10話 阿修羅エイプ
リサードを見てたら自分もお腹すいて来ました
シルビアさん……シルビアさん……
「え?!あ、何だっけ?」
ハースハイト国、王都パラソル。イレブンノート本部に彼女はいた。時刻は夜9時は回っただろうか。
11支部を慌ただしく出たあと、森へ向かったのだがその後全員が本部に収集され魔獣の目撃情報など様々な情報がやり取りされていた。。
「シルビアさん。ちゃんと話聞いててください。11支部は夜10時から外壁北東の見張りとさっき本部長が言ってたじゃないですか。」
「あ、そーだったね。忘れてた。」
情報会議のようなものが終わったあと、会議の間ずっと心ここに在らずだったシルビアは本部二階のバルコニーの手すりにもたれかかり、夜の首都パラソルの夜景をぼんやり眺めていた。
昼間は魔獣から街の警護をしていたが、情報と思わしき魔獣は現れなかった。ハースハイト国境には外壁があり、かなり強力な結界が施してあるのだが、出てきた魔獣と言えばCランク以下の魔獣ばかり。あとは、稀に盗賊などが彷徨いていたりしていただけで結界を破ってハースハイトに入ってくるような危険はなかった。
正直に言えば退屈なものと言えた。
「今日は昼から心ここに在らずですね…。リサードさんと何かありました…?」
そう言うのはイレブンノート11支部の特攻魔法部隊の隊長を務めるヘレン・ポーカーという男だ。16歳で身長は160cm弱と少し小柄なのを気にしている。
目元まである黒髪の右脇をかきあげており、ブロックが見えている。
年齢が一つ上のシルビアを生意気ながらもとても慕っており、学校でも後輩にあたる。年に合わず冷静で、まだ魔法高校一年ながらも11支部の中ではシルビアの次に魔法の腕があり買われている。彼はいつまでもボケーっとしているシルビアを呼びにバルコニーに足を運んでいた。
「ふぇ?!そんなことなんでわかるの?!って違う違うっ!リサードなんか関係ないよっ!」
「相変わらずわかりやすいというか…シルビアさんが悩むのはリサードさんくらいですよ。」
「ちょっと!わかりやすいとか言うなっ!まだ16歳の癖に!」
「そこまで言うならかっこいいとこ見せてくださいよ?」
そう言って少しニヤッとして見せる。
「クッ…生意気な奴めっ」
歯を食いしばって本気で悔しがるシルビア。その姿を見てはぁ…とため息をつくヘレン。
「他の奴らは下に集まってますから早く来てくださいね。」
そう言うと、バルコニーを出て行くヘレン。はーい、と気乗りのしない返事が後ろから聞こえて来て
「そんなに気を抜いて大丈夫ですか?」とつい小言を言いたくなってしまう。
リサードさんは確かにすごい人だ。イレブンノートや王国騎士団に所属せず、飛び級のように七星剣の座に着いた。ああいう人を天才というのだろう。尊敬はしているが負けられない。シルビアさんをこれからも守っていくのは俺の役目なのだから。珍しく冷静な彼の心の中は燃え上がっていた。
✕ ✕ ✕
あれから数日後を伝える朝日が出てきた。
夜に聞こえていた不気味な咆哮やらは消えており、こんな森の中でも清々しい気持ちになる。
テントからでて空気をいっぱいに吸い込む。夜の間も少しの音や気配で目を覚まさなければならないため気を張り巡らせており、十分に疲れが取れたとはいえない。それに加え、昨日の夜聞こえた大きな咆哮も気になり、拍車をかけていた。
まあ、それだけではないが…
「うぇ?!やばっ!…」
夜寝ている間ですら腹減りの効果は続く。起きた時にはライフがジリジリ減っていて最悪は朝も食べなければ死んでしまうと言う状態なのだ。
クロという謎に包まれた彼女と出会ったあと、いびつだが食べれる果物を見つけ、沢山取っておいたため、何とか朝はしのげそうだ。
「でも、やっぱり果物じゃどうもなぁ…。栄養的にも足りないよな。」
リサードもまだ19歳。食べ盛りの彼に朝、夜と果物だけじゃ足りる訳がない。
彼は元々少食な方だが、夜は普通に食べる。
なんとか空腹はしのげるが嫌な満腹感が腹を満たす。
「早く肉が食べたい。。」
そう呟くとシロがテントから出てくる。
「そろそろ行くぞ?準備は出来てるか?」
「 ウォウ!」
相変わらずあれ以来シロの声は聞こえていない。
しかし、いつ聞こえてもいいようによく話しかけている。
「出発だ!」
「ウォーーウ!」
1人と1匹の2日目が始まった。
バサッと気をどかしながら進んでいく。
「そろそろ着くはずなんだが…」
そう言うとリサードは手に光を持ち、念じるように目を閉じる。
今回のメインである阿修羅エイプはクワトロエイプの親玉と聞く。ということは──
「クワトロエイプ達が敵───要は俺から逃げるなら阿修羅エイプのところ…のはずなんだよなぁ。」
リサードがクワトロエイプを逃がしたのにはこの要素が強い。戦闘中に光系魔法の粒子を体に付け、その魔法の残り香を辿る。
進めば進むほど霧が深くなってゆく森の中心のあたりまで来ていた。
「何だか森の中心は入り組んでるし、モンスターもやたら少ないな。」
愚痴をこぼしながら歩くと開けた場所に出る。
すると────
パッと晴れたように霧が開き、まるでピラミッドのような建物が現れた。形はいびつだが、もうそれにしか見えない。
「マジかよ。デケェなこれ。」
そう言い、りサードは驚愕していた。リサードの気配ではもうとっくに気づけていいはずだったからだ。
しかし、今までの道筋では森の気配と微かな魔法の香りしかしなかった。
霧が晴れると同時にピラミッドが現れ、気配までも戻るようだったのだ。
普通の霧じゃないことは明々白々。調べてみたい気もするがグッと抑えピラミッドに近づく。
「こんな森の中にピラミッドのような建物があったら嫌でも気づけてたのに…」
そう言うと、入口のような空洞を発見する。近づいてみるが、空洞の中は昼間にも関わらず、深い闇に覆われていた。
「シャイニング!」
そう彼が唱え、片手を空洞の中にけると空洞の中に光が指した。
「さっさと倒して食料探そう…」
楽観思考のまま中に入ろうとする。
その瞬間の事だった。
嫌な気配が風に乗って流れてくる。
誰かに見られている?
