↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星刻の約定 ——Fragments of Laurant―  作者: 星詠 にしみん
Chapter Ⅰ 亀裂のディスコード(楽園への案内人)
44/52

変節  Ⅱ

この作品を手に取っていただき、ありがとうございます✨


原罪を背負う者と告解を求める声。

状況が動きます

 目の前に広がる光景は、想定していた中でも最悪の状況だった。

 

 撤退が遅れ、戦意を失った騎士が四名。

 周囲に点在する死体の群れ。

 明らかに異変を来している見習い(レン)。

 

 そして——

 

「あたしの相手はあなた?」

 

 どこか歌うような物言いと共に現れた女性。

 

 金色の髪、紅い双眸。装いは帝国の魔道兵が纏うものによく似ていた。

 

 ——警戒レベルを数段引き上げる必要がある。

 

 間合いは二メートル。

 

 彼女から溢れ出る魔力は人間の範疇を優に超えており、真正面から魔術の撃ち合いをしたところで、僕が力尽きるのは自明の理。

 

「……お初にお目にかかります。ミリア・エインズワース殿」

 

 その名を口にした瞬間。

 目の前の者は、目に見えて不機嫌に——

 

 いや。

 

「最悪。よりにもよって人間に名前を呼ばれるなんて」

 

「心底不愉快極まりない」と言わんばかりに吐き捨てた。

 

 それでも今すぐ戦闘行動に移るつもりがないのか……あるいは、いつでも殺せるが故の余裕か、彼女は動かなかった。

 

「帝国の重鎮が遠路遙々このような場所に足を運ぶとは意外でした。随分と暇を持て余しているようで、羨ましい限りです」

 

 毒を吐いたことが吉と出るか凶と出るか。

 

 可能なら、逃げ遅れた彼ら(騎士)が撤退するだけの時間を稼ぎたい。

 

 その為には、少しでも彼女との対話を繋ぎ止める必要がある。

 

「……そろそろ返して貰おうと思っただけよ」

 

 彼女の視線が僕——ではなく、後方に静かに佇んでいた人物へと向けられる。

 

 ——時間切れ、か。

 

 どうやら《銀雪の魔女》と謳われる局長であっても、例の対策は間に合わなかったらしい。

 

 無理もない。

 どう考えても彼の麻薬(エーデン)は侵食スピードが早すぎた。

 

 彼に投与された麻薬(エーデン)は特別製。

 何分、資料も情報も皆無といっていい。解析もほとんど進んでいなかったのだろう。

 

 理解はできる。

 だが、目の前の現実はその種の事情など考慮してはくれない。

 

「あなた、他の人間と違うのね。まさか神の創造物の加護があるなんて。……人間(粗悪品)には勿体無いわ」

 

「……何のことです」

 

 対話を続けているからだろうか?

 周囲の死体(ヴァーミン)は主の指示を待つように僅かな呻き声を漏らしながらも、動きを止めていた。

 

 視界の端では、ラバックとレンがお互いの間合いを測るように対峙している。

 

 彼女(ミリア)の声一つで、レンは剣を振るうだろう。

 

 今の彼の目に、ラバックは友人としても仲間としても映っていない。

 

 敵。

 

 まるで人形が操り手の指示を待つかのようだ。

 

「ふぅん? 何も知らないのね、あなた」

 

「では、貴女は知っていると? 是非伺いたいですね。例えば——貴女の目的だとか」


「あら? 魔術師なら想像はつくでしょう?」


「………………」

 

 彼女が手を空中に掲げる。

 

 魔力が集束するのを察知し、すぐさま対魔力防御を講じた。

 四名の騎士の分も考慮すると、展開範囲はギリギリだ。

 

 しかし——

 

「ぷっ……あははは!! ……滑稽だわ! 今の魔術師って皆そうなの? ……はー……おっかしい!」


 僕の行動を見たミリアは、突然笑いだした

「心底可笑しくて堪らない」というように腹を抱えて。

 

 一頻り(ひとしきり)笑った後に彼女が魔力を編んで生み出したのは、攻撃の術式ではなかった。

 

 一冊の古びた本だ。

 

 見覚えがある。

 魔術師の家系なら、必ず一度は目にする絵本。

 

「…………『Perditio et desperatio vobis afferantur.』」

 

 破滅と絶望が汝らに訪れんことを。

 

 ——とある妖精の告発文。

 

 ミリア・エインズワースは絵本の一節を歌うように読み始めた。

 

 ひどく機嫌が良さそうに。

 

 今から始まる殺戮が待ちきれないと言わんばかりに。

 

 嬉しそうに、楽しそうに。

 

「さぁ始めましょう? あの日の災厄の続きを」

 

 その声に応えるように、周囲の死体の群れがケタケタと嘲笑った気がした。

 

「たくさん殺して、たくさん奪って」

 

 今度こそ、舞台の幕が上がる。

 

 闘歌劇、戦歌劇、交戦劇


 ——殺戮。

 

「永遠に、永遠に、永遠に苦しみ続けて」

 

 まるで、用意された演劇を楽しむかのように。

 

「——————!!」

 

