、木々は所々折れ、枝が散乱している。

本来なら木々に隠れていたはずの洞窟の入り口は、ぽっかりと口を開けていた。

まるで、誰かの秘密が暴かれたように――静けさが、裂けていた。

その周囲には、兵士の格好をした賊の死体。

魔物の死骸も、草木の端に転がっている。



リルはその光景を見た瞬間、息を呑み、胸が締めつけられるような感覚に襲われた。

それは、痛みでも恐怖でもない――喪失の予感。


「リル!」

気づけば、足が勝手に動いていた。

リーンが呼びかけるが、リルは振り返らない。

その背を見て、リーンもすぐに後を追う。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

サンがリボンを押さえながら慌てて駆け出す。

ケルヴィは端末を閉じ、無言で足を踏み出す。

「わ、わたしも行きますっ!」

ミュリルは叫びながら、荷物を放り出して走り出す。

──誰も言葉を交わさなかった。

ただ、リルの背を追って、洞窟へと駆けていった。





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