33話 英雄へ告げる
前回の続きです! どうぞ!!
大きな空は晴天を映し出していた。
ハースハイト王国の城から離れた場所に彼らはいた。強力な磁場を放ち、天然の結果いとも言える言わば戦闘場のような場所にいるのが幸いと言ったところだろうか。
そこに、白髪の青年は横たわっていた。
血液が熱く、鼓動がうるさい……
まるで、ぐつぐつと体の奥から、沸騰していくように熱い……
────ブシュッ
クロエは目を瞑った。
血しぶきがまう。
しかし、────
全く……痛くない……?
恐る恐る目を開けるクロエ。
すると、────
「爺や!!!」
ゼーノスの爪を背中に受け、口から、そして体には血が吹き出ている。
今のゼーノスの攻撃をくらいつつも、しっかり地面に足を立て、爪を引き抜けないようにガッチリと押さえ込んでいる。
「お嬢……ダメでしょう……全く手がかかりますな……」
「なんで……ここに……?!?!」
「私はいつでもお嬢様のそばに居たではありませんか……。 なんせ、私は執事でございますから。」
そう言って、一つ咳払いをするクラウス。
その咳には血が少し混じる。
「あ……!! ダメよクラウス!!」
近付こうとするクロエ。
「無礼をお許しくださいお嬢……」
クロエにそう言うと、クラウスの手から強風が吹き、吹き飛ばされてリサードに追突するクロエ。
「なっ………………爺や!!!」
────ドンッ
「うっっっっ…………?!」
「キャッっっ…………!!!」
リサードを押し倒す形になる。だが、リサードが下敷きになりクロエに大した怪我はない。
リサードも「うーん……」と声を漏らすが、特に大きな外傷はみられ無い。
体が熱い…………
頭も沸騰するよう……
……なにか重い………………ん?
「……戻ってきたのか……?」
衝撃と声に目を開けるリサード。
「ごめんなさい! リサード君!!大丈夫ですか?!」
そう言って、慌ててリサードの上から降りる。
ボヤけた視界がゆっくりと晴れていく。
「………………クロエ……?」
「……リサード君………? 大丈夫ですか……?」
その姿を見た瞬間リサードの体には、まるで電撃が走ったかのようにクロエの記憶が駆け巡る。
そして、体の熱が下がり思考が止まっていた頭がやっと動き出す。
ああ……目が覚めてきた……。
「……大丈夫だ。 それより、クロエこそ怪我はないか……?」
「はい!! でも!!」
そう言って、クロエの見る方向をリサードも追う。
すると、クロエに「爺や」と呼ばれている、白髪の執事が目に入る。 白髪と言っても純粋な白ではなく黒髪が年齢とともに白髪になったと言った感じだ。 オールバックだったであろう髪は、前髪が垂れスーツはボロボロで血と切れた布が大半を占めている。
彼が、クロエの言っていた執事で間違いないだろう。
こんな世の中でも、クロエを慕い続け支えてくれた恩人。
何としても助けねぇとな……
「わかった。クロエ下がっててくれ。 爺さん!今行くぞ……」
そう言って、立ち上がろうとする。
しかし、────
「うおっっっ…………」
「リサード君?!」
立ちくらみのように倒れるリサード。 脳がまだ熱く、視界が揺れ立っていられない。
それに、何だろうか。 体が鉛のように重い……。
「動けねぇ……。 なんでだ?!」
すると、ゼーノスとクラウスの方も状況が動いた。
「ヌゥンッッッ!!!」
体にくい込んでいたゼーノスの爪を引き上げ、みぞおちに肘打ちを入れるクラウス。
『ウガァッッッ!!!』
一瞬体の力が抜けるがすぐに立て直すゼーノス。
その一瞬の間にゼーノスと正面を向き合い、手を合わせ力比べのように構い合う2人。
そして、小さな声でゼーノスに話しかけるクラウス。
「ゼーノスよ……いや……」
「バカ息子よ……」
「「なっ…………………?!」」
む、息子ォ!?!?!?!
リサードは思わず咳き込む。
ん……???
