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9話 クロ

講義やバイト、サークル活動などでとても忙しいですが、続けていきます。





ギャアギャアッ!


…食われる…食われる…と頭の中に(こえ)が響いた。

誰がお前らなんか食うかよ…と思うリサードだがこの森では勝者が絶対のルールであり、力の無いものに権限(けんげん)などない。こう思われるのも仕方ないのだろう。


「用が終わったなら帰れ。さもないと、お前ら全員俺の(えさ)にするぜ?」


場がシーンと静かになり、キョトンとするクワトロエイプ達。やっぱダメかぁ〜、通じないよなぁ〜、と少し恥ずかしくなるがここまで言ったら後に引けない。


「逃げていいって言ってんだぜ?それとも食われたいのか?」


そう言って右腕の骨剣(こっけん)を振り上げてみせる。


すると、シーンとしていたクワトロエイプ達はギャアギャアと騒ぎ、さっそうと森の中に消えていった。しかし、その鳴き声が意味することは今度は聞き取れなかった。


「なるほど。感覚を集中させないと声は聞こえないのか。」


そう(つぶや)きハッと気づく。シロは無事だろうか。


「シロッ!大丈夫か!」


地面におろし、体を少し揺さぶる。気をつけていたとはいえ、かなりあの動きはシロの体にこたえただろう。

なにか出来ることはないか、と考える。が、、


「くそっ…俺に回復魔法が使えたら…」


そう言うと、シロから声が聞こえた。


『大丈夫だよ。少し体が(しび)れて動けないだけ…』


バッと、シロを振り返り、腹をなでもう一度聞き返す。


「今の声はお前なのか?!シロ!」


そう言うと、体が(わず)かにピクッと動き、ウゥー…と喉を鳴らすと声がした。


『そうだよ。僕だよ、シロ。』


また、頭の中にほんわりとした(あたた)かい音声が聞こえる。


「そうか。よかった…」


そう言って腰をドサっと地面に下ろすリザード。考えればそうだ。クワトロエイプの声が聞こえるということは魔獣であるシロの声だって聞こえてもいいはずなのだ。


「少したてば動けるようになるさ。それまで少し休んでろ。」


そう言うと立ち上がり、周囲の見回りに出る。

今度は気配を逃さない。

さっきのように先手は取らせまいと必死に感覚を研ぎ澄ますが、お腹がグゥーッとなりその前に少し何か食べようと決意する。


無理にシロを動かすべきではないと判断し、シロの安否が確認できるギリギリの気配領域(けはいりょういき)を探る。

大体20m程度…直径40m。それ以上離れればリサードに気配は感じ取れない。


が、ずーっとリサードは視線を感じていた。クワトロエイプと戦っている時からだっただろうか。


「さっきから見ているやつがいるな…」


先程から魔獣や魔虫の気配は感じていたが、ヤツらはリサードの気配領域を通り過ぎるだけで、こちらに気づいてはいなかった。


しかし、一つの気配が気配領域を彷徨(さまよ)ったのち、こちらに気づくと視線を向け続けている。

距離は気配領域からすると約17mと言った所だろうか。

森の中からこちらを見ていた。

しかし、それにしても不思議だ。感覚は完全に魔獣なのだが…


「人…か?」


リサードはその懸念(けねん)を声に出していた。

そう思わずにはいられなかった。微かな魔法の力、魔獣には使えないはずだ。

魔法は人間が魔獣に対抗するために神から授けられたもの…魔獣には扱えない。


あいにく、相手には気づかれていない。


「相手が誰だろうと先手を獲るまで。」


そう言うとリサードはある無系魔法を唱えた。


──オブジェクト・フォーメーション。


シュウウ、と言う音ともに空気が集まり、リサードの手に小さな小刀(こがたな)が生まれる。

無系魔法はその名の通り色がなく、比較的誰でも使える属性の無い魔法のことだ。

そして、そこに光系魔法フラッシュを流し込むと、光の小刀が生まれる。

この小刀はそう何分ももたないが少しの間なら戦闘にも使える。


そして、地面を思い切り蹴りあげると、数秒で最高速度まで加速し、流れるように木を抜け、敵の後ろに回り込み小刀を首に回す。

全身ローブに包まれているが、やはり、人間だ。


「……ッ…!」


「動くな。」


そう言うとピクッと動くがすぐに動きを止めた。


「お前は誰だ。俺たちに何か用か?」


そう言うとググッと動いたあと、ローブのフードを外そうとする。


「勝手に動くんじゃ……」


そういったところで息を飲んだ。


長く艶々(つやつや)とした光沢のある黒髪。長さは肩くらいだろうか、耳周りは掻きあげられており、左耳には綺麗なピアスが一つ垂れている


不意に、振り返ると美しい女で一瞬息が詰まる。透き通るような白い肌に、大きな(ひとみ)

