6話 試練
1週間に一度のペースぐらいにはあげたいなと思ってます。
太陽が昇り、街が騒がしくなってくる時間帯になっていた。王都パラソルの中心街から南に離れたところに冒険者たちを労う宿屋が集まる場所がある。
そこは高級な宿ばかりが集まっており、道路沿いには旅館のような宿が立ち並んでいる。水はけの良さそうな砂をしいた道路には間隔をあけて街灯が立っており夜はぼんやりと光って、幻想的な雰囲気を醸し出す。
リサードはその中でも比較的安めの宿に泊まり、朝を迎えていた。
「ふぁー…」
きちんと敷いてある布団から上体だけを起こし背伸びをする。昨日は散々な目にあったため、今日はゆっくり過ごそうと思っていた。
S級のモンスターの誕生に加え、シルビアとキラに巻き込まれ散々だった。それに…
「結婚か………………………」
そう呟くだけで精神をごっそり持っていかれる気がした。仲の良い女の子なんてものは、昔から知っているシルビアぐらいなもので、これまで必死に戦いの日々を過ごしていたリサードには無縁だと思っていた。
俺に夫なんて務まるのか、俺は愛することが出来るのか。
「いかんいかん…」
そう言って、ぶんぶんと頭をふり思考を消す。今考えてもしょうがない、違う方法で認めさせる道もあるはずだ。
それに、S級モンスターを片付けなければそもそも引退なんて夢に消える。優先順位を整理し、立ち上がると洗面台で顔を洗い、インベントリからしっとりしたクッキーのような携帯食料を取り出して食べる。
朝ごはん代わりのそれは、リサードが今まで戦いの時から休みの日まで愛用しているもので、口の水分を奪うが、カロリーが高めで美味しさより栄養を補給することに特化したものだ。二つ目を食べ終えたあと、水筒を取り出し口の中に水分を行き渡らせる。
「着替えるか……」
白い長袖シャツに黒いジャージを着ていたので、服があっただろうかとインベントリの中を探ると戦闘服である茶色の革の装備と、マントだった布切れ。そして、七星剣の制服と聖剣。聖剣の名は〈パージグリン〉。浄化の閃光という意味が込められているその剣を見ていると歴戦を思い出し、つい物思いにふけてしまう。
七星剣のメンバーに選ばれると、七星剣の証として制服が渡され、戦闘やプライベート以外は着用が義務付けられる。街の人たちに七星剣がいることを覚えさせて、安心と憧れ、尊敬を与えるためだ。
そして、もう一つ、聖剣が授与されることだ。この聖剣というのは、昔から代々王族に継がれる7本の伝説級のステータスを誇る剣で、どこで作られたのか、誰が作ったのかなど謎が多い。
この剣が与えられた理由は光系の魔法を得意とするリサードにあっているという単純なものだ。
確かに、リサードの莫大な光系の魔力を注いでもビクリともしないことからしても、相当な耐久力が付与されていることがわかる。
珍しい光系の魔法を得意とするリサードには使いやすい。一つを除いては…
「結局七星剣で輪廻解放使えなかったの俺だけだったな…」
聖剣はただ、エネルギーを込めて使う他に、輪廻解放という秘技がある。ただ、リサードは何度も練習してきたが結局返すまでに使えそうにない。
誰かさんにバカにされるなぁ…そういってインベントリから取り出し柄に触れると先日の戦いでボロボロになったマントや防具の手入れを思い出す。
全部今日やってしまおうかとふと思い立ち、とりあえず今日の服ははこのままでいいか…と制服に着替え、防具屋に向かうことにした。
戦いの時に使うのだから早めに作ってなれておく必要もある。チェックインを済ませ、外に出る。
