花の意味ー6
──救護班のテント。
布越しに朝の光が差し込み、薬品と消毒液の匂いが微かに漂っていた。
ベッドの傍には、少女の両親が寄り添うように座っていた。
母親は少女の手を握り、父親は静かに肩を支えている。
リルがテントに入ると、両親が立ち上がり、軽く頭を下げた。
リルもそれに応じて会釈する。
「少しだけ、娘さんに話を聞いてもよろしいですか?」
母親が不安そうにリルを見つめるが、少女が小さく頷いたことで、二人は静かに席を外した。
リルはベッドの傍に腰を下ろす。
少女はまだ顔色が悪く、声も細いが、ゆっくりと語り始めた。
「……よるね、2かいのへやにいたの」
少女は毛布をぎゅっと握りながら、視線を落とす。
「そしたら、そとからすっごいおとがして……なんか、いっぱいさけんでて……」
リルは静かに頷き、少女の顔を見守る。
「こわくて……まどからそとみたら、フロドおじさんのいえがもえてて……まものがいて……」
「へいしさんが、にげてっていってて……ほかのへいしさんは、まものとたたかってて……」
少女の声が少し震え、リルはそっと手を伸ばして毛布の端を整える。
「それで……にげなきゃって、げんかんのほうにいったら……ドアのそとにだれかいて……へいしさんが……たすけにきてくれたのかなって……」
少女はリルの顔をちらりと見て、すぐに目をそらした。
その目は、何かを確かめたかったようにも見えた。
「でも……ドアがガンってこわれて……しらないひとがふたり、はいってきて……びっくりして……にげようってしたら……にげるなって……ふくろみたいなの、かぶせられて……」
リルの表情が僅かに強張る。少女はそれに気づかず、言葉を続ける。
「それで……なにもみえなくて……いっぱいおとがして……ひめいとか、ドーンって……こわくて……」
少女は両手で耳を覆うような仕草をしてから、そっと手を戻す。
リルはその動きに目を細め、静かに息を吐いた。
「それでね……しばらくしたら、すっごいおおきなこえがして……」
「おおかみみたいな、うがーって……それで……ドンって……おちて……うでが……いたくて……」
少女は思い出したのか、震えて身を縮めるようにして、腕を摩る。
「まわりから、こわいおとがいっぱいして……でも、だんだんきこえなくなって……そしたら……またからだがういたの……でも……こわくなかった……やさしかった……だっこしてくれて……みみのとこに、ふーって……それで……きづいたら、ここにいたの」
リルは、少女の手にそっと触れる。
その手は冷たく、小さく震えていた。
「……怖かったね」
少女は小さく頷く。
その瞳は伏せられたままだが、ほんの少しだけ、安心の色が滲んでいた。
「ありがとう。話してくれて」
少女は目を伏せながら、ほんの少しだけ頷く。
テントの外では風が静かに吹き、微かにテントを揺らす。
吹き込む風、その音は、少女が語る“獣の息遣い”を思わせるようだった。恐怖の記憶ではなく――守られた記憶として、静かに。