そしてローブの上からでもわかる、体のラインが女だと主張していた。

すると、女は申し訳なさそうにこちらを見る。


「申し訳ございませんでした。」


そう言うとペコリとするが、ハッと気づきバッと後ろに下がる。


「あなた達に敵意(てきい)はありません。」


そう言うと、両手をあげる女。

しかし、リサードにはまだ信じ難い。


「質問に答えろ。お前は誰だ?」


そう言うと、瞳を閉じ深呼吸をしてから答えた。


「それは…言えません。」


申し訳なさそうに頭を下げる。


「そうか…。じゃあ、ここで何をしていた?」


リサードは目をじっと見る。


「魔獣たちに動きがあったので見に来てみたら、あなた達が戦っているのが偶然見えて…」


「それで?」


「それで、あの白い魔獣の子供、あの子が心配になってしまいまして…手当てをしてあげたいと思いまして、」


「でも、こんな怪しい人がいきなりそんな事言っても信用してもらえないかな、と思ったら出れなくて…」


そういったところでリサードが口を開く。


「お前シロを治せるのか?」


そう言うと少し微笑む女。


「シロって言うんですね。とっても可愛らしい…」


「ぜひ私に手当させて頂けないでしょうか!!」


興奮するように手を胸の前でギュッと握り前のめりに近づいてくる。

この女…胸がでかい。。って違うだろ!と頭を軽く振り、剣をまた構える。

敵意は無さそうだが、いかんせんやりずらい。

だが、これだけは聞いておかなければいけないことがあった。


「わかった。ただし、おかしな行動をしたらタダじゃおかない。そして、最後の質問だ。お前は本当に人間か?」


「と、言われますと?」


「お前は確かに人間だが、気配(けはい)が魔獣そのものだ。最初から気になってたんだよ。」


そう言うと目を大きくし、口を(おさ)えるような仕草をとる。


「ええ?!そんなことまで分かっちゃうんですか…。すごい、すごいです。」


そう言ってフフッと笑う。そして、インベントリを使いある道具を取り出した。

さっき感じた魔法の感覚は無系魔法インベントリの発動か…。


「コレのせいです!」


そう言うと透明な液体の入ったスプレーの小瓶(こびん)をつき出すように見せる。


「コレは魔獣液(まじゅうえき)と呼ばれる香水で、コレを振りかけておくと魔獣達から狙われにくくなるんです!」


「でも、コレを使ったこと。よくわかりましたね?!(じい)は人間には判別できない魔獣特有の臭いがどーとか言ってましたのに。。」


「その香水を渡せ。」


そう言うとホイっとリサードに投げる女。

近くにある木にふりかけて見るとたちまち魔獣独特の気配を放ち始めた。

(うそ)はいっていないようだな。


「ついてこい。」


そう言うと「はい!」と後ろから声がした。


警戒(けいかい)をしながらも小刀を消し、歩いていくとシロの元にたどり着く。


「シロにおかしなことをしたらわかってるだろうな?俺はお前を完全に信用したわけじゃない。」


そう言うと少し悲しそうな顔をする。


「そうですよね…。でも任せてください。私、回復系の魔法なら少し得意なんです。」


そう言ってシロに手をかざすと優しい青い光がシロを取り囲む。


これは…回復魔法、

──ステータス・リカバリー。

一見簡単そうに見える魔法だが、全ての状態異常を回復できる魔法で、なかなか使える者はいない。

イレブンノート支部長クラスの腕前はあるとみた方がいいのか…と思いつつシロをみる。

そして、その光が消えフゥっと女が息を吐くとシロがゆっくりと立ち上がった。


「シロッ!体は大丈夫か?」


そう言うと、クゥーンと鳴くが声が聞こえない。おかしい、感覚は研ぎ()ましているはずだが…とシロをみると元気そうに尻尾を振っている。

感覚を研ぎ澄ます以外にも何か条件がありそうだな…と思いながらシロを撫で、そして礼をいう。


「ありがとう、シロを治してくれて。その…さっきは申し訳ないことをした。」


「大丈夫ですよ!あの状況だったら私だって疑っちゃいますよ。」


そう言ってニコッと笑う彼女。


「優しいんだな。その…こんな事言うのもなんだが、どっかであったことないか?」


そう言うと驚きからか顔を赤める。


「わ、私知ってますよ。ナンパって言うんですよね?」


モジモジと腕をさせチラチラリサードを見る。

あれ?なんか勘違いしてないか?


「あのー?」


「わ、私もちょっと…カッコイイな…とか…思ったり…」


「ん?」


「ひゃっ!」


(のぞ)き込むと顔がさらに赤くなる。声がいきなり小さくなるから聞こえなかったんだが。。


「なんか勘違いしてないか?ハースハイトであった気がするんだが。。」


そう言うと、何故かムスッとした顔をするが答える。


「ふーん。ハースハイトでですか?心当たりありません。」


そう言ってぷいっと後ろを向く。

なんで怒ってるんだ?