大きく息を吸い込むと新鮮な空気が肺に入ってきて体の中から力が出てくるようだ。
「よーっし…いっちょ防具直して散歩でもしようかな…」
そう言って歩き出そうとした瞬間…
ドンッ
「うおっ……」
「きゃっ……」
走ってきたフードをかぶった女性?と思われる人物とぶつかりよろける。
女性は転んでしまい可愛らしい声を出した。
全身をローブのようなもので包んでおりフードを深くかぶっているため、声を聞くまで女性とわからなかった。
「ごめんよ、考え事してて。。」
そう言って女性に手を差し出す。
すると、アンティーク調のペンダントが落ちていることに気づき拾って渡す。
「これ、落としまし…」
そういった時には既に姿がなかった。かなり慌てていたことから逃げているのかな?と周囲を見渡すが特に追手などは見当たらない。このペンダントどうしようか。しょーがない、後で落し物として王都に届けておこうと決め、朝からぶつかるとはなぁと愚痴ってみたりする。。
その時、ふと誰かの視線を感じる。
もう1度周りを見渡すがもう感じなかった。疲れが取れてないのかな…と気のせいと思うことにした。
その後は特に気にせず、俺も前に気を使って歩いていこうと決め、歩き出した。
…………………………………………………………。
宿から10分ぐらい歩くと中心街が見えてきた。そこの中心街にある防具屋や武器屋には目もくれず、中心街を通り過ぎ、北の方に進んでいく。すると
一見ただの小屋のような木でできただけの建物が見えてくる。店に入ると小さい部屋にカウンターがあるだけで一見何の店だか見当もつかない。
「いらっしゃいませ、リサード様」
カウンターの前に立つと自動で客と取り引きしてくれるロボットのクラークが接客をしてくれる。
この店の店主が作り、店員という意味のclerkからそのまま付けられたらしい。外見はゴリゴリのメカで、胴体と頭が一体となっており、頭にはぴょこんとバネが付いている。足はキャタピラのようなものが付いており、それで前後左右に動く。
動力源は電気だろうか魔力だろうか。機械やロボットはどちらでも動かせるが、ここまで意思を読み取り動かすには純度の高い魔力が必要だろう。それでも、多少の電力は必要だが。
しかし、この見た目にも関わらず、ロボット特有の機械音で流暢な言葉を喋るから驚きだ。
「おはよ、クラーク君。店主に用があるんだけど。」
「マスターは工房にいます。地図は使いますか?」
「大丈夫だよ。何回も行ってるから」
「連絡を送信しました。お気を付けください」
そう言ってぺこりとすると、ウィーンと機械音を立て目の光が消える。ここにはいなかったかと思いながら少し離れた工房に向かう。
裏の方を少し歩くと赤いレンガでできたカマクラのような形をした一軒家ぐらいはある工房が見えてくる。煙突からは煙が出ており、カンッと金属音が響いている。どうやら、作業真っ最中のようだ。
「すいませーん。ウォマーさん、今大丈夫ですかー?」
開いたままの大きな入口から顔を覗かせ声をかけると「おうよ!」としゃがれた返事がして金属音が止んだ。
中からグニッグニッと長靴特有の音を鳴らし、工房からゴーグルをつけ汚れた仕事服を着たおじさんが出てくる。身長は160cmくらいで結構ぷっくり体型だ。髪は後ろの方まで生えておらず、脇にふさふさと白髪が生えている。白ヒゲをモサっと生やしている。
「すいません。お忙しいところ。」
「その通り!忙しいのじゃ!」
そう言ってニカッと笑うとかけた前歯が見え堅苦しい印象から陽気な印象に変わる。
「今日は何のようじゃ?」
「これなんですが…」
