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ここはWEF-Japanの基地にある、「パドック」という名のティーラウンジ。
WEF-Japan隊員の神楽坂瑠璃と近田智一が、コーヒーを飲んでいた。
備え付けのテレビからは、急遽行われた総裁選挙で勝ち抜き、首相指名選挙で正式に日本の総理大臣となった大泉進次郎の記者会見の音声が、小さく流れている。
「小池前首相の言われた『アメリカの51州なる目的』は撤回します。
撤回とは、やめるということです。
また、WEF-Japanは憲法九条には接触しないことを申し添えます。
WEF-Japan、というかWEFは、宇宙からの脅威に対しての組織です。
WEFとは、自衛隊とは別の特別職です。
職員の個人情報は非公開です。
それから、そもそも自衛隊は国内を自衛するためのものです。
自衛とは、自らを侵害から守ることを意味するのですね。」
記者から、「当たり前だろう!」
という声も漏れてくる。
瑠璃は、近田がコーヒーに4杯も砂糖を入れるのを、眉をひそめて見ていた。
「近田隊員、入れすぎじゃないですか?」
「え、そう?
このくらいが、一番うまいんやで」
ブラックで飲んでいる瑠璃は、思わず「げえっ」と思った。
近田はさらにミルクもたっぷり入れて、かき混ぜながら話し出す。
「実はさ……。
大学生の頃、山で宇宙警官に助けられたことがあるんや。」
「え!?
瑠璃は思わず、飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
さらに近田は言う。
それは、あのファイターマンかと思ったんだけど、でなんか違うんだよね。?」
「へぇ、そうなんですか?
どこが違うんですか?」
「何と言うか、もっと、こう、かっこよかったんや。」
瑠璃の尻ポケットで、スマホがぶるっと震える。
「ん?
神楽坂隊員、何かメッセージでも来たんちゃう?
スマホが震えたような音がしたけど……」
「あ、あぁ、大丈夫です。
でも、その宇宙警官に、どのように会ったんですか?」
近田は、飲んでいた甘すぎてコーヒーとは言えない飲み物をそっと置き、話し出した。
「僕は昔から太っちょで食いしん坊で、自分に自信がなかったんや。
そんな自分が嫌になってね、ある日、自分を鍛えようと北岳に上ったんや。」
瑠璃は、「鍛える前に甘すぎるコーヒーをやめればいいのでは」と思いつつ、聞いた。
「北岳?
聞いたことない?
小説でも有名やで。
標高3,193メートル。
で、富士山に次ぐ日本で2番目に高い山なんや。
富士山と違うところは、高山植物の宝庫で、とにかく緑がいっぱいで、雷鳥にも出会えるんや。
僕は現地で売ってる、『北岳に来ただけ』ってプリントされてるTシャツを着て、上ってたんやけどね。」
瑠璃は、「それって何の関係があるんや」と思いながら次を促した。
「何人かの登山客に交じって、上ってたんやけどね。
八本歯と呼ばれる、山頂直下にある岩場が連続する所で、急に空が暗くなり、雷雨になったんや。」
「え、急に?」
「うん、他の登山客もびっくりしてね、慌てて雨具を出したりしてたら、突然、体全体がぼやっと光る人間たちが現れて、次々と、登山客を殺して食べ始めたんや。」
近田は思い出したように、ぶるっと震えながら、驚くべき話を始めた。
瑠璃は面食らった。
「!え!、え、」
「そんでな、わて、意外と怖がって、足がすくむかと思ったら、意外とそんなことなくて、その化け物たちに向かって行ったんやよ。」
「へぇ、凄いですね。」
「うん、自分でも驚いたけど、とにかく無我夢中やった。
この人たちを助けなきゃって必死やった。
ただ……」
「ただ?
どうしたんですか?」
「うん、その八本歯ってね、岩場が連続する特徴的な場所でね、視界が遮られやすい地形で、岩陰に隠れてた、一人の奴に気づかず体当たりされて、5メートルぐらい滑落しちゃったんや。」
瑠璃は息を飲んだ。
「何とか、飛び出してる岩にひっかかって、まっすぐ滑落しなかったんだけどね。
上を見ると、次々と登山客が襲われていくんや。
悔しくて、悔しくて。」
「じゃ、皆さんやられちゃったんですか?」
近田は遠くを見るような眼をして答えた。
「それがね……。」
雷鳴とともに、一人の巨大な宇宙人が現れて、その光る人間を一網打尽にやっつけてくれたんや。
瑠璃は手に持っていたコーヒーカップを落としそうになって聞いた。
「え、巨大な宇宙人?」
「そう、稲光の中でたたずむ宇宙人。
あれは、かっこよかったなぁ。」
「それは、ファイターマン?」
「だから、ちゃうって、もっとかっこよかったんや。」
瑠璃の尻ポケットで、スマホがまたもや、ぶるっと震える。
「ん?
神楽坂隊員、やはり、メッセージが来たとちゃう?」
「あ、あぁ、大丈夫です。
あとで、なだめ……いや、読みますので……」
「そう?
ま、ええわ。
そんで、その巨人、うん、ファイターマンと言うか、宇宙警官の雰囲気はしているんだけどな、僕に言ったんや。
『青年よ、君のいざというときに立ち向かう姿は素晴らしかった。
この調子で、頑張るんだ。
ファイトだよ、ファイと』」
瑠璃は驚いた。
「へぇ、ファイトと言ったんですか!?」
「うん、だから僕は、最近のファイターマンに関連付けて、ライトニングファイターと呼んでるんやけどね。」
「ライトニングファイター……」
「うん、そんで、ライトニングファイターはさらに僕に言うんや。
『何人かは助けられなかった。
残った方たちを君が無事に連れて下山してくれ』とね。
そして僕も滑落場所から、元の場所に戻してもらった後、実はライトニングファイターも、怪我をしているらしく、スーッと消えて行ったんや。」




