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悪食魔王ラフィス

 吸血鬼、とはいかなる者であろうか。

 月夜を背景に人の生き血を啜り、コウモリと共に飛び立つ得体のしれない化生。

 銀やにんにく、十字架を身に帯びることでどうにか退けることのできる怪異。

 人間からの認識はその程度だろう。


 実際に吸血鬼は人間やその他の生き物の血を主食としている。

 しかしそれはその血に含まれる魔力を喰らうためであり、血である必要はない。例えば魔力を十分に持つ魔獣の肉などでもよいのだ。ただ魔獣には獰猛なものが多く、自らを危険にさらしてまて魔獣を狩るよりは魔力を持つ他の生き物、人間やエルフ等の血液を吸う方が遥かに楽というだけだったりする。


 更に言えば吸血鬼、そしてそれを含む妖と言われるモノは人間などの生物よりは精霊と呼ばれるモノに近い性質を持つ、というより元来妖と精霊に違いはない。

 ただ精霊は人間やエルフが魔法を行使する際に魔力を得、その代わりに魔法を強化するという言わば人との共生を選んだ種族であるというだけである。




 そんな吸血鬼の中で真祖、あるいは純血だとか吸血鬼の王と呼ばれるのが魔王ラフィス……自称(・・)美食魔王である。



 ある雑然とした街、その一角にある一軒家でラフィスは目を覚ます。

 彼はとある目的のため出自を誤魔化し、街で暮らしている。ちなみに城は知り合いである他の魔王に貸している。


「主、メシの準備出来てるぞ」


 彼を主と呼ぶのはドアから顔を出した黒猫の獣人の青年である。

 ラフィスは大きく伸びをしてからテーブルへと向かった。


 テーブルの上にはこんがりと焼かれたトーストと、ベーコンエッグ、そして湯気の立ち上るオレンジ色のクリームスープである。


「えーっと、べリアリザードのベーコンにキジコッコの玉子の目玉焼き……んでそれがダンスキャロットのクリームスープ、んで食後に」

「新鮮なフォルベリーのジェラートが冷やしてあるよ!」


 黒猫の青年に続いて喋り出したのは既に席についていた白猫の獣人の青年で、デザートが待ちきれないのかやや垂れた猫耳をパタパタと動かしている。


「ふむ、フレイご苦労。ではレントも待ちきれないようだし食べるか」

「いえー」


 食事をとりはじめる三人。黒猫の方がフレイ、白猫の方はレントというようだ。


 それぞれの食材は一般的に食用には適さなかったり、有毒であると言われているものだ。しかしフレイの技術によって加工することで内包する魔力をそのままに美味しくいただけるようになる。


 ラフィスはかつて魔力をふんだんに帯び、とても美味なこれらの料理を味わってから、そのへんの人間の血では物足りなくなってしまったのだ。そして自らの使い魔たるフレイにその技術を覚えさせるところまでは良かった。


 しかし魔獣を狩るのに絶大な危険があるのだ。その上基本的に食用と思われていない肉が普通に流通している訳もなく、あったとしても魔術用触媒としての微々たるものである。





 そこでラフィスは思いついた。買えないのならば自分で狩りに行けばいいのだと。


 思い立ったら即行動、というより純粋なる食への欲求とでも言うべき速さで適当な街(出来るだけ人間が少なく様々な種族がごった返しているような)を選び目立たない場所の少し古びた一軒家を購入し、側近にして使い魔の二人の獣人を連れて街に住み着いたのであった。


 食事を終え冒険者の集まる集会所(ギルド)へ向かう三人。人間は少なく獣人やエルフなど様々な種族の集まるこの街に勇者の集会所などなく、またラフィスが魔王と呼ばれる者であると気づくものもいない。


 集会所には様々な依頼書(クエスト)が張り出されている。その中からラフィスが手にとったのはヴェルデラバードと呼ばれる巨大な怪鳥の討伐依頼であった。



「おお、ヴェルデラバードか……アレは揚げると絶品だからな。よし、これにするか」

「じゃあ行くか」

「おっけー!」


 意気揚々と出ていく三人を遠巻きに見つめる人々。


 ヴェルデラバードの肉……一般人にとって毒でしかないそれを美味と言いきるラフィスはその不思議と気品のある言動から『悪食貴族』なるあだ名で噂となっているのは、本人達のあずかり知らぬところである。



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