海賊魔王マリア
突き抜けて青い空を映す、碧く穏やかな海。
その上を悠然と進む豪奢な船。
海上の平穏は、異様な静けさによって破られる。
先程まで鳴いていた海鳥や、船と並んで泳いでいた海豚の姿がいつのまにかなくなり、不自然な程波は静かである。
見張りの水兵達が違和感に気づいた矢先。
ザバァーッ
静寂を突き破り、海面から伸びる巨大な幾つもの氷の柱。
「なっ!?」
「て、敵襲だー!!」
氷柱により取り囲まれ、騒然とする船内に駄目押しとばかりに侵入してくる魚人は手早く水兵達を無力化し、船員や乗客を縛り上げる。
そして始まる略奪。豪華な調度品や宝石、乗客たる貴族の装飾品などを手際よくむしり取り、何らかの魔法を使い海水で濡れないよう保護しながら海中へと運んでいく。
しかし貴族やその妻子には目もくれず、金目のものだけを強奪していく。
結局船や乗員には傷一つつけずに魚人達は去っていった。
船員達はその後港で知ることとなる。彼らは海底に住む魔王の兵士で、この辺に生息する珍しい人魚を捕獲しに来た貴族の船や密漁船のみを狙う海賊であり、命を取ったりはすることはないのだということを。
海に住む魔王は漁師には優しく、魚人達が漁を手伝ってくれることすらあるという。
今まで何人もの貴族が勇者を雇い討伐せんとやってくるらしいが、海に住む魚人達にかなうはずもなく敗北しているらしい。
その魔王の名前はマリア。母なる海に住む心優しき海賊魔王である。
ゆらめく淡い洋上からの光に照らされる、海の底にある氷の王宮。
その最深に一人の人魚の少女が貝殻の椅子に気だるげに腰掛けていた。
少し紫がかった薄水色の髪は短く整えられ、浅く二角帽子を被っている。少し気の強そうではあるが整った顔立ち。スタイルもよく魚のような下半身を覆う鱗は美しく虹色に輝いていた。
彼女こそ魔王マリア……ではないが彼女もまたマリアという。魔王であった母が勇者の凶刃に倒れた事を他の勇者達に気づかれないよう海の神殿の王位を継いだ若き女王である。
ちなみに母魔王を倒した勇者は神殿にて生かさず殺さずの状態で監禁されている。生かしているのは、殺してしまっては教国で蘇生されてしまうので、魔王の死を知らされてしまうからだ。
少なくともマリアが母から継いだ力を使いこなせるようになるまでは知られてはならない。
しかしマリアはまだ若く、王としての能力も未熟ではある。
ただ彼女は彼女を補佐する多数の臣下達の支えに助けられている。
それだけではなくこの海に住む数多の魚人や人魚達は若き女王を優しく成長を見守っているのだ。
マリアも母を殺し、同胞を拉致し見世物や奴隷としている人間が憎くはある、しかしそれと同時に優しい港の人々のことも理解している。
その為例え密漁者であっても命は取らず、略奪するのみとしているのだ。
「マリア様、略奪部隊が帰還しました」
声をかけてきたのは執事然とした老いた魚人。マリアの祖母の代からマリア達を見守り続けているベテランである。若い頃は海を荒らしまわり人々を恐怖させたという大海賊だったらしいが、今はそんな気配は露ほどもなく、悠然とした老執事の風格を漂わせている。
「マジで!」
「誠でございます。そして王女たるものそのような言葉遣いを……」
「今日は宴よ!じぃ、宴会の準備を!」
海の民を統べる王としての威厳を持ってもらうために度々忠言するのであるが、それを全く意に介さず宴とはしゃぐマリアに、老執事は嘆息した。
「なにをモタモタしてるの、早く帰ってきた皆を労うわよ!」
帽子を執事に押し付け先駆けるマリア。
海底の王宮の一日は今日も賑やかに過ぎていく。




