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シールド  作者: K.Dameo'n'AI


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花の意味

──朝の仮設本部。

窓から差し込む光が書類の山を照らし、コーヒーの香りが漂っている。

「なあ、リル」

リーンがソファに腰を下ろしながら、声をかける。


「…………」

「…………」


沈黙。


リーンは視線を交差させたまま、少しだけ眉をひそめる。

「……あー、人間の方」

指先が、デスクで書類を読んでいたリルヴェット・クローディアへ向く。

「なによ、“人間の方”って。言っておくけど、リルヴェット・クローディアって名前で生きてるのは私の方が先輩なんだから」

リルがむっとした顔で立ち上がる。


「分かってる。でも、しょうがないだろ。こいつが選んだカードが“リルヴェット・クローディア”だったんだから」

「それは……というか、誰なのっ。私の名前を書いたのっ」


ケルヴィが端末を見ながら、淡々と告げる。

「この筆跡は、99.80パーセントの確率で隊長のものと判定された」

「99.80って、もう私じゃない……なんでよっ……」

サンがパンをかじりながら、のんびりと口を開く。

「この子の名前決めようって、皆でカードに思い思いに名前書きましたよね?」

ミュリルがそわそわと手を挙げる。

「えと、隊長……あの時、電話しながら……その、自分の名前書いてるの……私ぃ……見ました」

「見てたなら止めてよ!」

「すみませんっ……でも、なんか、すごく自然だったから……」

リーンが肩をすくめる。

「それでも、だ。五分の一の確率で“リル”は“リル”を選んだわけだ」

リルは頭を抱えた。

「ちょっと待って。皆、本気で言ってるの?……ややこしいわよ、特に私が」

その場にいた四人と、ナイトファングの“リル”が、無言でリル(人間)の顔を見る。

「……どうして、誰も否定しないのよ。とにかく、その“間”やめて」

迷い子はくぅんと鳴いた。

リルはその声に、さらに頭を抱えるのだった。






──午後の仮設本部。

陽射しが傾き始め、窓辺の空気が少しだけ柔らかくなっていた。

ソファに座ったリルは、穏やかに目を閉じていた。

「………」

窓から入る優しい風と膝の上には、丸くなったクロー。

静寂と心地よい温もりにただ身を任せていた。






―――霧が立ち込める森。

その中にリルは立っていた。

微かに見える木々や空気感、それには、どこか懐かしさが漂っていた

「こんにちは……」

リルが挨拶を口にすると、霧の中からヌッと一体の魔物が顔を出す。

全身が白い毛で覆われた大きな体。猿人に近い顔立ちをした琥珀色の瞳はジッとリルを捉えているが、敵意などなく、孫を前にした老人の様な、どこか人間に似た感情を宿していた。


「ここに住んでるの……?」

リルはその白い魔物を見上げながら魔物へと近づいていく。

魔物は微かに頷く―――。



「ぁ……」

リルは目を開けた。どうやら寝てしまっていたようだ。

日差しは更に傾き、橙色を強めた陽が差し込む。

「珍しいな。君がうたた寝とは」

コーヒーの香りとともに、リーンの声が響いた。

リルはぼんやりとした表情でリーンを見上げる。

「……心地よさでつい……気を抜いてしまったみたい」

リルは未だ膝に膝の上で丸まって寝ているクローの頭を優しく撫でる。

「この子のせいね……」

ほんの少し脚を動かすと、クローが接している箇所に微かに汗が滲んでいる感覚がして、クローもずっと同じ姿勢で眠っていたことが分かり、リルは優しく微笑む。


「…………」

リーンはソファの隣に腰を下ろし、手に持ったカップをテーブルに置く。

「……涎垂れてたよ」

「えっ……!」

驚き顔を向けてくるリルへ、リーンは吹き出す。

「嘘だ。安らかな寝顔だった」

「はぁ……貴方、たまに子供みたいな所あるわね」

リルは呆れたような顔するが、リーンは気にせずカップに口を付ける。


「なんか……」

しばらく黙っていたリルは、ぽつりと呟く。

「……夢を見てた……子供の頃のこと」

リーンは両肘を膝に預けると両の手を組み合わせ、リルへ視線を向ける。

「どんな夢だ?」

「霧深い森。たぶん……私が育った村の近くにあった場所。そこに、二足歩行の魔物がいたの。白い毛並みで、琥珀色の瞳……敵意はなく、優しい……大きな魔物」

リーンは眉をひそめる。

「白い毛並みに、琥珀色の目……イェルガ、か……?」

「名前は……分からない。でも、怖くなかったのは確か。……毎日会いに行ってたし、言葉は通じなかったけど……目を見れば、伝わっている気がした」

リルは膝の上のクローを撫でながら、少しだけ目を伏せる。

「その魔物、私が挨拶や、何か話掛けたりすると、まるで、言葉を分かってる様に、いつも、頭を下げたり頷いたりして、反応してくれてた」

リーンは興味深そうに頷く。

「それで……君とその魔物は、どうなった?」

リーンの問いにリルは言いにくそうに目を伏せ、微かに上唇を噛んだ。

「……ある日、村が襲われた。……家が燃えて、逃げまどう人たちの悲鳴が……色んな所で聞こえる中……私も、逃げた。そして……後から大人達が話してるのを聞いたの……あの時、村を襲っていたのが……その魔物だった……って」

リーンは言葉を返すことなく、カップのコーヒーを見つめる。

その瞳は、何かを探るように遠くを見ている。

「……君は、その魔物がやったかどうか、今も疑問を感じてるんだな」

リルは静かに頷いた。

「うん。多分……。いや、正直に言うと……分からない。……でも、信じたいのはある。あの瞳が、あの仕草が……全部が嘘だったなんて……思いたくない」

リーンは何も言わず、ただ静かにコーヒーを飲む。

その沈黙は、否定でも肯定でもなく、ただ、リルの言葉を受け止めるためのものだった。


『くぅ~……ふぁぁ……』

その時、目が覚めたクローが鳴き声と共に欠伸をした。

リルはその無邪気な声に微笑み、クローの頭を撫でる。

「私には……あの魔物も、この子と同じ。ただ、穏やかに過ごしているように見えてた……」


リーンは窓の外を見る。

「君の中にある疑問が、夢を見せたのかもしれないな。……魔物の事、少し調べてみるよ。……もちろん、任務が優先、だがな」

リルは驚いたようにリーンを見たが、クスっと笑うとすぐに頷いた。


「そうね。任務が最優先。……でも、ありがとう」




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