「どれどれ、見せてみい」
そう言われ、インベントリから皮の装備とマントだった布を取り出し渡す。
「まあ、確かにこれはひどいな。マントに至っては原型がわからんほどじゃ。」
「あはは…すいませんなんか。」
「いやいや、それだけこいつらも戦ったということじゃ。光栄なこったなぁ?お前達。」
そう言い、防具を撫でる。我が子のように撫でるその姿にウォマーさんの防具に対しての誇りを感じる。その後、怪訝そうな顔で顎に手をやるとリサードに視線を向ける。
「しかし、普通に修理だけならクラークに渡しておけばいいだろう?」
「はい、実は改良してほしいんですよ」
そう言うと少し驚いた顔をしたがふーん、とうなり、中に入る。お前も入れ、と許可をもらい中に靴を履いたまま失礼する。
工房の中は熱気で溢れており、床は不揃いの鉱物や鉄をつぎはいでできている。奥にはには不揃いな武器や鎧が山のように積んである。さっきまで打っていたであろう剣や、燃え盛る釜などを見ているとガタッと音がした。ビール瓶が入っているカゴを反対にしただけのイスに座り、リサードに尋ねる。
「何か防具に希望はあるか?」
そう言うとえーっと、と考えるリサード。
「A級モンスターより強いモンスターに対抗できるぐらい丈夫で動きやすい感じのがいいです。」
そう言うと、ウォマーは顔をしかめる。
「A級以上…S級という奴か?…」
そう言われ、ドキッとする。
「え?ご存知なのですか?!」
「まあな。昔いろいろあったんじゃ……
まあ、その話は今度してやるとして…」
そう言うと俯き少しの静寂が流れる。
「単刀直入に言うと改良では無理じゃ。S級クラスに対抗するには、一から作らなければならん。」
「そうですか……
じゃあ、オーダーメイドをお願いできますか?」
「それなんじゃが、お前さんが今まで持ってきた素材じゃS級クラスの防具は作れん。S級モンスターの素材は絶対必要なんじゃ。それに他にもレアなものが沢山必要になってくる。」
「そんな、…さすがにS級の素材なんて…」
「そんなもん持ってるやつおらんじゃろうな。じゃが、可能性は残っておる」
「…え?」
「ついてきい。」
そう言うと山のように積んであった武器や鎧の山をどかしていく。すると下に親指程度の小さな隙間があった。
「そこに、杖をさしてじゃなぁ…」
そういって杖をさして、テコの原理を使いグググっと持ち上げると小さな扉が開き床下が開く。するとそこに鉄箱のようなものがある。
「これは?…」
「出して開けてみい。」
そういって少し歩き出し、タバコに火をつけてイスの元まで行き腰を下ろす。
リサードがその鉄箱を持ち上げようとすると結構な重量に驚く。リサードでさえ、これほど力を入れるということは、一般人では到底動かすことすらできないだろう。ウォマーさんでもこれを運ぶことはできないと考えると誰か別の人がここに閉まったものに感じる。
ドスンっと床に置くとホコリが舞い、舞ったホコリが熱気でクルクルと浮く。そして、中を開けると細長い小瓶が入っていた。やたら重かったため、何か大きいものが入っていると思い拍子抜けする。中には何やら赤い液体が入っている。
「何ですかこれは?…」
「これは、先祖が残したある魔獣の血液じゃ。」
「血液?」
「そうじゃ。ワシが受け継いだものでな。」
「何ていう魔獣の血液なんですか?」
長くなるがの、と言うとタバコの煙をふぅーっと吐き出した。
「それは、大魔獣ヒュドラと呼ばれる魔獣の血でな。七星剣の元となった7人の賢者の話は知っているじゃろ?」
ヒュドラ……ヒュドラってあの……?
