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北区・王子、都電、JR、地下鉄南北線が乗り入れるこの街は、古さと新しさが混在している。老朽化が目立ち、近々立て直しが決まっている王子駅近くのボウリング場で、東峰尚人と神楽坂瑠璃は、楽しくボウリングに興じていた。そこは、昭和の残り香を色濃く漂わせる、どこか懐かしい空間だった。
レーンには、長年使い込まれたであろう、かすかな傷が幾筋も刻まれている。壁には、色褪せたポスターや、かつて栄華を誇ったであろうチームの記念写真が飾られ、時の流れを感じさせた。ボールがレーンを滑る鈍い音と、ピンの倒れる乾いた音と、油と、微かに甘いコーラの匂いが混じり合った空気が、この場所の持つノスタルジックな雰囲気を一層引き立てていた。
「やった!東峰クン、ストライク!」
ピンが全て倒れるのを見て、満足げにガッツポーズを取る東峰尚人。
東峰は身長168cmの都内の神庭大学に通う大学3年生。まだどことなく幼さを残すルックスをオーバーサイズのシルエットのTシャツ、パーカー、ワイドパンツなどが助長している。東峰は、同じ北区にある天宗高校時代からの友人である瑠璃に好意を寄せていたが、彼女が突然、自衛隊に入ってしまい、何か隠し事をしているような空気を感じるため、恋人同士になりきれずにいた。
「るり、るりだよ」
「はいはい、わかっているわよ、二人しかいないんだから」
と、笑いながら、瑠璃もボールを投げる。
ガターン!
東峰はのけぞって笑い転げる。
「ははは、ざあーねん!ガターですね」
「ふん!」
「まったく、瑠璃は俺よりバイクや車の運転は上手なのに、スポーツはからっきしだめだよなぁ」
「うるさいわね!」
瑠璃自身も、乗り物を乗りこなす特技はあるものの、スポーツは苦手意識を持っていた。
スマホの中の宇宙警官も笑い転げている。
「ちょっと!
何笑ってんのよ!」
「え、あ、いや、なんでもないです」
東峰がスマホに怒っている瑠璃に怪訝な顔をする。
「何、しているの?」
瑠璃はごまかす。
「あ、い、いや、なんでもないわ……あ、次は東峰クンよ」
「う、うん」
続いて東峰がボールを投げようと準備をしていると、瑠璃のスマホが着信を知らせる。応答した瑠璃の耳に、国連地球防衛軍日本支部WEF・Japanの山桐剛士隊長の声が飛び込んできた。
「神楽坂隊員、休暇中に申し訳ないが出勤してくれ、緊急事態だ!」
「え、はい!」
慌てた瑠璃は、今、ボウルを転がそうとしている東峰に声をかける。
「東峰クン、ごめんね。
呼び出されちゃった」
「え……」
唖然とする東峰を置き去りにして、瑠璃はつんのめりながら駆け出した。
走りながら、瑠璃は呟く。
「まったく、私って、ボーリングだけでなく、スポーツはだめだなぁ……。
本当にどうして私のところに突然、WEF・Japanから推薦状が来たんだろう……。
他の隊員のみんなは凄い人ばかりだというのに、なんだかかっこよさそうと思って、大学進学よりそっちを選んじゃったけど、失敗したかなぁ」
すると、スマホから、宇宙警官の声が聞こえてきた。
「え、ルリさん、そんなこと考えていたんですか?」
「うん、そうよ。
他の隊員のみんなといつも私を比べて落ち込んでしまうのよ」
「ルリさん、落ち込んでいたらだめですよ。
ファイトですよ、ファイトです」
瑠璃は苦笑する。
「宇宙人なのにファイトなんて言葉知っているの?」
「もちろんですよ。
ファイトって言葉、いいじゃないですか!
なんだかパワーが出てくる言葉ですよね」
瑠璃は笑いながら
「なんだか元気が出てきたわ。ありがとう。
あ、あなたの呼び方、ファイターマンにするね。
宇宙警官なんて堅苦しいし」
「はぁ……
、ま、その呼び方でもこちらは構いませんけど」
「よし、決まりね。ファイターマン」




