花の意味―3
──仮設本部のテント内。
夜の空気は冷たく、虫の声が遠くで響いていた。
ランタンの灯りが揺れ、資料と端末の光が隊員たちの表情を淡く浮かび上がらせていた。
リーン・アークライトは、資料を一枚手に取りながら、静かに口を開く。
「……今日、村に現れた魔物。あれは……イェルガだ」
サン・エルミナスが目を丸くする。
「イェルガ……」
リーンはサンの言葉にすぐには答えず、資料をテーブルに置いた。その手の動きは慎重で、どこか“重さ”を感じさせた。
「恐らく、リルが子供の頃に森で出会った魔物だ」
ケルヴィ・ヴァン=エルドが端末を操作していた手を止める。
「だからなのか……」
ミュリルは、少しだけ目を伏せた。
「……隊長、あの魔物を見たとき……動けなくなってました」
リーンはミュリルの言葉に頷きながら、カップを手に取る。
「……迷いが出るほど、思い入れがあったんだろう……」
サンがぽつりと呟く。
「あの魔物……イェルガも、隊長を見て止まってた……」
見た光景を思い出し、誰も言葉を発することなく沈黙が訪れる。
状況的に、イェルガが少女を運んできたのは間違いない。
ただ、捜査が始まったばかりの現状で、イェルガが村を襲っていないという証拠もなく、何も言えなかった。
「無駄だな……」
そう言うと、ケルヴィは端末を再び操作し始める。
「今ここで憶測を語っていてもしょうがない。僕たちが今すべき事は捜査のみだ……」
ケルヴィの言葉にサンとミュリルは小さく頷く。
「そう……ですねっ。……よっし、続きやるぞー」
「わ、私もっ……今日は寝ません……」
サンは机に向かい、ミュリルは自分の周囲に積み上げられた資料を読み始める。
「俺も、負けてられないな……」
リーンはそう言うと、作業を始めた。
その言葉に、誰も異を唱えなかった。
ただ、夜の静けさがその場を包み、灯りの揺れだけが時間を刻んでいた。
──夜の避難所。
仮設の照明が柔らかく灯り、静かな空気が流れていた。
リルヴェット・クローディアは、少し離れた場所から一つのテントを見つめていた。
その中には、昼間に倒れていた少女が眠っている。
傍らには、少女の両親が寄り添うように座っていた。
母親は少女の手を握り、父親は静かに肩を支えている。
二人とも、言葉を交わすことなく、ただ娘の呼吸に耳を澄ませている。
「…………」
リルは、テントの外からその様子を見ていた。
その瞳には、捜査官としての冷静さと、ひとりの人間としての揺らぎが、静かに同居している。
風が少しだけ吹き、髪が揺れる。
リルはその風に目を細め、静かに立ち尽くしていた。