「はい…確か大魔獣ヒュドラってその話に出てくるモンスターですよね?でも、これはただの伝説じゃ…」
「いや、この話は本当にあった話じゃ。」
サッと血の気が引く。大魔獣ヒュドラ、7人の賢者に出てくる不死の魔獣。
姿は九つの首を持つドラゴンで、神話の中でもずば抜けた凶暴性と食欲を兼ね備えた魔獣だ。
どんなに切り刻んでも死なず、大地半分ほどの食料を貪った魔獣は大地の怒りに触れ、マグマの中で息絶えたとされている。
「これがヒュドラの血とは…とても信じられないです…」
「まあ、そうじゃろうな。ワシもそうじゃった。」
そう言うとタバコをグリグリと灰皿に押し付けて火を消し、小瓶を持ち上げる。
「だが、これを見ろ。」
真っ赤な液体がまるで自分の力で動くようにウネウネと動いているのがわかる。不気味だが、どこか惹かれるものがあった。
「大体血液は持って3週間程度しか生きられん。冷凍保存しても1年が限度じゃ。しかし、な」
「こいつは先祖から受け継がれ、何100年とたった今でも生きておるのじゃ。」
驚き、もう1度のぞき込む。確かに、見れば見るほどうねりを上げる血液はまるでまだ貪欲に生きようともがいているように見えた。
「それと、7人の賢者の大魔獣ヒュドラじゃが、やつが不死と呼ばれていた所以がこの生命力にあるのじゃ。」
「生…命力……」
「そうじゃ、不死ではなく膨大な生命力が、何でも食ってしまう旺盛な食欲と永遠に感じるほどのスタミナを実現させていたのじゃ。」
そしてじゃな、と言うとウォマーは咳払いをする。
「この血液をお前の防具に使う。」
「え?いや、そんなレアなもの使えないですよ!それに、いくら金があってもそれは金額じゃ買えないですっ…」
そういってあたふたするリサードを見て少し微笑むウォマー。
「ただとは言わんがな。ワシも長くない。それに、他にS級に対抗する術はないじゃろ。お前には素材を提供してもらい、好きに研究ができている。ぜひお前さんに使いたいんじゃ。」
そう言うと照れくさそうに後ろを向いてタバコに火をつける。
それを見て、暖かい感情がこみ上げてくるのがわかった。
「ウォマーさん!ありがとうございます!」
深々と頭を下げ渾身の礼を言う。
「じゃが、条件が三つある。」
ウォマーの真剣な眼差しを真っ向から受け止め頷く。
「一つは素材は自分の力でとってくることじゃ。
そして、二つ目はワシが指定した防具と剣を使ってもらう。
三つ目はその旅路で回復薬、又は回復魔法を使ってはならない。」
「それは何でですか?」
「この血はを使うにはお前自身の肉体のレベルアップが必要じゃ。その上、コイツは強さに貪欲な者にしか扱えないとされている…」
「これが出来んようじゃ、この血はお前には使えん。ただ血に食われて死ぬだけじゃ。どうじゃ?受けるか?」
「分かりました。」
気づいた時には返事をしていた。
「その依頼受けます。S級討伐のため…そして、」
俺の弱さを殺すため。
2度と俺は負けないために。
そう言うと、リサードの覚悟を感じ取ったのかウォマーも頷く。
「そうか。ただこれはA級モンスター大連続狩猟じゃ。厳しい戦いになるじゃろう。プライドも何もかも投げ捨て挑め。」
そう言うとタバコをまた灰皿に押し付け消す。
「ワシから王都に報告しておいてやる。そして、最後にひとつ言っておく。食事は何を食べても良い。もう1度言っておく。何を食べても…じゃ。必ず生き残れ。」
どういう意味かわからず困惑すると、真剣な眼差しに射殺されそうになるが、フッといつものウォマーさんに戻り、少し安堵するが、それもつかの間。
「そうと決まれば善は急げじゃ。明日ここに馬車を向かわせる。」
「あ、明日ですか?」
「なんじゃ?怖気付いたか?」
言った手前逃げるものか!もう1度覚悟を決め直すと前を向く。
「行きます。俺は負けません。」
「そのいきじゃ、今日は帰って休め。明日の朝には装備と素材表をここで渡す。」
「ありがとうございます。」
「長くなるかもしれん。行く前に挨拶してくるんじゃな。大事な人たちに。」
そう言うと、よっこらせと立ち上がり棚から水滴のような形をした首飾りを取り出し、小瓶の血液を注ぐと蓋をしっかり閉め、リサードに差し出す。
「こいつはお守りじゃ。」
そういって、リサードの手に握らせると早く行け、と促せる。
「ありがとうございます…」
もう1度深々と頭を下げ、何も言わず作業をに取り掛かろうとする背中に背を向けて歩き出した。
A級モンスターの大連続狩猟。リサード自身初めてのクエストに不安を募らせながらもその目には強い意志が宿っていた。
───────────────────────────────────────
始まりの四月で忙しくなりそうですが、諦めないで進めたいです




