花の意味ー4
仮設本部。
鳥の声が、夜の名残を切り裂くように、遠くで微かに響いていた。
空気はまだ冷たく、仮設本部のテントには朝の光がゆっくりと差し込み始めていた。
リルは、静かにテントの入口をくぐった。
足音を立てないように、そっと中へ入る。
ソファにはケルヴィが座ったまま眠っていた。
片方の腕が垂れ、その手の近くには端末が落ちている。
画面は暗く、作業の途中だったことが窺える。
リルはその様子に目を細め、静かに視線を移す。
机の前ではサンが資料に顔を突っ込んだまま、ぐっすりと眠っていた。
ページの端が頬に貼りつき、ペンが指の間から滑り落ちている。
そして、床の中央。
散らばった資料の真ん中で、グランが大の字になっている。
巨体が資料を押し広げるようにして横たわり、腕を広げて、まるで空を抱くような格好。
口元には微かな笑みが浮かんでいて、夢を見ているようだった。
リルは、順番に彼らの姿を見つめていく。
そして、少しだけ、微笑んだ。
その笑みは、言葉にならない感謝と、胸の奥に灯るような安堵の色を帯びていた。
「ぁ……リーン……」
ふと気づく。リーンの姿が、どこにも見当たらない。
リルはテントを出た。
朝の空気が肌を撫で、鳥の声が少しだけ近くなった気がした。
村の中心へと歩みを進める。
焼け焦げた地面はまだ冷たく、風が通り抜けるたびに灰が舞った。
リルは、昨日イェルガが立っていた場所に足を止める。
そこには、何も残っていなかった。
ただ、空気だけが違っていた。
昨日の記憶が、まだこの場所に染みついているようだった。
静かで、重くて、何かが“通った”痕跡のようなものが、そこに漂っていた。
彼女はしばらく立ち尽くしていた。
何も言わず、何も考えず。
ただ、昨日の光景を思い出しながら、風の音に耳を澄ませていた。
──その時、足音が聞こえた。
リルが振り返ると、リーンが歩いてきていた。
靴には泥が付いていて、ズボンの裾も少し濡れていた。
「……おはよう」
リルが声をかけると、リーンは軽く頷いた。
「どこに行ってたの?」
リルの問いに、リーンは少しだけ間を置いて答えた。
「先に調べておこうと思って、森に」
リルは眉をひそめる。
リーンは、地面を見ながら言葉を続けた。
「魔物と兵が争った痕跡を見つけた。足跡、魔力痕、破損した装備……どれも、まだ新しい」
リルは言葉を返さず、ただリーンの顔を見つめた。
リーンもまた、何も言わずにその視線を受け止めていた。