「そ、そうか。君に似たローブの人物とぶつかって。それでこのペンダントを落としていったんだけど、どっかいっちゃって。。」


インベントリから取り出し、ペンダントを取り出すと彼女は驚き、目の前までグイッと来る。

ち、近い。。


「これ!私が途中で落としてしまった大切なものなんです!!」


「まさか、あなたハースハイトの宿の前にいた剣士さんだったんですか?!」


「う、うん。。」


「服装が随分(ずいぶん)違うからわかりませんでした。あの時顔を見る前に行ってしまったもので、、。」


そう言ってリサードの装備をジーッと見る。

も、もちろん、こちらの服装も似合っていますよ、という彼女。

そんなフォローいらんわい!


「やっぱりか。これ大事なものだろ?返すよ。」


「あ、ありがとうございます!」


そう言ってギュッとペンダントを握る彼女。余程大事にしていたのだろう。。


「あ、あのー。」


少し可愛いなと思っていると不意に、話しかけられ驚くリサード。


「あ、なんかペンダントに不備(ふび)でもあったか?」


べ、別にやましい事考えてたわけじゃないぞ!!


「そういう訳じゃないんですが、あの時の…服装って……まさか…」


小声でぼそぼそ話す彼女。


「ごめん。なんか言ったか?」


「い、いえ。その、何でもないです!」


「………?」


不思議そうに顔をかしげるリザード。

もう一度聞き直すべきかと思っていると、(うつむ)いていた彼女はすぐに元気になる。


「そんなことより、シロちゃんが元気になって良かったですね!!」


「……?…そうだな?」


そんなことよりってお前から話しかけてきたじゃん、とツッコミたくなるがシロを撫でる姿を見ているとそれも無粋(ぶすい)に感じてこれた。

シロも尻尾を振ってもう懐いている。

人間の香りがしないからか、彼女の人柄からだろうか。


「そう言えば、気になったんだが、この森になんか用でもあったのか?」


そう聞くと、シロを撫でながら話す。


「私、何というか、いわゆる家出をしてきたんです。」


「そんなこと言ってもこんな所まで来ることないだろ?」


「詳しい事情は言えませんが、私がハースハイトにいれば、いずれ連れ戻されてしまいます。」


そう言うと、シロ撫でるのをやめ立ち上がるが、顔は俯いたままだ。


「あんなところに戻るくらいなら、死んだ方がマシです。」


「………。」


言葉が出ない。自分には彼女にかける言葉を持っていない。すると、少しニコッと笑顔を作る彼女。


「でも、死ぬくらいなら自由に旅をして、色んなところを自分の足で見てみたかったんです。」


だが、すぐに俯いてしまう。


「そっか…。」


自分には偉そうに言える権利はない。しかし、


「でも、」


そして、重ねてリサードは言う。


「でもな、何があったかは知らないけど俺はお前に死んで欲しくない。」


「………っ」


「お前の身にどんな辛いことがあったかはわからない…。けど、きっとお前を心配してる人だっているはずだ。」


「だから、俺と一緒にハースハイトに戻ろうぜ。もし、それでお前のことを文句言ってくるやつがいたら俺が何とかしてやるからさ…。」


ハハハ…と()れ笑いをするリサード。


すると、俯いたままの彼女が涙を流す。


「ご、ごめん!なんか偉そうに言ったよな?なんて言うか…」


そう言うと、(なみだ)を流しながらもフフッと笑う彼女。


「いえ、私こんなこと言われたの初めてで、嬉しいです。。」


「そ、そうか…。」


少し気まずいな。。


「あなたが、……だったらな……」


「え??」


「……何でもないです!」


そう言うと次は顔を上げ笑う彼女。


「ですが、私はここでお別れです。」


「どうしてだ?!」


「私、少し、よりたいところがあるんです。」


「ここら辺は危険だ。俺もついて行くよ。」


「来ないでください。」


そうキッパリと断る彼女。


「あなたが嫌ってわけじゃ全然ないんです。ただ、あなたと一緒じゃ意味ないんです。」


そう言うと俯くが、すぐにインベントリから香水を取り出す。


「それにこれもありますし!大丈夫です。では!」


「待ってくれ!」


「……?」


行こうとする彼女を呼び止めるリサード。彼女が振り返る。


「自己紹介が遅れた。俺の名はリサード・ブルオスト!」


そう言うとフフッと少し笑い彼女は答えた。


「私の名前は…クロ…。」


途中で口を閉じる彼女。


「クロ…の続きは?」


「そうです。私の名前はクロと言います。」


「そうか。」


「また会えるか?」


「はい!」


そう言うと彼女は森の中に歩いていき、消えていった。何も出来ず呆然(ぼうぜん)としていると、(すで)に森は夕暮れになっていた。



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