花の意味ー2
──エルネア村。
焦げた木材の匂いが、早朝の風に乗って村の隅々まで染み渡り、焼け落ちた家々が静かに並ぶ。
避難用のテントは村の外に並び、村人たちは疲れた表情で身を寄せ合っていた。
リルヴェット・クローディアとサン・エルミナスは、証言を集めている。
「夜中に、森の方から……魔物の鳴き声が、聞こえました……」 年配の女性が毛布を握りしめながら、震える声で語る。
「鳴き声……」
リルが小さく繰り返す。
「それって、どんな感じでした? 吠えるような? それとも……鳴くような?」
サンが優しく問いかける。
女性は少し考え込んでから、ぽつりと答えた。
「……吠えるような感じ、だったわ……。低くて、大きな……」 サンはメモを取りながら、リルに目を向ける。
リルは短く頷き、次の証言者へと視線を移した。
少し離れた場所では、ケルヴィ・ヴァン=エルドが焼け跡の周囲を歩いていた。
端末を操作しながら、地面に残る魔力痕を解析している。
「……魔力反応は断続的。足跡は複数……」
彼は端末に指を走らせながら、低く呟いた。
通りでは、グラン=ミュリルが瓦礫をどけていた。
巨人族の身体を活かし、通路を確保するために黙々と作業を続けている。
「これで……通れるはず……! あ、ちょっと音出るよー!」
瓦礫が崩れる音に、近くの子供たちが顔を上げる。
ミュリルは慌てて手を振って笑顔を見せる。
「だ、大丈夫っ。壊してるわけじゃないからね!」
そして、リーン・アークライトは倒壊した家屋の前に立っていた。
焼け焦げた柱に手を添え、静かに目を細める。
「精霊系にしては火力が弱いな……」
リーンは更に周囲を見渡し、他のより被害が少なく崩壊していない比較的大きな家屋に目を留める。 中を覗くと、他と同様に棚は倒れ、物資が散乱している。
「……壊さず、荒らす……?」
リーンが呟いた時、聞き込みを終えたリルがリーンの元へとやってくる。
「この家に何かあるの?」
顎に手をやり考え込んでいるリーンにリルは問う。
「……他の家と違って、殆んど外壁の損傷はない。けど……中は荒らされてる」
リーンの言葉にリルの目つきが鋭くなる。
「何とは言わないが……過去にやったことがある側からすれば……この家の金品を調べた方がいいと思う」
リーンはそう言ってニヤリと笑い、リルはすぐさま避難所へと走っていく。
―――村の入り口付近。
「……で?どうだった?」
リーンは眉間に皺を寄せて歩んでくるリルへ問う。
「予想は的中。……村の有力者の家で、調べてもらったら金品のいくつかが無くなってた」
リルの言葉にサンは驚きの声を上げる。
「それって、火事場泥棒って奴ですかっ。許せないですっ」
リルは頷きを返す。
「それ、自体はあり得ることよ。……でも、状況はもっと、悪い……」
そう言って、リルの顔はより険しくなる。
「子供が行方不明……。村が襲撃された後、誰もあの家の子を見てない……」
リルのその言葉にリーン、サン、ケルヴィ、ミュリル、の4人は驚き言葉に詰まる。
―――その時だった。
村の奥から、甲高い叫び声が響いた。
「魔物だーっ!」
甲高い叫びが村の奥から響いた瞬間、空気が一変した。
リルたちは反射的に駆け出す。足音が瓦礫を蹴り、風が巻き上がる。
通路を抜け、村の奥へと向かうと、そこには――白い毛並みの巨体。
二足歩行の魔物が、村の境界に立っていた。
兵士たちが武器を構え、村人たちは悲鳴を上げて逃げ惑う。
「…ぁ……」
その中で、リルだけが足を止めていた。
時が止まったかのように、リルはその魔物を見つめる。
『…………』
魔物もまた、リルを見返していた。
その琥珀色の瞳は、懐かしさと痛みを宿しているように見えた――リルには、そう感じられた。
「そんな……」
しばしの沈黙のあと、白い魔物は一歩、また一歩と静かに身を翻し、森の奥へと消えていく。
その背中には、何かを語るような沈黙があった。
「……大丈夫か?」
リーンが声をかける。
リルは微かに震えながら、答えた。
「……あの魔物よ……あの魔物が……子供の頃、森で会っていた……」
リーンは目を細める。
「やっぱり、イェルガか。……だが、あいつは今、姿を見せただけだ。あいつの仕業と決めつけるのは早い」
「でも……」
リルが何かを言いかけたその時、兵士の一人が叫んだ。
「おい!救護班を頼む!」
兵士の声に振り返ったリルの視線が、地面に横たわる小さな影を捉えた。
焦げ跡残る石畳の上、そこに泥と血にまみれた少女が倒れていた。