今クロエも驚いてたような気が……
「……爺や…………………。」
クロエを見て、ヒヤリと汗をかくリサード。
「おい……爺さんは多分いい人だ。お前を裏切って言わなかった訳じゃねぇと思……」
「わかってますよ……。 」
クロエの優しく穏やかな目は、冷静さを失っておらず信頼の色すらもあった。
ただ……
「私の方が爺やのことを知っていますから……。 言われなくても重々知っています。」
はぁ……全く……俺としたことが……
ニヤリと笑うリサード。
「悪いな……。 野暮だったぜ……。」
クロエは視線をクラウスとゼーノスから動かさなかった。
リサードもまた、そう言うと2人に目を向けた。
『ギギィガゴ……』
「もう散々やっただろう。 せめて、最後は私の手で散らしてやりたかったがな」
『グガヴズゥゥゥ!!!』
遂に、両腕でクラウスを引き裂こうとするが、ゼーノスの手は動かない。
あの爺さん……強いが……
如何せん、出血が多すぎる。
すると、クラウスは目の前にいるゼーノスを無視し、リサードに語り始めた。
「……リサード君。」
「……………どうしたんだ、爺さん。」
グググとゼーノスを押さえ込んでいる辺りかなり力は強い。
目で圧倒されなければ、相当な戦力だっただろう……
すると、思いもよらない言葉をかけられる────
「…………''英雄''とは何だと思いますかな……?」
不意にクラウスはリサードに質問を投げつけた。
「…………''英雄''………?」
戦いの最中であるクラウスからそんな質問が来るとは思っていなかったため、少したじろぐ。
しかし、答えは要らないようだった。
「……それは、必ず勝つ人でしょうか? それとも、正義を持っている人でしょうか? はたまた、みんなに慕われる人でしょうか…… 。 いいえ、私が知っている''英雄''とはこの中のどれでもありません。」
「……………………………ッ……」
徐々に力でゼーノスに押されていくクラウス、口から垂れていく血は増えるばかりだが、クラウスはそれでも喋ることをやめなかった。
そして、クロエもまた真剣な眼差しでその光景を見ていた。
そして、────
「……転んでも転んでも立ち上がり、どんな惨めであろうとも大事な誰かを守りきる……。私はそんな方が''英雄''だと思っています……」
『ウガゴォォォォォッッッ!!!!!!!』
遂に力の均衡は崩れ、ゼーノスの力でクラウスの腕の骨は砕かれ力を失う。
そして、ゼーノスがトドメを入れようと構えた時、クラウスは体の力を全て抜き、あろう事かゼーノスに背を向けリサードの目を見てこう言い放った。
【「……守りきって見せてください。 あなたの大事な人を…………あなたの大事なものをッッッ…………!!!」】
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!』
ゼーノスの雄叫びともに轟音が響き渡る。
そして、────
「……………………………」
「…………………爺や……ッッッ!!! 爺やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
爆発するように消えるクラウス。
血しぶきはゼーノスだけでなく、リサードとクロエをも染めるかのごとく飛翔する。
リサードは何も答えられなかった。 クロエは膝から崩れ落ちる。咄嗟に支えたリサードの体にはクロエのか弱さと強さを伝わっていた。
……………………………………。
『ギギギギギ……イイイィィ?』
「…………………………………………………………………………」
スローモーションのような映像。
ゼーノスの顔だけがこちらを向き、ターゲットをリサードに向ける。
彼はどんな思いで俺に彼女を託したのだろう……
ほかの仲間達はどんな思いでこの戦いに望んだのだろう……
ヒュドラはどんな思いで俺に喰われたのだろう……
そして…………………
クロエはどんな思いでクラウスを見届けたのだろう……………
血は再沸騰を始め、最高地点へと到達する…………
トロり────
脳が溶けるような感覚
『ギャギャアァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!』
俺は……
リサードに突進を始めるゼーノス。
俺は…………
────カチッ……
「………………………………。」
黒剣アビスを抜き、構える。
俺は………………
『シギャアアアアアアアァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!!!!!!!』
そして、リサードは覚悟が決める。 今回3度目の赤い目。
しかし、その目をもってしてもなお、彼は紛れもなくリサードだった。
気持ちいい……
リサードは目を瞑る。
今まで手にしたことのないような大きな力。 ヒュドラが今まで培ってきた力の歴史の一部。
その、一部をまるで自分のモノのように感じることに、高揚感を感じていた。
そして、同時にあのぜーノスを圧倒して殺せると考えた時、大きな喜びが体に走った。
俺はきっととんでもない悪者だ……
この力が自分のではないのはわかっている。 ヒュドラの力を借りて俺が奴を殺すだけ。
それでも……
心地よい……
これも、俺の罪であり本当の俺でもある。
リサードは目を開け叫ぶ。
【「俺は罪人の剣士。 だが、俺の英雄伝に''引退''の二文字は要らねぇ!」】
呪系''英''技────
爺さん……アンタに見せてやるぜッッッ!!!