 息が詰まる。

 剣を握る手がズシリと重くなった。

 

 彼女の纏う魔力のせいか。それとも、この場がもたらす緊張感故か。

 

「それで漸く……あなたたちの罪は——許される!!」

 

 白日の下に晒され、裁かれるべき罪。

 

 無残に壊された、かつての愛。

 

「……ッ!! 東に向かって全力で走れ!!」

 

 僕の全力の叫びを嘲笑うように。

 

「人間(粗悪品)は皆まとめて、皆殺し!!」

 

 後方で、勢いよく剣を振るう音が響いた。


 その声に応えるように。

 

 一番近くで起動を待っていた死体(ヴァーミン)が、僕の行動を制するように飛び出してきた。

 

 攻撃というよりは抑制、といった印象を受ける。

 

 だが、陽動にも時間稼ぎにも付き合うつもりは毛頭ない。

 

 広げられた両腕は腐敗が進んでおり、脆い。

 少し斬りつけただけで、肉体は簡単に崩れ去る。

 

 しかし——ただ闇雲に斬りつけるだけでは、状況の打開など不可能だ。

 

 浅く斬りつける。

 致命傷に至らない、右上段への斬り上げ。

 

 目の前の死体は、僅かによろめいた。

 

——充分だ。

 

 その隙が何よりの好機になる。

 

 強化魔術を乗せた右足を、心臓のある位置に向かって蹴り上げた。

 

 体勢を崩した死体は勢いよく後方へ——死体の群れへと吹き飛んでいく。

 

 まるでドミノ倒しのように一気呵成に倒れていった。

 

 前が空いた、と脳が処理するのと同時に、全力で地を蹴る。

 

 逃げ惑う見習い騎士の背中に迫る鋭い爪を、剣の腹で受け止める。

 

 誰かが悲鳴を漏らす音が聞こえた気がするが、視線を向ける余裕はない。

 

 剣劇の音が響き渡る中、爪を押し返すと同時に素早く剣を振るった。

 

 体感時間はおおよそ数秒だというのに、既に焦りを覚えていた。

 

 次々と群がる死体を斬り上げていく。

 

 上段斬り、右、左。時折、後方からの気配に意識を割きながら。

 

 倒すことよりも、攻撃を防ぐことを優先して動いている。

 確実に殺せると確信を得た時のみ、心臓や頭を貫いた。

 

 数が多すぎる。

 斬っても、斬っても、終わりがない。

 

 今しがた斬り捨てた死体の血が視界を舞った。


 その時。

 

 閃光が目の前に広がった。

 明らかに展開範囲が通常のそれではない。

 

 間違いなく高密度の魔力弾。


 手をほとんど加えられていない、純粋な魔力の渦。

 

 魔力弾は基本的な攻撃魔術であるが、目の前の魔力弾は別格だった。

 本来なら手を加えて命中精度や威力を高める段階で、どうしても攻撃範囲は絞られてしまうはずだ。

 

 それなのに、目の前の閃光は「威力を損なわず、広範囲」である。

 

——どうする?

 

 目の前の魔力弾が、スローモーションのように迫ってくる。

 唯一の欠点は、着弾するまでの速さなのだろう。

 

 取れる行動は二つ。

 

 一つ、対魔力を高めて全力防御。展開している魔力防御と合わせて彼らを守る。

 

 デメリットは「全員を守れない」こと。誰か一人、あるいは二人、確実に——


 死ぬ。

 

 二つ、防御範囲を広げて周囲の人間全員を守る。範囲を広げた場合、自分に回す出力はない。

 

 デメリットは、僕が確実に致命傷を負うこと。

 

 全員を守るか、自己と少数防御か。

 

 正しい選択をするなら、少数を切り捨て、確実に防御し、次の一手を講ずる可能性を残すべきだろう。

 

 それでも——

 

——選べ、誰を切り捨てるのか。

 

 僕か、未来ある騎士か。

 

 時間は残されていない。閃光は目の前に迫っている。

 

 ミリア・エインズワースの嘲笑う声が、遠くで聞こえた気がした。

 

——彼女なら。

 

 きっと、あの騎士(シルフィ)なら、多数を守ることを選択する。

 

——僕もまだまだ、未熟でしたね……

 

 決して過信していたわけではない。

 

 けれど、何もできないと感じていたとも思わない。

 

「ねぇどうする?! ——最期くらい足掻いてみせてよ!!」

 

 告発人の責め立てる声。

 

 その告解を求める声は、きっと正しい。

 

 それでも、それでも。

 

「……『間違っていた』とは思いたくない」

 

 この選択が。

 

「誰かを守る(護る)」という選択が間違っていたとは——思いたくない!!

 

 身体中を流れる生体回路。

 魔力回路を通して対魔力の展開範囲を広げた。

 

 自身の位置を範囲から速やかに外す。

 

 魔力弾が目の前に差し迫った余波で、頬に熱いものが走った。

最後までお付き合いいただきありがとうございました!

こんな戯れ言に付き合っていただき、大変恐縮です。

これからも彼らの活躍を見守っていただけたら嬉しいです!


あなたにも風の導きが有らんことを

にしみん

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。