周囲を見渡すが、誰もいない。
気のせいだろうか…と落ち着こうとするとシロが威嚇を始めた。
「グルルルルル…」
「シロ。お前も感じるのか?…」
それでも尚、シロの威嚇激しくなっていく。
「このまま突入するのは危険だな。一旦引き返そ…」
────────殺意
コイツだ…仲間ヲ、コロシた…
声が聞こえた。
「シロ!下がるぞ!」
「ウォウ!」
考えるよりも早くそう言って空洞から飛びのけると、シロもすぐさま飛びのける。
ピラミッドが崩れていく。
それと同時に恐ろしい咆哮が放たれた。
地面を揺らすほどの咆哮。
コイツは…
「昨日の夜聞こえた咆哮だ!」
ボコォォォォォォォン
ピラミッドの頂上を突き破り、何かが飛び出した。
観察しろ…攻撃か?モンスター?
背中の骨剣を握りながら空中を見上げる。コイツは…
1、2、3、…
「6!…」
腕の数…間違いない阿修羅エイプだ!
ドッカーーーンと豪快に着地し、砂煙がまった。
『ヲマエがナカマをコロした。』
砂煙の中から出てきた全身茶色の毛で覆われた6本うでのゴリラまがい。体調は4m程だろうか。
それより、声が聞こえる。凄い重圧感を放つ声だ。
「襲ってきたのはそっちだろ?」
『オレはツヨい。ダから、ココはオレの、クにダ。』
「じゃあさ…」
リサードは不敵の笑みを浮かべる。
「どっちがこの国の王か比べようぜ?」
『ナマイキダァァアアア!!!』
リサードの骨剣と阿修羅エイプの拳が重なり、弾けた。なかなか、阿修羅エイプの拳は硬い様だ。
そして、すぐさま2発目のパンチが来る。
「硬いが…これならどうだ!」
リサードは二発目を骨剣の剣身で受け止めると、ガガガガッと上に引き抜く。ヤスリで拳が削られ悶える阿修羅エイプ。
『おマエ、コロスゥゥゥゥ!ユルサナイィィィ!』
阿修羅エイプはそう言うと4本の腕で体を丸め、2本の腕で加速し、弾丸のように飛んできた。
「あぶねっ!…」
上に飛ぶ。しかし、
『ヒッカカッタだぁ』
リサードを通り抜けようとした所で足を出し、地面を蹴りあげ、恐ろしいスピードで垂直に上に向かってくる。
「グハッ…」
リサードは6本の腕にガッシリ捕まえられ激痛が走る。痛覚浸透率のせいで一撃でかなりの痛覚を感じる。
『このままタタイテ、スリツブシテェ…エッへっへっ』
「うぐっ…………………」
なんて馬鹿力だよ。離れねぇ。
阿修羅エイプに掴まれたまま落ちていく。なんとか体を動かそうとするが動けない。その時だった。
『リサードを離せ!』
そう聞こえたかと思うと、ギュルギュルとうねりを上げる空気の玉が下から沢山打ち上がり、阿修羅エイプに当たる。この技は…
「シロ!」
しかし、
『エッへっへっキカネエだ』
シロの打つ空気砲を受けてもびくともしない。
しかし、リサードの心は動いた。
シロだって頑張ってくれてんのによ…
「俺が最初に諦めちゃダメだろ!」
『アア?』
「これならどうだ!!」
『ウゴッッッ?』
光系魔法レイ・プロテクト───
体に光系魔法を纏い、ダメージを半減させる光系魔法。
「コイツで仕上げだ。」
無系魔法…
「エクスプロージョン!」
巨大な爆発が空中で起こる。
『グガガガガガガッアアアァ』
「うおおおおおおおおッ!」
無系魔法エクスプロージョン。
体力の半分を消費し、自らの周りに大爆発を起こす魔法。
爆発に気づき、途中で手を離すがもう遅い。リサードの起こす爆発に腕が飲み込まれ、体は爆風で地面に叩きつけられる。
しかし、リサードも無事では済まない。
爆風の中から落ちていくリサード。このまま落ちたら体力がもたない。
『リサード!!』
「この声は…」
地面に落ちる直前ふわっと風が起き、スッと地面におりる。
「シロ。助かったよ。」
『まだだよ。』
「いや?」
振り返ると立ち上がっている阿修羅エイプがいた。腕は全て途中まで消し飛んでおり、垂れ下がっている。
「死んでるぜ?それ…」
だが、阿修羅エイプは2歩、3歩と歩き、4歩目で倒れ息絶えた。
リサードもシロもそれを確認する。
「タフだがあっけなかったな。」
『違うよリサード。周りを見て。』
「え?」
周りを見ると霧が出てきている。
「霧が…」
『それだけじゃないよ。戦闘中、配下のクワトロエイプも襲ってこなかった。』
「確かに…」
すると、また一つ声が聞こえた。
『アラ、やられちゃった♡』
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今回は珍しく昼に出しました。昼に更新できるように続けて行きたいと思います。