「罪を食らう者……」
「────────────ッ!」
一閃。
一瞬で振り下ろされたアビスは輝きに包まれ、その輝きはゼーノスを切り裂く。
視界が真ん中で断絶され、体は2つに分かれる。
その一閃はまるで大罪を割くように。
また、
食べやすいように……
"喰''らえ!!!
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!」
地面から9つの龍頭が現れ、ゼーノスの体を跡形もなく''喰''らい尽くす。
『────────────────』
純白の激光と濁黒の龍が混ざり合い、空間諸共を喰らい尽くす。
ゼーノスの雄叫びをかき消すリサードの咆哮、それに伴い反響する轟音。
それらの音が森全体を大きく揺らしたかと思えば、強力な磁場がハースハイト王国までの衝撃を防ぐ。
そして、静寂────
跡形も無く喰らわれ、姿を消したゼーノス。
ふと、クロエに近寄るリサード。
「さよなら。」
リサードはそう告げると空間魔法〈インベントリ〉を開く。
そこには、いつもの〈リサードのBOX〉の隣に見慣れないBOXがあった。
それは、赤い文字でこう書かれていた。
〈ヒュドラのBOX〉
リサードは選択し中身を確認する。
・女王の魔袋
・魔消のリング
やっぱりな……
そのうち、〈魔消のリング〉を取り出し自分の指にはめるリサード。
彼の目からはまだ、赤は抜けていない。
やることがある…………
すると、どこからとも無く黒いローブを着た2人の男が現れる。
「あなたがリサードさんですね……。」
片方の1人がそう言うとリサードは頷く。
「ザーバスさんから話は聞いています、ついてきてください。」
「……それより先に、みんなの安全を保証しろ。」
リサードがそう言うと、もう片方が頷く。
「分かりました。 先ほどゼーノスが撃たれたお陰でザーバスさんがこちらに向かっています。 それまで私が彼らの安全を保証しましょう……」
そういった所で、ふわっと風が起きる。
「……………………クッッ。」
リサードの剣がの男の喉元に向けられており、男は咄嗟にそれを剣で防いでいた。
ふむ…………
「それぐらい出来れば任せられる。 あとは頼むな。」
そういうと、「案内してくれ」と片方の男に何事も無かったかのように尋ねるリサード。
本気でやられていれば、何も考えることなく死んでいた……
だが、味方となれば心強い。
「わかりました。 彼をここに残らせます。 向かうは最果ての地……伝説の魔獣デミウルゴスが封印されている場所です。」
そう言って恐ろしいスピードで走り出す案内人の男。 しかし、難なくそれについていくリサード。
2人が消えると片方の男はへたりこんだ。
明らかに手を抜いた一撃、それでいて今まで受けたこともないような威力を感じ取った。
正直、自分でもどうやって防いだのかわからない。
強いて言うならば……
恐怖での脊髄反射。
その男は、ゆっくりと立ち上がり素直を落としてキラ、シルビア、クロエ、その3人の生命反応を確認する。
「化け物かあの男は……」
大きく空いたクレーター、謎の9つの穴、えぐり取られたような戦場に声を漏らす。
「赤目の引退勇者……。」
そうもう一度漏らすと、案内人の男は結界術式を貼った。
デミウルゴスと赤目の引退勇者……
もし、その戦いが見れるなら……
男として悔いはない……
そう、一筋の剣から感じ取らせる余裕に憧れを抱きながら……
────────────────────────────────────────
朝早くからすみません。あれこれ考えていたらこんな時間になったしまいましたm(_ _)m
これにて第2章は終わり……ということになると思われます。
もちろん、まだまだ私は書き続けます。ここまで読んでくれた方には本当に感謝の気持ちです。
読んでくれて本当にありがとう。 もし良かったらこれからも応援して欲しいです。
では、今回はこの辺で。
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